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203.リーエンスについてと話の裏側

「君は禁忌を犯そうとする人を捜していたね。それはその人を排除するためではなかったのかい?」

「違うわ。私は警告するために探していたのよ」

「その警告に従わなければ?」


 本題に入ったからか、学園長の表情はとても真剣なものになっているのに、シエルがいつも通りすぎて場全体の真剣さが損なわれている。

 それがどうしたというわけでもなければ、シエルがしたいようにすればいいんじゃないかと思っているので、口を出すつもりはない。実際そんなに真剣な話ではないから。


 個人で見れば真剣なものかもしれないけれど、(世界)側からしたら割とどうでもいい案件なのだ。リーエンス先生が禁忌に届かなければよし、届いたとしても神罰が下って終わり。

 リーエンス先生的にも目的を達成できればいいだろうし、それで命を落とすだろうことも理解している。


 そう言うわけで学園長の口から聞こえてきた重々しい問いに、シエルは特に気にした様子もなく答える。


「なにもないわ」

「……どういうことだ?」

「言葉通りのなのよ?」


 学園長的には従わなければ無理矢理従わせるとか、危害を加えるとかそう言うことを考えていたのだろう。

 例えばわたしたちが敬虔な信徒だったら、神の教えに反する禁忌に手を出すリーエンス先生に一度警告をして、従わなければ実力行使となったかもしれない。

 でもわたしたちはそこまで最高神様に心酔しているわけではない。最高神様はわたしを子供のようなものだと言ってくれているし、わたし的には――……難しいけれど、学校の先生くらいのポジションだと思っている。シエルがどうなのか、その本意はわからないけれど、たぶんそこまで強い印象はないのではなかろうか?


『私はとてもとても感謝しているのよ?』


 どうやらシエルに聞こえていたらしく、そんな風に返ってきた。


『シエルは最高神様にあったことないですよね?』

『ないわ。話もちゃんとしたこともないわね。でも一日だけだったけれど、エインに触れられる日を作ってくれたのだもの。それにエインを私のところにつれてきてくれたのもそうよね』

『確かにそうですね』

『だから、とてもとても感謝しているのよ!』


 なるほどなと納得したのはいいとして、学園長を放置していても大丈夫だろうかと様子を見る。

 どうやらシエルの言葉を理解するのに時間がかかっていたらしく、特に問題はなさそうだ。


 そしてほどなく、なぜだか苦々しい顔をした学園長が疑わしげに口を開いた。


「なにもないと言うのであれば、なぜ警告を?」

「フィイに頼まれたもの。――……それに警告だってできたらでよかったのよ。禁忌を犯したら神罰が下るのだもの。フィイも私もなにもする必要はないわ。

 でも禁忌に迫るリーエンスの才能は少しもったいなかったから、警告だけしたのよ」


 途中で少し口を挟んである程度の説明をシエルにしてもらう。ここまで話さないと学園長は納得しないだろうし、どうせ伝えるのなら早く答えてしまった方が時間()無駄にならないから。


「そうだね、間違いない。そう言うことならよかった――……と言っていいかはわからないか、複雑な気分だよ」

「それは大変ね」

「他人事だね」

「他人事だもの」


 安心した様子を見せながらも、複雑だと言った学園長がなにを考えているのか。それはわからないけれど、どうやら納得はしてくれたらしいので良いだろう。

 まあ、リーエンス先生が目標を達成することを応援してはいるものの、その目標を達成したら死んでしまうわけで、学園長でなくても複雑な感情は持つかもしれない。

 学園長はあまり人に死んでほしくないようだし。そのあたりのことを確認したいので、シエルに頼んで聞いてもらう。


「ところで、リーエンスに人を殺さないように言ったのは学園長よね?」

「リーエンスがやっていることを考えれば、いつ狙われるかわからない。それで身を守るために殺して問題になれば、ワタシもリーエンスを庇うのは難しくなる。

 それにリーエンスを狙う者だって愛すべき才能かもしれない」


 実に学園長らしい返答だとわたしは思う。禁忌を犯す――神の意志に反する――ことを目標にするリーエンス先生をも支援し見守る対象とするのだから。

 根本的に学園長は人が好きなのだろう。人というか、人が成長するのを見るのが好きなのだと思う。それを生き甲斐として、判断基準として社会通念的善悪を介さない。


 彼女が否定するのは人の成長を邪魔する行為――それこそ殺しなど――に違いない。

 だからリーエンス先生に狙ってきた相手を殺さないようにと言い含めていたのだろう。捕らえた後は、学園長が説得なりなんなりをする手はずになっていたはずだ。

 きっとそれだけの力も権力も学園長は持ち合わせているだろうから。


 リーエンス先生が従っているのも、この学園内なら学園長が守ってくれているからなのだろう。利用しようとすことなく、反社会的な行いを支援してくれるのは他にいないだろうから。それに後ろに学園長がいるからこそ、あの日強気で出られた部分もあったのだと思う。


