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閑話 受付嬢と魔術師と10歳の少女(前) ※セリア視点

 シエルメールさんを女性向けの宿に連れて行ってから、まっすぐギルドまで帰ってきた。

 本当は適当に寄り道をしながら、夕飯でも買ってカロルと食べようと思っていたのだけれど、送っていくまでのやり取りのせいで早く話し合いをしないといけないと思ったからだ。

 きっと私は彼女に試されている。そう思わずにはいられない内容だった。


 それは同時に、私を信頼してもいいという心の表れでもあったのだと思う。

 見た目は10歳に満たない可愛らしい女の子でしかないのに、中身が全然伴っていない。

 年齢相応の反応をすることもあるけれど、とても頭が回る。話していて、ぎょっとすることも1度や2度ではない。

 カロルの話と私が見た氷の槍を受け止めている姿を信じるならば、彼女は10歳にしてかなりの強さを持っているだろう。



 ギルドにはいくつも部屋があるけれど、特別な依頼などでハンターと個別に話さないといけないこともある。そういうときのために用意された、名前の決まっていない――職員の間で「小部屋」と呼ばれている――小さい部屋。

 いくつもある小部屋のうちの1つのドアを開けて中に入る。


「ただいま」

「おかえり」


 長年友人をしているカロルに迎えられて、促されるままに椅子に座る。

 カロルは何でもないような顔で「で、説教はするのかしら?」と尋ねてくるけれど、しないわけがない。でも、まずは説教よりも大事な案件がある。


「それは後回し」

「じゃあ、彼女についていろいろ探れたのね」

「探れた……わけじゃない。あれはたぶん、あえて教えてくれていたって感じ」

「ふぅん。やっぱり普通じゃないのよね。氷の槍を耐えてまだ余裕があるってだけで、10歳の子供ではないけれど」


 カロルが興味深そうに話す。私も彼女についてはかなり興味深いのだけれど、まずは情報を整理していきたい。

 最初は改めてカロルに話を聞こうか。


「10本使ったのは本当?」

「間違いないわね。正直やりすぎたとは思っていたけれど、まさか全部防がれるとは思ってなかったわ」

「だとしたら、防御力に関してはA級並はあるってことよね」

「攻撃力もB級は確実にあるわ。今回と同じ条件だと、ワタシでは勝てないし負けないってところかしらね。職業を解禁したら勝てるだろうけど。

 ただ結界に関しては、ワタシでは比べ物にならない練度ね。正直頭おかしいわよ。あれ」

「カロルがそこまで言うほどなの?」


 投げやりに言い放ったカロルに、つい眉をしかめてしまう。

 私は魔術に詳しいわけではないので、何が頭おかしいのかわからないというのも大きいだろうけれど。

 でも10歳の女の子に、頭おかしいというのは、あんまりではないだろうか。


「氷の槍を相殺するほどの防御性能があるっていうのはいいわよね?」

「実際に見たからね」

「それだけでも、10歳が使う魔術じゃないわよね。あの結界があるだけで、魔物の生息域の8割は鼻歌交じりに歩けるわ。

 加えてワタシは、槍が彼女に当たるまで、結界があるなんて気が付いていなかったの。

 だからやらかしたなと思っていたんだけど」

「結界があると知っていたから、使ったわけじゃないと」


 本当にシエルメールさんじゃなかったら、私の首は飛んでいたのではないだろうか。

 いや、実際は問題にもならずに終わるかもしれない。カロルは新人殺しなんて、「ちょっとしたこと」と不問にされるだけのランクがある。

 しいて言えば、私が精神的に参ってしまうくらいか。


「そもそも、なんで彼女に近づいたの?」

「だって彼女、Bランクの魔物の魔石を2つ持っていたのよ?

 あの年で、自分で手に入れたのだとしたら、興味がわかないわけないじゃない」

「Bランクの魔物を倒せるのを知っていたとしても、氷の槍は使う必要なかったと思うのだけど」

「今日はやけに蒸し返すわね。ワタシも反省してはいるし、彼女にしてみたらいい迷惑だったと思うけれど、セリアにしてみたら彼女の実力を正確に判断出来てよかったじゃない」


