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206.ミアの予定と四つ葉と材料

「ミアは長期休暇の間どうするのかしら?」

「お嬢様方次第ですね。どこかに行くのであれ、できればご一緒したいのですが……」

「中央も含めて、遠いところに行くのは難しいのね?」

「そうですね。ワタクシでは足手まといにしかなりませんから。お嬢様方だけで動かれた方が、早く移動ができますよね?」


 部屋に戻ってシエルがミアに休みのことを尋ねると、半ば予想していたような答えが返ってきた。

 自動車も電車も飛行機もないこの世界でのわたしたちの移動速度は、常識の範囲外になるだろう。空を駆けてあらゆる障害物を無視していけるというのは、それだけで破格の移動速度になるだろうし、具体的に時速どれくらいかというのはわからないけれど、単純な速度であっても馬車よりは速いのは間違いない。


 障害物を無視するといっても、空には空の魔物がいるから安全というわけでもないけれど、空を移動している時点でシエルは踊っている(戦える状態にある)わけで、近づいてきたものに対しては適当にあしらいながら移動できる。

 飛行魔術が――少なくとも一般的には――ないのも、空という舞台で魔物と戦うリスクが大きいからと言うのがあるのかもしれない。


「それなら中央に戻らなくても良いかしら?」

「それは、戻った方がよろしいかと。いえ、戻っていただきたいです。フィイヤナミア様も心配してらっしゃるでしょうから」


 何気なくつぶやいたシエルの言葉に、ミアが慌てて言葉を重ねる。

 その勢いにシエルは目を丸くして、それから不思議そうに首を傾げた。


「フィイは気にしないと思うわ。そうよね、エイン?」

『フィイ母様にしてみたら、学園にいる三年なんて瞬く間でしょうからね。そこまで気にしないとは思います』


 わたしが答えるとシエルが嬉しそうに「そうよね」と答えるのだけれど、ミアは困ったような、観念したような表情で「そうですね」と続いた。


「フィイヤナミア様はそうかもしれませんが、モーサさんとサウェルナさんはそうではないと思いますから」

「そうかもしれないわ。それなら一度()()()かしら? エインはどう思う?」


 シエルに問われて考える。時間の効率的な使い方を考えるのであれば、中央に戻らずにオスエンテにいても良いとは思う。オスエンテにはずっといるわけではないし、在学中にオスエンテ国内のいろいろな場所に行っておいても良いかもしれない。

 しかし帰る場所がなかったわたしたちであるので、シエルの認識としてそう言うものがあるという意識が薄い気がする。たとえ時間がかかったとしても、帰るべき場所――帰りたい場所を意識させると言う意味では帰った方がいいと思う。


 それに帰らないとミアがモーサやルナにどやされるのかもしれない。ルナはシエルのことが好きだし、それに思い上がりでなければわたしもモーサに慕われている。

 あと単純にわたしたちが邸にいた方が、使用人たち的には刺激があっておもしろいだろう。だとしたら、数日だけでも顔を出した方がいいか。こちらに残っておいた方がいい大きな理由があるわけでもないし。


『どこかで一度()()ましょうか』

「そうしましょうか。それじゃあ、私たちは一度邸に戻るわね」

「かしこまりました」


 ミアは慇懃に頭を下げたけれど、その表情はどこか安心したようだった。



『そう言えば、どうしてミアは最初にフィイの名前を出したのかしら?』

『モーサやルナが理由でわたしたちが行動を決めるのがよくなかったからでしょうね。彼女たちは使用人で、わたしたちが主になりますから』

『面倒なのね』

『そうですね』


「君たちだけで話しているのは、いつ見ても興味深いね」

「話しているのがわかるんですか?」

「何となくだけどね。わたしもできそうだけれど、やる意味はない」

「全員ムニェーチカ先輩ですからね」


 休暇が始まったとは言え、すぐに中央に帰るわけではない。少なくともパルラとの約束があるので、帰るのはそれを終えてからになる。

 その間ハンター活動をするのも良いけれど、せっかくならオスエンテだからできることと言うことで、ムニェーチカ先輩のところにやってきた。

 長期休暇中どこにいるのかなと思っていたけれど、人形魔術の教室を陣取っていたので見つけやすかった。何というか、イメージ通りで、人形魔術の教室にいると気がついたときには、少し笑ってしまったほどだ。それに対してシエルが不思議そうにしていたけれど。