「それならよかったわ。殺意を向けられていたら手加減するなんてしなかったもの」

「仮にそうだとしても、君なら殺されることはなかったんじゃないかい?」

「どうかしらね。でも死なないからと、その相手を殺そうとしてもいいのかしら?」

「それは……」


 わたしたちの考えは学園長としては賛成しがたいのだろう。だけれどシエルの言葉を否定するつもりもないらしい。

 学園長が「強者の義務が」とか言うタイプではなくてよかった。

 それを言われてしまうと、わたしはきっと学園長を嫌ってしまうから。そう言う気持ちで自分が頑張るのは自由だけれど、強要してくるのであればわたしだったら叩き潰しかねない。


 実際叩き潰すことはできないから、八つ当たり気味に実験するだけだけれど。今までとは違った歌姫の使い方の実験を。


「ともかく君がリーエンスに何かすることはないと言うことだね」

「そうね。でもエルベルトについては知らないわ」

「エルベルト家がどうしたんだい?」

「リーエンスを支援していると思ったのだけれど、違ったかしら?」

「その事実は学園の記録にはないね」


 シエルにカマを掛けてもらったのだけれど、学園長が本当に知らないのか、反中央派のエルベルトがリーエンス先生と関わっているというのがわたしの勘違いだったのか。

 エルベルトが学園に大量の魔石を密かに搬入して、それをリーエンス先生が受け取って研究をしていると思ったのだけれど、違ったのだろうか?


 リーエンス先生の言動の端々にもどこからか大量に魔石を入手できる経路を持っているような感じがしたのだけれど、考え過ぎだったのかもしれない。

 と思っていたら、学園長は勿体つけたように「と言うことになっている」と続けた。


「つまりエルベルトとつながっているのね」

「君も半ば確信はしていたんだろう?」

「どうかしら? 少なくとも確信まではしてないわ」

「それでもカマをかけようと思うほどだったのに違いはない。とぼけてみても表情一つ変えなかったし、下手に隠さない方がいいと思ってね」


 わたしとしては助かるけれど、思いの他にペラペラと話してくれる。

 とぼけてみて騙されるならよし、駄目なら正直に話すつもりだったのだろうか? わたしが表に出ていたらすんなり騙されていたかもしれない。


『シエルはよく表情を変えませんでしたね』

『エインが言っていたことだもの。それに正直エルベルトにそこまで興味がないのよね。私たちやフィイに何もしないならそれで良いし、何かしてきたらそのときに考えたら良いもの』

『確かにエルベルトの魔石がリーエンス先生に流れていたとしても、別に何かあるわけではありませんね』


 わたしに対するシエルの信頼が重いことは今更というか、今言ったところで仕方がなさそうなので、あえて触れないようにして状況を考える。

 エルベルトの魔石がリーエンス先生に流れ、中央に対する何かにするつもりであればまだしも、彼が作ろうとしているのは一種の永久機関のようなもの。魔石の不要な魔道具の開発。


 その利用価値は計り知れないものの、生活が便利になるとか、戦闘可能時間が延びるとか、まあそれくらいの効果でしかない。

 巨万の富を得られるだろうし、周辺国家に強気に出れるだけの軍事力を手に入れられるかもしれないけれど、それだけでは中央――というかわたしたちやフィイ母様――をどうにかする事はできない。


 それに作られた時点で失われるのだから、リーエンス先生の研究結果がエルベルト家に渡ることもないだろう。現段階でリーエンス先生から成果を聞き、自力で禁忌に至ったとしても、それもまた自滅して終わり。


