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209.説明と問いかけと実力

 依頼もなかったし、とりあえず面倒な現場から離れるために、そそくさと町の外、森の中に入る。ミアはいつもと変わらない様子で使用人らしく静々とついてくるけれど、パルラとベルティーナの二人は町を出る少し前くらいから緊張した面もちでついてくる。

 とりあえず、魔物がいないルートを通っているので許して欲しい。万が一の時には、結界で守ることも視野に入れている。


「妙なことに巻き込んでしまいましたね」


 周りに誰もいないことを確認してから足を止め、振り返ってから二人に声をかける。シエルにはもう少しだけわたしが表に出ていると伝えている。むしろ今日一日は表に出ていたらいいんじゃないかと言われたけれど、それは断った。

 もちろんできるだけシエルの時間を奪わないようにと言うのもあるけれど、シエルが表に出ていないと魔物を倒せないから。いや、わたしでも低級の魔物くらいは倒せるけれど、シエルほど動けないわたしだと絵面が問題になる。


 魔物の攻撃を全て結界で受けて、正面から殴る。端から見たら、相手の攻撃を全て受けているように見えるだろうから、パルラとベルティーナの心臓に悪いと思う。

 あと単純に時間がかかるし、シエルのように複数を警戒しながらの動きとかできる気がしない。


 それは良いとして、わたしに声をかけられた二人は、一瞬びくっと驚いたように体を跳ねさせてから、お互いに顔を見合わせた。それからパルラの方がこちらを向いて口を開く。


「ううん。大丈夫だよ。あたしたちは何ともなかったから。それよりもエイルネージュちゃんは大丈夫だったの?」

「ああ言ったことは珍しいですが、トラブル自体は結構体験してきましたし、大丈夫ですよ。むしろここの王都以外の場所の方が巻き込まれやすいですからね。ほかの場所だと、もっとひどいことになりかねません」


 今回の件改めて考えてみると、どこぞのクラスメイトはさておき、ハンターやハンター組合側が傍観に徹していた――それぞれ思うところがあっても口を挟まなかったのは――のは、トラブルをどう対処するのか見たかった――というよりも、ハンター組合におけるトラブルを体験させたかったのだと思う。

 だからもしも、依頼者側がこちらを物理的に攻撃してきたら止めただろうし、逆にこちらが痺れを切らして暴力を振るおうとしても止められたことだろう。


「やっぱりトラブルって多いの?」

「少なくはないですね。変に因縁付けてくる人もいますし、気にくわないと言うだけで戦いを挑んでくる人もいますし、町の外だからと襲ってくる人もいなくはありません。といっても、見た目のせいで他の町だと目立ってしまうというのもあるとは思いますが」


 とはいえ、大人になったらトラブルと無縁というわけにもいかないだろう。例えば依頼者とのトラブルとか。わかりやすいので護衛の依頼。依頼は護衛なのに雑用をさせようとしてきたり、依頼とは関係のない寄り道をしようとしたり。そもそも依頼主ではないのに、便乗してきて何かあれば文句を言ってくる人もいる。

 護衛依頼ではなくても、直接依頼主とやりとりをするモノになると、そこでトラブルが発生するかもしれない。


「それに今回はハンター組合内でのトラブルでしたからね。まだマシだったと思います。今思えば最悪の場合にはハンター組合が助けてくれたでしょうし」


 15歳で成人を迎え、働こうと思えば10歳から働ける世界に置いて、12~13歳だからと言って、手取り足取り教えてくれる訳ではないと言うことだ。

 ただああ言った手合いは、自分が正しいと信じて疑わないと言うか、自分の世界に浸りきっているというか……何をいっても都合よく解釈されるだろうから、無駄に話が大きくなっていたように思うけれど。


「うん、それならよかったんだけど……」


 何か言いたげではあるけれど、言いよどんだパルラを見て、聞こうと思っていた――だからこそシエルとは入れ替わっていなかった――問いかけをする。


「ところで、二人は先ほどのトラブルどう思いましたか? もっとわかりやすく言えば、あの依頼を受けるべきだと思いますか?」

「べ、ベルは状況による、と思う……です」

「どういうことですか?」


 意外にもベルティーナの方が先に答えたので、その真意を知るべく問いを重ねる。意外とは感じたけれど元々貴族であり、そしてある意味わたしたちに近い彼女であると考えると、当然のようにも思う。