 確かに強いと言っても、目の前で氷の槍を防ぐところを見ることができたかどうかで、実感は変わってくるだろう。

 私も何度かカロルが氷の槍を使うところを見たけれど、10本もあればあの程度の訓練場なら軽く氷漬けになっていた。

 それだけのエネルギーを秘めたものを、目の前で防いだうえに周りへの被害も出さずに終えたのだ。私の中での彼女の評価は一気に変わる。


「で、あの結界だけど、彼女常に張っているわよ」

「常にって?」

「言葉通りよ。ワタシが把握している限りだと、模擬戦の後、ワタシが近寄った段階ではすでにあったんじゃないかしら。

 以降、ここで話しているときも、セリアが宿に連れて行くときもずっと使っているわね」

「全く気が付かなかったんだけど」

「ワタシが注意して注意して、ようやく気が付くくらいかすかなのよ。それなのに、氷の槍を防げる。

 それが常に張られている。ね、頭おかしいでしょう?」


 カロルの言葉に思わずうなずいてしまいそうになる。頭がおかしいとは言わないけれど、常軌を逸しているようには感じる。

 大体氷の槍が効かなかった事態を私は知らない。それを防いだという意味では、結界に当たるまでの9本をどうにかした方法も十分に頭がおかしい域に入るだろう。


「あれを発展させたら、結界魔法の究極系といえるわよね。既に魔術名が付いてもいいレベル。

 魔力消費の削減っていうのは、1つのテーマだけれど、その観点から見てもあの結界は格別のサンプルよ。魔術を使っていると気が付かせない技術も、すでにトップクラスよ」

「はいはい」

「連れないわね。あと、さっき職業を解禁すれば勝てるっていったけど、たぶん彼女も奥の手隠しているから、全力で戦ったらどっちが勝つかわからないわ」

「待って、まだ強くなるの?」

「あの結界があるだけで、B級以下では勝負にもならないと思うけれど」

「それは確かにそうなんだけど」

「まあ、こればかりは想像でしかないわ。戦ってみた感じ、行動の1つ1つに余裕があるなと感じただけだもの。なんていうのかしら、「本気を出したら何とかなりそうだな」みたいな雰囲気ね。

 もちろん、無意味に自信たっぷりに見せていたのかもしれないから、絶対ではないわ。

 でも、その自信に裏打ちされた強さはあるのよ。後者の可能性も否定できないから、ワタシのランクは隠していたほうが良いわね。彼女、ワタシのことB級だと思っているわよ」

「シエルメールさんが増長するとは思えないけど妥当かな。

 B級っていうのは間違ってないもの」


 カロルはB級ハンターではあるけれど、ただのB級というわけではない。

 B級というだけで"ただの"なんてつけられないけれど。


「彼女については、色々推論は立てることができるけれど、その前に情報は必要よね。教えてもらったんでしょう? 何を尋ねたのかしら」

「私が訊いたのは、どうしてランクを上げを急ぐのか。

 要求がランクを上げるだったからね。ランクを上げたいっていうの自体は珍しくないけど、彼女はまた違う感じがするじゃない?」

「まあね。で、答えは何だったのかしら?」

「この国から逃げたいんだって」

「10歳の女の子が国から逃げるね」

「逃げたい理由は教えてくれなかったけれど。いえ、その前に国から逃げるのに反対か尋ねられたね」

「セリア、厄介なことに巻き込まれたわね。それで何と返したのかしら?」


 カロルが興味深そうに私を見る。むしろ、面白そうにと言ったほうが近い。

 要するに、私がこの件にどこまで関わるつもりなのか、気になるのだろう。


「この段階では、()は賛成したよ。この町のギルドとしては、他に回すには惜しいから、引き留めるべきだろうけれど」

「ということは、彼女を手助けするのかしら?」

「結論は後回し。この時には、手を出すか測りかねていたから。

 何せ彼女、魔道具を見たことがないって言ったのよ。使い方がわからないって。何気なく話題に出した感じではあったけれど、魔道具の認知率を計っていたんだと思う」

「ド田舎以外は、広まっているわよね。下級の魔物の魔石くらいなら簡単に集まるもの。

 魔道具自体の値段も物にもよるけれど、安いものはかなり安いわよね」

「一般家庭で使える程度には」


 だから普通に生きていれば、明かりをつける魔道具くらいなら見ないはずがない。

 それが何を意味しているのかは、いったん横において、私がされた質問をカロルにもしてみることにした。

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作者別作品「クラスメイトに殺された時、僕の復讐は大体達成された」が「第一回スターダストノベル大賞」で優秀賞を受賞し電子書籍化が決定しました。
2020/5/29から第一巻が配信中です。
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