29.薬草と尾行の理由と酒場
更新優先で誤字脱字が多いかもしれません。
また、前話にて表現を少し追加させていただきました。
「遅かったわね」
「そうですか? 日暮れまで時間はありますし、夕方のラッシュ前ですし、早いと思いますけど」
不満そうにジトッとこちらを見るカロルさんに、何でもないかのように応える。
そんな表情に出すと、自分が尾行していたのを教えているようなものだと思うのだけれど。
「それはそうと、理由は聞かせてもらえるんでしょうか?」
「何の話かしら?」
「大声で尾行されていたことを叫んでもいいんですね。わかりました」
「わかったわ。ここでする話じゃないから、裏に行っても良いかしら?」
「先に依頼の報告をしたいんですけど」
わたしの中で、だんだんカロルさんの扱いが雑になっている。
悪い人ではないのだろうけど、やっぱり殺されかけたというのが、尾を引いているらしい。
あとは、魔術のことになると面倒になるんだろうなと思うと、真面目に話をする気も失せる。加えて今回は尾行されていたことへの当てつけ、といったところか。
それに、あのパーティに関しては、助けたのだから文句を言われる筋合いはないと思うのだけれど。
「それなら、セリアも一緒に連れて行くわ。それでどうかしら?」
「依頼の処理をしてくれるなら」
「それじゃあ、行くわよ」
◇
もう何度目かになる小部屋に連れて行かれ、毎回のように座っている椅子に座る。
セリアさんも遅れて入ってきたところで、「先に依頼の処理をお願いします」とセリアさんに、袋を渡す。
受け取ったセリアさんは「失礼します」と断ってから、薬草を確認する
「確かに受け取りました。すべて依頼された薬草で間違いないでしょう。
初めてで間違いがないのは流石ですね」
「ありがとうございます。ところで、これも薬草なんですか?」
少しずつだけ集めたサンプルをセリアさんに渡すと、彼女は目を丸くして、それから確認するように袋の中を確認する。
「はい、すべて間違いありません。ランクで言えば、依頼で採ってきていただいたものよりも、1つか2つ上になりますから、高価なものではありませんが」
「いえ、薬草であることがわかれば大丈夫です」
それだけわかれば、今後薬草を集める依頼をこなすのが楽になる。
あとはゴブリンの討伐についても、報告しておこう。
「あとこちらの確認もいいですか」
「これは……ゴブリンの討伐部位と魔石ですね。確かに受け取りました。
やはりシエルメールさんには、魔法袋があったほうが良いかもしれませんね」
「魔法袋ですか?」
「見た目よりもたくさん入る袋です。重さも感じなくなる上級ハンターやソロのハンターにとっては垂涎物だといえるでしょう」
「そういえばカロルさんも使っていましたね」
戦斧なんかも入っていたあれが、魔法袋なのだろう。
あると確かに討伐依頼などははかどりそうだ。
「欲しいですけど、高そうですよね」
「上級ハンターにでもならないと、個人での所有は難しいですね。
錬金術師系の職業でないと作れないといわれていて希少ですから、小さいものでも金貨が必要になるといわれています。ただ、実績さえあれば、ギルドから貸し出すこともできるんですよ」
セリアさんはここまでしか話さなかったけれど、実績を作れということなのだろう。
ギルドが貸してくれるというのも、大きな魔物を討伐したときや、依頼で大きなものを運ぶときに必要だからということかもしれない。
魔法袋は気になるけれど、今すぐどう出来るわけでもなさそうなので、本題に入るためカロルさんの方を見た。
「それで、なんでカロルさんはわたしの後をつけていたんですか?」
「それよ! どうしてワタシに面倒ごとを押し付けたのかしら?」
考えていたはずのカロルさんは、わたしの言葉に聡く反応して不満げな顔を見せる。
質問に質問で……と言いたいが、わたしが言えた義理ではないので、黙って答えることにした。
「面倒になりそうだったからです。
わたしが助けたとして、彼らが納得するかもわかりませんし、カロルさんなら助けたとして彼らが不審に思う必要もなければ、下手に目立つこともないですよね?」
「確かにそうだけれど、面倒なものは面倒なのよ」
「では、助けないほうがよかったですか?」
「そうは言っていないわ。貴女が助けなければ、ワタシが助けるところだもの」
だったら良いじゃないかと思うけれど、押し付けられた事実は消えない。わたしが殺されかけたことを根に持っているのと、変わらない。
カロルさんは諦めたように肩を落として、「まあいいわ」とため息をついた。
「後をつけたのは、一種の洗礼みたいなものよ」
「どういうことですか?」
カロルさんの言葉にさらに疑問を重ねると、カロルさんがセリアさんをちらっと見た。
「かつてG級からランクを上げた人であっても、E級から始めた人であっても、E級の死亡率が高かったんです。前者であればF級で町の外に出るのに慣れてしまうため、後者であればE級から始められるという過度な自信から、周囲への注意が疎かになってしまうんですね。
そのため、E級に上がったばかりのハンターを対象に、内密にテストを行っています」
「上級ハンターが後をつけて、町の外で気を抜いていないか見ているということですか」
「D級以上のハンターに頼んでいますから、正確には上級ではないですが、その認識で合っています。
仮に町の外の気を抜いてはいけない状況で無防備になるなどした場合には、警告の意味を込めて驚かしてもらっていました。
それをシエルメールさんにも行ったのですが……」
そこまで話すと、セリアさんがカロルさんを見る。