 ベルティーナは不安そうに、だけれど確かな意志を持って答えを述べる。


「依頼を受ける側が受けたいなと思えば受けても良いですし、そうじゃなかったら受けなくても良いはずです。受けたいと思える状況、そうじゃない状況は人によって違いますし、ベルならたぶん逃げ出した……と思うです」

「答えていただいて、ありがとうございます」


 ベルティーナの返答を否定したと取られないように、できるだけ優しい笑顔でお礼を伝える。

 ベルティーナの回答をかみ砕けば、要するに好きなようにしたらいいと言うことだ。わたしもそうだと思う。でもこの考えが、よく思われない可能性があるのも知っている。だから勇者君(ジウエルド)のような存在が出てくるわけだ。


 そして複雑そうな表情でうつむいているパルラもどちらかと言えば、勇者君的な考えの持ち主なのだろう。


「あたしは……最初はどうして受けないんだろうって思ったよ。困っている人がいて、それを助ける方法があるのにどうしてだろうって」

「住んでいるところでは助けるのが普通だったからですか?」

「うん。誰かが困っていたら、できるだけ助けるようにって教わっていたし、見てきたから……」


 パルラの住んでいた村は小さいところのようだし、住民たちの繋がりも強いのだろう。何かがあったら助け合って、助けられた分はいつか返す。そう言うことができるところ。

 そうだろうなと思ったから、今回の件でパルラがどう感じたのか、それがとても気になった。


 まあ、本当はパルラたちもわたしたちが薬草を持っているとわかっていなかったはずだけれど。場の雰囲気的に持っていると認識してしまっていて、持っている前提で話をしていたとしても仕方はない。


「でも考えてみたら、エイルネージュちゃんが自分で使うつもりだったのかもしれないんだもんね。そうだとしたら、受けないのも仕方がないのかなとも、思ったよ」


 そういう風に考えてくれるだけ、わたしとしてはシレイトよりもパルラの方が聖女に近いんじゃないかなと思う。

 依頼――関係――者の二人も、ジウエルドもシレイトも、あの場ではこちらの事情なんて聞いてくれそうもなかったし。


「そうですね。確かに使う予定はありました。正確には使う可能性があった、くらいでしょうか。途中で代用品が思い浮かんだので、あれ以上事が大きくならないうちに手放しましたが」

「そうなんだ。それならよかったよ」


 パルラは自分のことのように安心した表情を浮かべたけれど、すぐにその表情が曇る。


「どうかしましたか?」

「ううん。ちょっと、思うことがあって……」

「わたしはパルラが教えられてきたことが間違いだとは思いませんよ」


 わたしたちはもちろん、ベルティーナも必ずしも助ける必要はなかったという中、パルラが自分の考えが間違っていたのではと思うのは不思議ではない。それにこの中で少数派の考えを持っているわけなので、言い出しにくいのもわかる。

 もしかしたら、今までの人生を否定されたような気持ちになっているかもしれない。


 普段ならこちらがそこまで考えてやる必要はないと切り捨てるけれど、相手がシエルが気に入り、わたしもあしからず思っているパルラなら考えるだけの意味がある。


「そう、なのかな?」

「誰かの命を救う、困っている人を助ける、手伝えることがあれば手伝う。どれにしても、考え方としては素晴らしいモノだと思います。

 そして、そう言った行動ができる人は、素晴らしい人なのでしょう。目の前に困っている人がいるとき、手をさしのべられる人はきっと多くないですから」


 わたしの感覚はエストークでシエルを守っている間に、だいぶ壊れてしまっている。シエルだけが大切で、シエルが幸せでそれにわたしが一緒にいられればそれで良いと本気で思えるほどに。

 そんなわたしだけれど、かつて身につけていた倫理観を忘れてしまったわけではない。だから、人の命の尊さや人を助ける素晴らしさなんかも理解できる。


 だからなんだかんだ、ジウエルドやシレイトの考えがわからないわけではないし、一側面だけ見れば得難い人物だとも思う。このまま様々な経験を積んでいけば、きっと国を救う立派な英雄になるだろう。彼らはまだ若く、経験が足りないだけだったのだと言えば、そうなのだ。

 わたしがその辺の事情を汲む気がないだけで。


 素晴らしいと言いつつも、ジウエルドたちの話を無視した理由も話しておいた方がいいだろうから「ですが」と強めに話を続ける。


「どれだけ素晴らしい考え――思想でも、それを一切譲らずに押しつけてしまったら、つまらないモノにわたしは見えてしまいます。どれだけ素晴らしいものでも、絶対はありませんから」

