28.薬草採取と厄介事
9/24 表現を追加
意気揚々とハンター組合から繰り出し、向かう先はサノワに来たときにくぐった側の門。
理由はあの時のおじさんがいないかなと思ったから。この依頼を選んだうちの理由のいくらかは、使う門がギルド近くの方になったからというのがある。
せっかくの初依頼、わたしだけでやりたかったというのもあるけれど。
道をまっすぐ行けば見えてくるので、迷う事無く門にたどり着くことができた。
相変わらず、兵士が門番として働いている。名も知らぬおじさんも立っていたけれど、仕事の邪魔になるのではと気が付いたので、声をかけるのはやめておいた。
どうせ町に入るときに引き留められるだろう。
少し残念に思いながら門をくぐるとき、おじさんがわたしに気が付いたらしく「ハンターにはなれたか?」と訊いてきたので「おかげさまで」とだけ返して、頭を下げた。
それだけで、なんだか満足した気分になったのだけれど、門を出た後に改めて考えてみると悪手だったように思う。
真面目な話、あまりあのおじさんと仲良くなっても、わたし達は最終的にこの国を出るのだから、良いことはない。
とは言え、1年はいることになるだろうから、ある程度親しくしていても良いかもしれない。
町の外に出るたびに、子ども扱いされてやり取りをするのは面倒だから。
今日は晴天。気持ちがいい青空の下、散歩気分で薬草を探そう。
サンプルの薬草はもらうことができたし、専用の袋ももらった。今日はそんなにたくさん取っていくつもりはないので、一袋。それでも、依頼に必要な量の倍は入るらしい。
ギルド出たところから、気になることはあるけれど、予想もできているので町を出た段階で何もないなら大丈夫。
今回の薬草だけれど、草原の日当たりのいい場所に生えているらしい。
そしてその草原は、シエルがサノワにやってくるときに通っていた道の左右にある。
一面草原の中から、探さないといけないらしい。
なるほど、受ける人が少ないわけだ。草原には動物や小型の魔物くらいはいるみたいだし、何より草原に入ったらすぐに見つかるというものでもない。下手したら丸一日探して成果ゼロということもあるだろう。
『これからどうやって見つけるの?』
『探知を使ってみようかと思います。薬草はどうやら魔力を持っているみたいなので、すぐに見つかると思うんですよね』
そう、サンプルをもらったので確かめられたが、薬草の魔力は絶対にあると思っていた。何せ効果が高すぎる。
この世界の人は自己治癒能力が高いのかなとも思ったけれど、シエルが切りつけられたときは、治るのに結構時間がかかった。具体的な時間はわからない。時計もなかったし。
だとしたら、と思ってサンプルを借りてみたのだけれど、微弱だけれど魔力を感じることができた。魔石とも、わたしやシエルとも違う感じの魔力。
集中して、普段は無視している魔力の反応を探ってみると、そこら中で反応があった。
でも気になるのは、なんだかちょっとずつ反応が違うこと。
試しに手近なところに行ってみると、サンプルとは似ても似つかない草が生えていた。
『違いますね』
『でも、反応はしているのよね?』
『ですから、たぶん何かには使えると思います。でも、依頼のものと違いますから』
『どうするの?』
『少しだけ採取して、セリアさんに聞いてみましょうか。
もう一人なら、今すぐにでも来てくれそうですけど、頼むと面倒がありそうですし』
『もう一人?』
『ずっと、あとをつけている人がいるんですよ。
たぶん、声をかけたが最後魔術トークが始まります』
わたしの言葉にシエルが納得したような声を上げる。
反応を追って行くうちに、必要な薬草を見つけたけれど、1か所では依頼の量に足りないため反応があった草のサンプルを取りつつ反応を追っていく。
日が高くなったころに、もらった袋がいっぱいになったので、薬草摘みを終えることにした。
『まだ時間がありますし、魔石でも集めますか?』
『見られているのに良いのかしら?』
『魔法陣の試運転ということで、試してみるのは必要ですから。
それに、気が付けば森の近くまで来ていますからね。万が一があっても、奥の手を悟らせずに戦おうと思えば戦えます』
『それなら、森に入ったところで入れ替わりましょう?』
『わかりました』
◇
この辺りの魔物だと、Dクラスのフォレストウルフや大蜘蛛、Eクラスのゴブリンやコボルト当たりが生息している。森の奥の方に行くと、Cクラスの魔物もいるらしいけれど、めったに浅いところにはやってこない。
蜘蛛が出てきたら即死させるとして、本格的に狩るつもりはないので、探知でEクラスっぽい魔物を探してシエルに場所を伝える。
シエルは鎌鼬の魔法陣を使ってスパッと狩る。鎌鼬なんて言っても、手を加えたこれは所詮は風の刃でしかなく、サイクロプス相手だと軽く皮膚を切る程度だろうけれど、Dクラスまでなら一撃で倒すことができるだろう。
狩って、討伐部位と魔石を取って、燃やす。素材として、売ることができる部分もあるけれど、大きさ的に持っていけない。魔石+討伐部位だけでも、10体分も持っていけないだろう。
群れに鎌鼬を使うだけで持てる上限を超えるというのは、なんだかもったいない。
というわけで、試運転が終わってもまだまだ日は高い。