「それで壊れることのない人形だったね」

「あると便利だと思うのですが」

「普通のドールは攻撃を受ければどこかしら破損するね。その程度の耐久しかないから見向きもされないのは、知っていると思う。頑丈な材料で作っても、その材料でゴーレムを作った方が耐久力に優れる。人と同じ形になるドールはどうしてもゴーレムよりも脆弱な場所が増えるからね。ゴーレムであれば壊れても比較的簡単に修復できるけれど、ドールはそれも難しい。

 そもそも壊れないものはこの世界に存在するかが問題だ」

「壊れないのが理想ではありますが、低級ハンターの攻撃を耐えるくらいの強度があれば十分ですね」

「まあ、材料次第だね」


 それはそうだという答えが返ってきたところで、普段入れるばかりの魔法袋から適当に中身を取り出す。

 中から出てきたSランク相当だと思われる魔物の数々に、ムニェーチカ先輩は驚いた様子一つ見せない。


「そう言うことだろうとは思ったよ」

「このあたりを使ったら、頑丈な人形が作れますよね?」

「作れるよ。と言うか、すでに作ってある。以前君にもらった材料を使って、どれだけ耐久力を高めたドールが作れるかと試してみたからね」

「それは、どれくらいの耐久力があるんですか?」

「関節を狙われなければ、A級並。狙われたらC級にも壊されるくらい」

「十分ですね」


 S級の素材を使っていても、各部をつなげる部分は他の部分よりも脆くなるのだろう。素材とは関係なしに、人形魔術の特徴として弱くなってしまうだけかもしれないけれど。

 何にしてもC級もあれば個人的には十分だ。でもそれをわたしは作れないから、どう頼んだものかと思っていたら、やれやれという雰囲気をまとわせたムニェーチカ先輩が口を開いた。


「報酬は余った素材をもらうと言うことで良いかな?」

「いいんですか?」

「どちらにしても、授業用に一体は作らないといけないからね。その代わりでいいだろう。授業の一環になるから、最終段階は君たちにしてもらうけれど、それでいいね?」


 わたしは良いけれど、人形魔術はシエルが受けている授業なので『大丈夫ですか?』と尋ねる。それに対してシエルは一つもためらうことなく『ええ、もちろん』と答えた。

 まあ、いつものことだ。いつものことだけれど、それが当然だと思わないようにしなければ。


「かまいません」

「それじゃあ、これから言うものと似たようなものがあれば出して欲しい」

「わかりました」

「これから作るドールが完成して、君たちが授業に合格したら、約束通り人形魔法を使って君の体候補を作るから、その分の材料と報酬ももらっておくよ」

「好きなだけ持って行って良いですよ。魔法袋の整理になりますから」


 わたしの体の話が出たところで、シエルが『いよいよなのね、いよいよなのよ!』とハシャいでいるのを――恥ずかしいから――意図的にスルーして、ムニェーチカ先輩に提案する。

 わたしが半ば本気だということがわかったのか、ムニェーチカ先輩は呆れたように首を振った。


「魅力的だけれど、必要分ともともと予定していた報酬分だけで十分だよ」

「それは残念です」

「正直S級クラスになると、使えるように加工するのに結構手間がかかるからね、たくさん持っていても余らせるだけなんだよ」


 ムニェーチカ先輩はそう言うと、とりあえず出した素材を物色し始めた。わたしはそれを眺めつつ、先輩が求める素材を魔法袋から探す作業に入った。



「なかなか珍しいものを持っているね」

「ああ、それですか。正直持っているのも忘れていたのですが、珍しいんですね」

「君が頭に着けているそれよりは珍しくないけどね」


 ムニェーチカ先輩が顔を上げずに、精霊の休憩所を指した。

 今でもちょくちょく勝手に精霊が入っては出て行く休憩所。魔力を摂られているものの、全く負担にはなっていない。ムニェーチカ先輩がこれの存在を知っていたことは驚きだけれど、フィイ母様の知り合いだし知っていてもおかしくはないか。

 それよりも、最初に話題に上がったのは精霊の休憩所があったところで一緒に見つけた、四つ葉。内包する魔力が多いから採取したけれど、以降日の目を見ることがなかったそれ。