「素晴らしい考えも間違っているって事?」

「間違いと断言する気はありません。ですが、そうですね……」

『少しだけ、わたしたちの事を話しても良いですか?』

『別に構わないのよ。パルラたちになら話しても問題はなさそうだものね』

「例えば、ずっと閉じこめられて、理不尽な扱いも受けていた人に対して、人を助けるのが正しいことだからそうしなさい、と言って納得すると思いますか?」

「それは……難しいと思うよ」

「その人は悪い人ですか?」

「ううん」

「つまり正しいと言われることでも、それを素直に受け入れられない人だっています。むしろ全員が全員、そう言った行いができたら今頃世界はもっと優しくなっているでしょう」


 だから押しつけるのは良い選択だとは思わない。押しつけたら反発される可能性を考えないといけない。そして恨まれる可能性を考えなければいけない。

 それはそれとして、人を助けるという事に対するリスクも一応伝えておいた方がいいだろう。


「それに人助けをすることで、メリットがないだけではなくて、自分の身に危険が生じる事があります」

「危険……なの?」

「例えば魔物に襲われている馬車を助けたとします。その馬車は護衛をつけていなかったため、危うかったのですが――これは安易に助けるべきではありませんでした」


 暗に問いかけるように話すと、パルラは考え込んでしまう。

 話の流れで、こちらが危険な目に遭うと言うのはわかるのだろうけれど、具体的に何が危険なのかわからないのだと思う。と言うか、実体験した身ながら、これはかなり限定的な状況下で起こったことと言えなくもないから、普通のハンターでもわからないんじゃなかろうか。

 ベルティーナは何か思い浮かぶモノがあるようだけれど、確信は持てていないらしい。この辺、ベルティーナは自分の身を守ることに長けているなと感心する。伊達に家の中で親の視線から逃れ続けていたわけではない。


「護衛をつけていなかったというのは、その馬車の持ち主はよほど怠惰だったのか、世間知らずだったか、あるいはよほどお金を持っていなかったかです。町の外に道はあるとは言っても、基本は魔物の領域です。

 近くに行くだけならともかく、馬車を使うような移動で護衛を雇わないのは普通ではありません」

「それは、うん。そうだよね」

「もちろん助けて感謝されて終わり、という状況もあるでしょう。ですが、助けた側が弱そうに見えるとよからぬ事を考える人が出てきます。例えば、捕まえて奴隷として売って足りないお金に換えようとするとか」


 パルラは「まさか」と言いたそうに目を丸くしたけれど、ベルティーナは驚いた様子もなく頷いている。

 無条件で人助けをするということ、そのリスクについては他にもあるけれど、パルラを見る限りこれ以上言う必要はないだろう。


「そういうわけで、わたしは闇雲に人助けをすることは推奨しません」

「だめ……じゃなくて?」

「世の中人助けが好きな人もいますから。それはそれで良いと思います。でもよからぬ人と関わってしまったときに、身を守る何かを身につけた上でやるのが良いと思いますが」


 英雄君(ジウエルド)もどこかでそう言った失敗をして、学ぶのだろう。それでも彼は人助けをするんだろうなと、そうなるように王族が頑張っているんだろうなという気はする。わたしたちには関係ないが。

 とりあえず、伝えたいことは伝えたので、シエルと入れ替わることにしよう。わたしが決めることではないけれど、わたしとしてはやっぱりパルラもベルティーナも信頼に足る人物だと結論づいた。


「あの、エイルネージュちゃん」


 シエルとの入れ替わりが終わったそのとき、パルラが何かを決心したように話しかけてきた。いったいなんだろうかと耳を傾けると、落ち込んだかのように沈んだ声が聞こえてくる。


「さっきは何もできなくてごめんね」

「先ほども言いましたが、無理に助ける必要はないですよ」


 シエルがわたしの言葉を引き継ぐ。シエルがわたしの言葉を聞いてどう感じたのかはわからないけれど、シエルが判断するのであればわたし的にはどう話が流れても構わない。一応わたしの考えはそれとなく伝えるつもりだけれど、最終判断はシエルに任せる。


「でもそれは、自分で決めていいんだよね……?」


 不安そうに尋ね返すパルラを見て、シエルがきょとんとした顔をする。それからわずかに口の端に笑みを浮かべて「そうですね」と返した。

 果たしてパルラがエイルネージュだから助けたかったのか、誰であっても助けようとするのかはわからないけれど、前者であったら嬉しく思う。そしてそれをシエルが受け止めて、どう感じるのかが気になる。