「一応言っておくけれど、エルベルト家は()()中央に牙を剥くつもりはない」

「反中央だったわよね?」

「中央に屈しないと言うポーズを取るだけでも、利益は得られるものだ。それにあくまでも中央に牙を剥かないと言うだけだからね。

 ()はオスエンテ王国は中央と対等であるべきだと主張している派閥になる。その実、以前とはあまり変わりないけれど」

「不平等なのかしら?」

「そういう条約があるわけではない。でも中央は各国に少なくなく影響力を持っているだろう?」


 国をまたがって存在する二大組織の本拠地がある――教会は微妙だけれど、少なくともハンター組合はある――中央は、否応なく各国に影響力を持つのはどうしようもないことだ。

 そして、その影響力を活用するかどうかと関係なく、それを不公平だと感じる人もいるのだろう。


 だから反中央派なるものが生まれ、それに同調する人も出てくると。

 学園長の話を総合すると、エルベルト家はあわよくばフィイ母様を倒して、中央を手に入れるか、弱体化させたかったのだろう。

 それが現在の主張に変わったのには何か理由があったに違いない。そしてそれには覚えがある。


 邸襲撃未遂事件とでも言うべき、あの出来事。わたしたちが邸に攻めてきた人たちを返り討ちにした時の話。

 そこにエルベルト家の息がかかった者がいても、まあ不思議ではない。

 自分たちのことながら、それで戦う気がなくなったのだとしてもうなずける。


 そのために叩き潰しているのだから、計画通りなだけか。それにフィイ母様が何もする気がなくても、中央にいる人たちがどう考えているのかはまた違う。

 中央というネームバリューを使って、他国でいい思いをしようと考えている人がいないとも限らない。


 それで中央に迷惑をかければ追い出されるだろうけれど、うまい人はその辺のさじ加減をわかっていて母様が見逃すぎりぎりを攻めていたりするのかもしれない。


 政治的思惑に対して、何もされていない段階から首を突っ込むのはいらぬ苦労を背負いそうなのでこの件に関しては別にいいとして、問題はレシィ姫を巻き込んだ魔物氾濫について。

 エルベルトが起こしたあの魔物氾濫は、レシィ姫を狙ったものだったのには違いない。だけれど同時に大量の魔物を討伐することで、大量の魔石を手に入れようとしていたのではないかと思われる。


 この国において、あの程度の魔物氾濫の対処はよく行っている範囲だろうし、エルベルト家だけで対処できるつもりだったのかもしれない。

 そこまでではなくても、一番に現場に駆けつけてより多く魔物を倒すことで、人々の支持を得ながら報償として大量の魔石を手にしようとしたとか。

 魔物を引き寄せる薬を使った愚か者たちは氾濫に巻き込まれて死亡するだろうし、中央と戦うにしろ、戦わないにしろ邪魔なレシィ姫も排除できる。


 多少の被害に目をつぶっても、エルベルトとしては大きなメリットとなる作戦だったのかもしれないけれど、わたしたちが通りかかってしまったから魔石すらなくなってしまった。

 そう考えると今のオスエンテの魔石不足の原因はわたしたちにもありそうだけれど、大本はエルベルトになるわけだから苦情はそちらにお願いしたい。まあ、苦情はこなかったわけだけど。


「まあ、手を出してこない限りどうでも良いのよ。気になるから聞いてみただけだもの」

「本当に君は……――いや、それでいいならワタシは何もいうまいよ」


 何とも何か言いたそうにしていた学園長だけれど、結局その言葉を飲み込んでシエルを刺激しないようにすることにしたらしい。

 変に突っついて「じゃあ、エルベルトを滅ぼせばいいのね」と言い出したらたまったものではないだろうし、それで正解だと思う。

個別の感想返しをする余裕がないので、今後こちらでいくつか答えるようにしたいと思います。

Q.リーエンス関係

A.世界的にもエインやシエル的にも禁忌を犯すのは、それほどでもないです。

  というのも、神罰が下ることが確定しているからです。万が一神罰を回避するような人などがいたら、世界的に危ないのでフィイヤナミアが出動するようになります。


Q.休暇でパーティメンバーを中央に招くか

A.この年については未定です。そのうち呼びたいなーとは思っていますが。

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― 新着の感想 ―
[一言] シエルの実家の事もあるしこれから物語がどう進んでいくか楽しみ
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 一応二人に色々な世話をしてくれたから、エインさんは最高神様好きだと思うけど、シエルさんの方が強く感謝していますね。 父親の件も有って、てっきり先生が研究して…
[一言] あの邸襲撃が国を越えてまで影響を与えていたとは.. 思った以上に世界への中央の影響力は大きいんですね。
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