 一応処理をしていて、瑞々しさは欠片もないけれど、その魔力はあまり衰えていないらしい。


「その四つ葉は何かに使えるんですか?」

「一般的にはポーションの効果を高めるために使うね。薬草と呼ばれるものに魔力があるのは知っているだろう?」

「そうですね。探しやすくて助かります。その魔力に作用するって感じですか」

「簡単に言うとそうらしいね。わたしもそのあたりの専門的なことまでは知らないが」


 わたしたちがほとんどお世話にならないポーションだけれど、特に富裕層や上位ハンターであればよく使うという人も少なくないだろう。

 大怪我であっても即座に治してしまうポーションの効果を高められるとなれば、その価値が高いのはうなずける。もしかしたら、欠損の回復もできるかもしれないし。

 それにそれだけではない影響だって、考えられる。


「確認なのですが、ポーションって病気に効くものもありましたよね?」

「あるよ。とはいえ、どんな病気も治せる訳ではないけどね」

「――だとしたらこれは、予想以上の価値がありそうですね」

「もとよりその植物は採取するだけでも難易度が高いだろう? 魔力――魔物が渦巻く山の奥深くか、魔力が滞っている魔物氾濫が起きるであろう場所にしか生えていないからね」


 危険度を考えると、少なくともB級。A級であっても安全に見つけることができないかもしれない代物ではあるだろう。

 ハンターに依頼をするとしたら、貴族でもない限りは見合った報酬を準備するのが難しそうだ。特に近年はどこかの国を除けば、町の近くで魔物氾濫が起こらないように適度に間引きをしているだろうし、よりその価値は高まっているに違いない。


「で、これは人形魔術――もしくは魔法――的にはどうなんですか?」


 一般的な話はしてもらったわけだけれど、ムニェーチカ先輩が反応したということは何かしら、ドールに関する素材になるのだと思う。単純な珍しさだけで言えば、巣窟下層の魔物たちの方が上なのだから。

 ――規格外の素材の中で、地上でも見つからないことはない希少な素材があったから反応しただけの可能性はあるけれど。


「これはドールを作るときの、疑似魔力回路にできるものだね。これがなければ、わたしは魔術を使うこともできないよ」

「それだけ重要なパーツなんですね」

「魔物の回路を流用すると、どう言うわけか早々に劣化してしまうからね。植物素材の方が長持ちするんだけれど、簡単に見つかる素材ではないな」

「イエナ先輩たちもそうなんですか?」

()()()()はそうだね。とはいっても、より珍しいものを使ってはいるけれど」

「それは何ですか?」

「フィイヤからもらった謎の枝だね。すさまじい魔力が宿っていたのは確かだけれど、どこで手に入れたどういったものなのかは教えてくれなかったよ」


 ムニェーチカ先輩の言葉を聞いて、シエルが『中央に行く理由が増えたわね』と言うので『そうですね』と返す。


「この四つ葉だとドールを作るのに問題があるんですか?」

「問題はないけれど、素材としては上の下と言ったところだね。妥協点としてはありだと思うよ」

『妥協する気はないのよ?』

『だと思いました。ですが一応もっておいた方が良さそうですね』

『材料がどうしても見つからない可能性もあるものね』

「とりあえずその四つ葉はキープしておいて、よりよいものを探してみます」

「自分の体になるかもしれないものだからね」


 先輩がうんうんと頷いているけれど、わたしの体になるからと言うよりも、シエルがそうしたいからというのが正しい。とはいえ、わざわざ指摘する必要もなさそうなので曖昧に頷いておく。それから最後にムニェーチカ先輩に尋ねてみることにした。


「ところでムニェーチカ先輩にはその枝は使っているんですか?」

「いいや。これだけは特別だからね。最良のものを使っているよ」

非常に遅くなりましたが、生きてます。体力的に死にかけてましたが()


Q.アルクレイについて

A.ジウエルドに負けたことで気が立っていたとかそういう部分もあっての行動なのですが、巻き込まれたほうはたまったものではないよなーと思います。


Q.人形関連

A.今話で少し進みましたが、どれくらいの性能で、どの程度使えるのかは決まっていなかったりします。


Q.パーティ仲

A.結構シエルが歩み寄っていっているのが見て取れたらいいなと思ってます。ゴブリンが強いというか、シエル(エイン)が強すぎたって感じですね。表現的にどうしても雑魚っぽくなってしまいますが、一般人目線だと脅威です。パルラとべルティーナ的には、精神的な面での苦戦もあるのだとは思いますが。

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― 新着の感想 ―
[一言] >>「いいや。これだけは特別だからね。最良のものを使っているよ」 まさか上位ハンターの回路だったり?
[一言] エインの身体候補に進展!
[一言] しうさんお疲れ様です。 無理はしないでくださいです……!
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