 シエルは一瞬『エイン』と声をかけてきたけれど、すぐに『何でもないわ』と取り消して、しばらく考えるような素振りを見せた。


「気にかけてくれて嬉しいですが、そうですね……本来あの程度、問題ないです」


 そうして導き出したシエルの言葉は、確かにパルラの事も考えたような内容で、こっそりと感動する。と、同時に寂しくもある。


「えっと、それは……」

「貴女たちにだから伝えておきます。といっても、ベルティーナなら気がついていたと思いますが」

「はいぃ!? えっと、何のことでしょう……?」


 急に名前を挙げられたベルティーナが驚きの声を上げ、おそるおそる問いかける。彼女はわたしたちについて、いろいろと感づけるだけの情報を持っているだろう。だからこそ、気がついていると言われても、どれに当たるのかわからないのかもしれない。

 もしくはあえて深く考えないようにしていたのかもしれないけれど。


 わたしもシエルが何を言おうとしているのかははっきりとはわからない。おそらくこれかなと言うのはあるけれど。

 そんなベルティーナの反応を受けてなのか、全く関係ないのか、シエルが言葉を続ける。


「私は上級ハンターの一人です」

「上級ハンター……? エイルネージュちゃん。E級ハンターは上級じゃないんじゃないかな?」


 わたしが、それかと内心納得している中、パルラがわたわたと混乱したように尋ねてくる。

 対してベルティーナも納得している側。どれくらい見えているかわからないけれど、わたしたちの魔力量に気がついていれば予想はできたんじゃないかと思う。

 でも、何かに気がついたらしく、キョロキョロと視線をさまよわせて、挙動不審になってしまった。


「ですから。本当はE級ではないんです」

「違うの?」

「本来のランクは上級と言ったとおり、少なくともC級から上です」

「そんなに!?」


 具体的なランクが出てきたせいか、ハンターを目指すものとしてそれくらいは知っていたのか、パルラがようやく困惑よりも驚きを大きく見せた。


「ですので、助けてくれようとしてくれるのは嬉しいですが、ハンター関連のことは自分で対処できます」


 パルラの反応に関わらず、淡々と用件を伝えるあたりがシエルらしい。もしも相手がパルラではなく、わたしだったら嬉々としていじってくるんだろう。シエルの特別である証拠とも言えるので嬉しいような、でもなんだか釈然としないような、複雑な気分。


「戦いでもこのあたりであればフォローできますから、自分のできる精一杯をやってみてください」


 フォローというか、完全に守ることもできるけれど、それはそれで緊張感がなくなってしまう。とシエルも考えたのだろう。


「うん……わかったけど……」

「納得できないのであればそれでも構いません。こちらは勝手に守りますから」


 いきなり上級ハンターだと言われても理解できないのも仕方がない。15歳でD級でも早いと言われる世界なのだから。

 パルラもシエルの言葉を否定したくていっている訳でもないだろう。エイルネージュでいるときには、実力を出さないようにしているし。いっそ少しでも実力を見せたら、パルラも納得してくれるかもしれない。たぶんシエルも見せて良いと思っているから、話したのだろうし。


 なんて考えていたら、「あの……」とおずおずと話しかけてくる声が聞こえてきた。


「どうしました?」

「えっと、つまり……ですね? いくつもハンター証を持っているって事ですよね? それは……その……大丈夫なのですか?」

「大丈夫ですよ。大丈夫になっています」

「わ、わかりました!」


 弾けるようにそう返すベルティーナはきっと気がつきたくないことにも、気がついたのだろう。確信まではしていないだろうけど、可能性として頭をよぎったに違いない。エイルネージュ(わたしたち)にハンター組合の上層部をどうにかできるだけの後ろ盾があることを。

 それだけで、エイルネージュ=フィイヤナミアの義娘と結びつけることはできないとはいえ、結構な情報にはなりそうだ。


 もしくはS級にもなれば、ハンター組合側がある程度便宜を図ってくれたりするのだろうか?