いったん帰って、改めて来ることもできそうだと思っていたけれど、探知にたくさんの反応が引っかかった。
『どこかのパーティと魔物の群れが遭遇しそうです』
『それはこの近く?』
『そうですね。こちらに何かあることはありませんが、10体の魔物に対して4人です』
そういったところで、少し離れたところから「おおぉぉ」と気合でも入れるかのような声が聞こえた。
それから、金属がぶつかり合ったときの高い音も聞こえ始める。
『少し様子を見てもいいですか?』
『良いけれど、良いのかしら? 見られているのよね?』
行くのは良いけれど、ハンターとして行っても良いのかしら? といったところだろうか。
わたしとしては、パーティでの戦い方を少しだけでも見ておきたいだけなので、大丈夫だと思うのだけれど。
『ダメなら見てる人が接触してくるでしょう』
『そうよね。じゃあ、こっそり様子を見る感じで良いのよね?』
『お願いします』
シエルがこっそり木の陰から様子をうかがうと、今朝見かけた若いパーティがゴブリンの群れと戦っていた。長剣、片手剣と盾、魔術、弓のパーティはバランスが良いのかはわからない。
でも、ぼろの武器しか持っていないゴブリン相手に苦戦しているようなので、あまり強くないのだろうか。
前衛が2人いるが、10体のゴブリンを抑えきれずに、じわりじわりと被害が出ている。
対してゴブリンだけれど、闇雲に突っ込んでくるのではなくて、ある程度統率が取れている。どうやら、一回り大きいゴブリンが指示を出しているらしい。これではどっちが人かわからない。
あれがゴブリンリーダーという奴だろう。Dクラスまではないものの、Eクラスの最上位くらいの強さらしい。E級ハンターであれば、4人では辛いのではないだろうか。
『なんだか連携を見るという状態ではないですね』
『9対3で見てみるのよ。長い剣を持っている人がちゃんと働いていないわ』
シエルに言われるままに、見方を変えてみると、片手剣使いが盾を使いながらゴブリンを押しとどめ、その間に後衛が攻撃をするという最低限の連携はできているように見える。
だけれど、9体を1人ではどうすることもできないといった感じだろうか。むしろ、E級であれば前衛の能力はかなり高そうだ。
もう一人前衛がいれば、もう少し楽に戦えるだろう。
では、残り1人はどうしてるのかといえば、リーダーに突っ込んでいる。一見伯仲しているようで、指示を出しながら戦っているリーダーのほうが強いだろう。
放っておけば、ハンター側が負ける。
んー、何か学べればと思ったけれど、見殺しにするか助けるかの択になってしまった。
『ハンターとしては、見捨てるのが正解だと思うんですが……』
『助けたいのよね?』
『どうでしょう? 助けたいような、助けた後の面倒事が嫌だなと思うようなって感じです。
助けること自体は簡単ですからね。見ている人がどう感じるかってところもあります』
助けるのはシエルだけれど。
助ける→感謝される→付きまとわれる、とかありそうだし、助けたところで彼らから相応の報酬が得られるとも思わない。でも、もしかしたら、ギルドから何かもらえるかもしれない。
あと目の前で人が死ぬというのは、気分が悪い。
おそらくネックなのは、助ける義理はないけど、助けること自体は片手間でできてしまうこと。
これでシエルの命がかかっているのであれば、間違いなく逃げるのだけれど、あのハンターたちを全滅させた後でこちらを襲ってきたとしても、数秒で片が付く。
それから、シエルがどちらでもいいというスタンスなのも、悩みどころの1つ。
『目の前で死なれても気分が悪いので、助けたいんですけどいいですか?』
『ええ、私は構わないわ』
『その時なんですが、右斜め後方にある木から魔術が飛んでいったように見せてください。
助けた後の面倒ごとは、今までずっとこちらを観察していた人にしてもらいましょう』
『ふふ、エインは意地悪な人なのね』
楽しそうにシエルが笑って、隠している魔法陣の一つに魔力を込め始めた。
いままで使っていた鎌鼬ではなくて、氷の矢の魔法陣。わたしのことを意地悪と言いながら、シエルもなかなか凝ったことをするものだ。
頼んだ通りの場所から氷の矢が飛んでいき、5体のゴブリンの頭を貫いた。
ハンター達も既に3体ほど倒していたので、あとはリーダーともう1体なので何とかなるだろう。
『逃げましょう』
『どっちに行くのかしら?』
『出てきた門でお願いします』
短いやり取りをして、シエルが走り出す。
せっかくなので、歌姫のサポート付き。
ハンター達は急に現れた氷の矢に驚き、飛んできた方を見る。見られた側の反応はわからないけれど、わたし達についてきている様子はないので、うまくごまかしてくれるだろう。
森を抜けて草原を半分くらい進んだところで、シエルと入れ替わる。
それから歩いて門に戻ると、まだおじさんが門番をしていた。
わたしを見つけると、安心したように手を振る。
「よう嬢ちゃん。無事帰ってきたみたいだな」
「薬草取ってきただけですから。ゴブリンくらいなら、いてもいなくても一緒ですし」
「普通はゴブリンでも苦戦するんだがな。まあよく戻ってきた」
初日と違いすんなり通してくれたので、お礼を言って町に入る。
まっすぐ道を抜けて、ハンター組合に入ったら、カロルさんが何か言いたげな目をわたしに向けていた。