わたし個人ではなくて、ギルド全体としてやっているのか。常に死と隣り合わせだったわたし達と違って、新人ハンターであれば町の外でずっと周囲を気にしておくというのは難しいかもしれない。
そういうことであれば、これ以上追求する必要もないだろう。
「ワタシも簡単に見つかるとは思ってなかったわよ。
というか、貴女探知の魔術も使えるわけね。道理で見つかるわけよ」
「探知なんて使っていないですよ?」
試しにとぼけてみたけれど、カロルさんは「間違いないわ」と頑なだ。
実際探知を使ったし、バレるようなこともしたけれど。でも、いつ使ったかはわかっていないのではないだろうか。いまも使っているけれど、何も言われないし。
「使っていないと、こうも薬草だけをより分けて持ってこれるわけがないもの。
この間まで外に出たことがなかった人が、見た目だけでわかるわけがないわ」
「確か探知って難しかったんじゃない?」
「ええ、難しいわ。そもそも、やり方が確立していないから、使う人によって違うのよね」
探知って難しいのか。そうでもなかった気がするのだけれど。でも確かに、あの部屋には探知の魔術に関する本はなかったかもしれない。わたしが知らないだけの可能性もあるけれど。全部読んだわけではないので。
下手なことを言って興味を持たれるのもあれなので、「それでテストは、どうだったんですか?」と話を逸らす。
「確認するけれど、貴女ずっと結界使っていたわよね?」
「使っていましたね」
「それでどう不合格にすればいいかわからないわ。見た目には隙だらけだったんだけれど、それもワザとよね?」
それについてはワザとではないので、笑ってごまかす。
隙だらけというか、隙が無いというのがどういう状態なのかわからない。常に周りを監視して、すぐに動ける状態を言うのだろうか。
「そういえば、あのハンター達はどうなったんですか?」
「無事帰ってきたわよ。依頼は失敗ということで処理されていたから、パーティ内で諍いがあったみたいだけど、そこまでは面倒見切れないわ」
「まあ、生きているならよかったです」
とは言ってみたものの、別に良かったという感じはしない。
目の前で行われていないからか、なんだか他人事のような心境だ。きっと、他人のことを気にしているような状況ではないからだろう。
「これで納得したかしら?」
「カロルさんが付いてきた理由はわかりました。明日からはどうしたら良いんですか?」
「朝はワタシのところに来て、ハンターに必要な技能を教えるわ。
昼からはセリアが指定した依頼をこなして、あとは自由よ。技能の習得とすべての依頼をこなすことができれば、D級になれるわ」
「それって言ってよかったんですか?」
聞いてよかったなら、もっと早く教えてくれていてもよかったと思うのだけれど。
ちらっとセリアさんを見ると、彼女も少し困ったような顔をしている。
「本来ならお教えできるものではありません。ですが、D級になるために必要な依頼というのは、一般に広まっているのも確かです。
シエルメールさんの場合、昇格の条件がやや特殊にはなりますが、教えても無茶はしないと判断したためカロルに許可しました」
一般に知られていて意味があるのかと思ったけれど、大事なのは依頼を知ることよりも、依頼を達成することなのだろう。
どんな技術が必要になるかというのは、想像でしかないけれど、野営の方法とか、今日のテストのように町の外での安全確保などはありそうだ。
「わかりました。ありがとうございます」
「話はこれで終わりよね。この後は何か予定はあるのかしら?」
「特にはないです。でも酒場があるなら、行ってみたいですね」
「行ってもお酒は飲めないわよ?」
「情報収集といえば酒場だって聞いたことがあるので、今後必要になるかなと思いまして」
「確かに情報を集めるのに酒場は使うけれど……」
情報収集は酒場というのは、何となくわたしがそう思っているだけだけれど、集めようと思えばかなりコミュニケーション能力が必要だと思う。
生前のわたしだったら酒場に行っても、適当に注文してそれがなくなれば帰っていただろう。
そう考えると、今のほうがコミュニケーション能力は高いのだろうか。一度死んでしまったことで、変なところが振り切れているのかもしれない。
この国にいる間は、コミュニケーションがうまくいかずに誤解されても、大きな問題にならないからだろうか。まあ、わたしも人見知りしてしまうと色々大変なので、シエルには悪いが付き合ってもらうことにする。
閑話休題。
酒場の名前を出して悩むカロルさんだけれど、この世界でもお酒には年齢制限があるらしい。
10歳の女の子が飲むと考えると、年齢制限関係なく止めるところなのかもしれないが。何より酔った大人に絡まれる可能性もある。
わたしというか、シエルは絡まれたところで返り討ちにできるだろうけれど、それはそれで目立ってしまうか。
「公認酒場に連れて行ってあげればいいんじゃない?」
「確かにあそこなら、すぐにトラブルになることはないわね」
「公認酒場って何ですか?」
「公認酒場とは、正確にはハンター組合公認の酒場のことです。
万が一、町や村が魔物に襲われた時に、ハンターが全くいないという状態を失くすために、いくらかのハンターは村や町で待機してもらうことになっています。
ですがハンターは気性が荒い人も多いですから、その受け皿となっているのが公認酒場です。どれだけ騒いでも問題はありませんが、ハンター同士の争いは行わないという決まりがあります。これを破ると最悪ハンターとしての資格を失いますから、シエルメールさんが行っても変に絡まれることはないでしょう」
「じゃあ、そこに連れて行ってくれませんか?」
公認酒場についてわかったので、カロルさんの方を見ると、あからさまに嫌な顔をして「わかったわよ」とつぶやいた。