 何の話かよく分かっていない様子のパルラにベルティーナが説明しているけれど、パルラはあまりピンときていないように見える。

 一平民から見れば、貴族と言うだけで雲の上の人なのかもしれない。


「話は分かりましたか?」

「う、うん。何となくだけど」


 とりあえず話が一段落したかなと言うところで、後ろに控えていたミアがすっとシエルの隣にやってくると「お嬢様よろしいでしょうか?」と耳打ちしてきた。

 パルラもベルティーナもミアを気にしている様子で、そう言えば、紹介していなかったなと今になって思い出す。流れの中でミアを紹介するのが難しかったというのもあるのだけれど。


 シエルにミアを紹介してあげたらどうかと伝えると、シエルも納得がいったのか口を開く。


「今更だけど紹介します。私の使用人の一人のミアです」

「スミアリアと申します。あなた方が、お嬢様のご友人のパルラ様とベルティーナ様ですね。お話はお嬢様から伺っております」

「今日ミアをつれてきたのは、私が中央に帰っている間、ミアだけはこちらに残るからです」


 いいたいことを言い切りました、といわんばかりにシエルが言い切るが、特にパルラは居心地が悪そうにしている。

 ミアがその様子に気がついたのか、「パルラ様どうかいたしましたか?」と問いかけた。


「え、えっと。あの……あたしは様なんてつけてもらえるような人では……」

「ベ、ベルもちょっと慣れない、です」


 パルラはともかくベルティーナもか。聞いた話ではあるが、確かにベルティーナはそんな丁寧な扱いは受けたことがなさそうだ。

 二人の言葉を聞いて、ミアがどうしましょうかといわんばかりの視線を向けてくる。


「二人が気になるのであれば、ふつうに呼んでいいですよ」

「かしこまりました。でしたらパルラさん、ベルティーナさんと」


 まだ丁寧さは抜けきっていないけれど、それならと二人がうなずく。


「紹介もできましたし、時間も使ってしまいましたから、そろそろ魔物を探しに行きましょうか」


 シエルの言葉に三人がそれぞれうなずいて、ベルティーナを先頭に歩き出した。





 歩き始めて数分で5匹のゴブリンがいると、ベルティーナからの報告があがる。こちらに気がついた様子はなく、だけれどこのままなら遠くなく気がつかれるだろう。


「気がつかれたとして、私抜きで何匹なら二人で倒せますか?」


 シエルの問いかけに、パルラとベルティーナは見つめ合って「二匹までなら」と結論を出した。

 その目には確かに力強さがあって、わたしたちに隠れてがんばっていたんだろうなというのがわかる。なにせ、以前はシエルが前衛でほぼ安全な状態でも倒せなかったのだから。


 それがシエル抜きともなれば、簡単に近づかれてしまう。遠距離から倒しきることはできなくはないだろうけれど、まっすぐに狙ってくる。

 その恐怖はシエルがいる場合とは比較にならないだろう。たかがゴブリン、なんていえるのはわたしたちが相応の経験を持ち、それに見合う力を得ることができたからだ。


『今日は遠慮しなくていいのよね?』

『上級ハンターであることは伝えましたし、かまわないでしょう』

「それなら、私が3匹倒すので後は二人でやってみてください」


 とはいえ、たかがゴブリンであるので、姿が見えた瞬間にシエルが魔法陣を起動させて、きっちり3匹の首を刈る。ゴブリンはもちろん、パルラとベルティーナも驚いた様子で、程なくゴブリンがこちらに気がつき駆けてきた。

 それに続いて二人も我に返り、迎撃の準備に入る。


 走ってくるゴブリンがこちらにたどり着くまでには、十数秒とかからない。だけれどそれよりも早く、呪文を唱え終わったベルティーナの火球が2つ飛んでいった。

 ほお、っと感心している間にゴブリンたちの顔面にぶつかり、ゴブリンが動きを止める。


 その瞬間、二本の矢が風を切る音が聞こえ、ゴブリンの脳天に突き刺さった。矢の勢いで後ろにのけぞったゴブリンたちは、そのままバタンと音を立てて倒れると、動かなくなる。

 その姿を見ても、二人は気を抜かずに杖と弓を構えたまま、だけれど数秒後勝てたことを理解したのか「やったぁ」と二人声を合わせてぴょんぴょんと飛び跳ねる。


 普段はそういう姿を見せないだけに、うれしかったのだろう。

 実際以前の彼女たちと比べると、とても成長していた。


 パルラは肝が据わったというか、敵に迫られても確実に矢を当てられるようになっていたし、パルラが一撃で倒せなければ自分たちに危険が及ぶというプレッシャーの中で成功させたのは、かなりの成長だ。


 パルラはもちろん、ベルティーナも魔術の精度が上がっているし、何より自分にできることを必死で考えたんだろうなと言うのが見て取れる。

 ベルティーナの魔術は、言ってしまえば見かけ倒しのものだ。あの火球が直撃しても、軽いやけどがせいぜい。魔物であれば、ウルフの毛先を傷めるくらいの威力しかない。でも相手の気を逸らすのには十分で、そのおかげもあってパルラが確実に命中させられたのは違いない。


 あくまで初見殺しであり、一回でも受けて威力がそんなにないことがばれてしまうと、完全に無視されかねない。でも短時間で魔術発動させる腕は確かで、ベルティーナがそれだけがんばってきたのがわかる。最初なんて魔術一つ発動させるのに、どれだけかかっていたことか。

 威力の無さは悪いことばかりではなく、こういった森の中でも炎の魔術を使えるという意表を突くという意味ではおもしろい。


 特にベルティーナの成長が著しく、いずれは同じハンデを背負っていたあの頃のビビアナさんと肩を並べることができると思う。職業の恩恵を受けているパルラよりも成長が早いのは、そのスタートラインが違ったのもあるだろうけれど、おそらくは彼女の職業(魔眼)のおかげなのだろう。


「思っていたよりもすんなり倒せましたね」

「うん。あたしたちも頑張っているからね」

「頑張りましたです」


 シエルの言葉に嬉しそうに二人が応える。


「ですが、3匹を相手にするにはもう少し期間が必要そうですね」

「それは、はい。そうです」

「今回はうまくできましたが、もしも近づかれたらどうするつもりでしたか?」


 ――反省会は後でするとして――今日はこれで、二人はよくできていた。と終わらせてもいいのかなとわたしは思うわけだけれど、シエルは今のうちに伝えておくスタンスらしい。

 ベルティーナがいるとはいえ、不意に近づかれることもあるだろうし、今回のようにうまくいかずに接近を許すこともあるだろう。そのときにどうするのかを考えているかどうかは重要だ。

 ベルティーナだと結界を作るにもその強度が不安だし、何より魔法陣を扱うのが苦手であろうベルティーナの詠唱が間に合うとは思えない。


「今日はあたしがナイフを持って前に出るつもりだったけど……。本当ならね、罠を仕掛けてから戦い始めるつもりだったんだよ」

「パルラは狩人でしたね」

「うん。それでも駄目そうなら逃げるよ。ううん、罠に近づかれた時点で逃げるよ」

「それがいいと思います。それにちゃんと考えているようで安心しました」


 こちらが万全の状態で迎え打てる場面がどれほどあるかはわからないけれど、ベルティーナがいるだけでその確率は大きく上昇する。

 いわばベルティーナがいるからこそできるやり方だといえる。そのかわり、パルラがとどめを担当するんだろうし、最悪の場合に前に出るのがパルラになるわけだ。

 二人でパーティを組むのであれば、役割分担としては悪くないのだろう。シエルとわたしほどはっきりはしていないけれど、パーティを組むのだから役割分担はあってしかるべきなのだ。


「これで二人の実力はだいたいわかりましたので、次はミアも入れてどれだけできるかやってみましょうか」

「かしこまりました」


 それからエイルネージュ(わたしたち)も途中で入りながら、ハンターらしいハンター活動をした。

Q.生きてますか?

A.8月が想像以上に時間が取れなくて遅くなりました。生きてます。


Q.薬草持っているのなんで知っているの?

A.母親はまったくそんなことは知りません。自分の妄想を事実のものだと認識するタイプの人類です。執事に関しては本文に書いてある通り乗っかっただけです。


Q.貴族に絡んで大丈夫?

A.執事さんは貴族ではないので、この時点ではどうにかできることはありません。とはいえ、後ろに貴族がいるので普通は手を出さないですが。


Q.ジウエルド関係

A.なんだかんだ子供というところです


大変遅くなりました。いつもの倍くらいの文字量があるので許してください()

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作者別作品「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
2020/5/29から第一巻が配信中です。
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― 新着の感想 ―
[気になる点] 脳天って上からヒットしてることにならない?
[一言] 貴族側から手を出してきてもそれこそエイン(親バカ)+ フィイヤナミア(親バカ)がブッ飛ばすだろうさ
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 少し遅かった投稿ですけど、ちゃんと2話の量が載せられましたね。 そうです、何故薬草持っていると認識されたのが不思議です。母親が妄想は判らなくもないですけど、…
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