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182.教会と話と疑惑

「人と切っても切れない関係にある職業ですが、アーシャロース様の頼みで授けられました」

「アーシャロース様が授けてくださったわけではないのですか?」

「そうですね。正確には力のない人族のためにアーシャロース様を含めた神々が授けてくださったとされています。アーシャロース様は愛の神で癒しなどを司っていますが、戦いが得意というわけではありませんから」

「それぞれの職業に対応した神様がいると言うことですね」


 仮面もフードもはずして、黒髪も白髪に戻したシエル――エイルネージュ――スタイル。さすがに教会にエインセルスタイルで行くと騒動の元になるから。なんならシエルに主導権も渡そうとしたのだけれど、今日はエインセルの日だったからと断られた。

 教会には離れたところに扉が二つあって、片方には治安が悪そうな人たちが出入りしていて、もう片方には町の人みたいな人が出入りしている。要するにハンターだけ入り口が違うらしい。まあ、礼拝に来た人とハンターが一緒の扉からとなるとトラブルになりそうと言うか、一般の人が入りにくそうだからこの形になっているのだろう。


 わたしたちはひとまず一般向けの扉から入った。格好はちょっとハンター寄りだけれど、貴族令嬢のお忍びには見えるだろうし、ハンター組合で面倒ごとに巻き込まれたのでちょっとハンターが集まっているところには行きたくない。

 教会に入ったところでシスターに捕まって、お布施をお願いされた。ざっと見た感じ誰にでもお願いしているわけではなさそうなので、きっとお金を持っていそうな人にだけ頼みにいっているのだろう。


 これを拒否したからと入れないこともないのだろうけど、神社でお賽銭を入れるようなものだし別に忌避感はないので、シエルに話してからお布施を渡そうと思った。思ったけれど、どれくらい渡せばいいのかがわからない。

 試しにいくらくらい渡すものなのか聞いてみたけれど、お気持ちで十分だと返ってきた。なにも参考にならないけれど、お布施なのだから具体的な金額を伝えるのも違うのだろう。


『いくらぐらいですかね?』

『大金貨10枚とか渡したらどうかしら?』

『それは目立ちそうですね。まあ、金貨2~3枚とかにしておきますね』

『ええ、それでいいのよ』


 シエル的には有り余るお金をここで吐き出したかったのかもしれないけれど、さすがに大金貨10枚はやりすぎだ。何せ今使っている寮の部屋一年間分と同じなのだから。正直金貨2~3枚も軽々しく渡せる額ではないけれど、貴族として見られているなら――貴族令嬢のお忍びと考えると――これくらいかなと言う気がする。


 しかしながら、実際に渡してみると驚かれてしまったので、渡したシスターに簡単な案内を頼むことにした。金額のせいか、わたしたちが――彼女の中で――貴族だと判明したからか、快く引き受けてくれて、左右に扉がいくつもある長い廊下を歩きながら現在話をしてくれている。

 具体的には神様の話から職業の話になったけれど、職業についてはわたしのほうが詳しく知っている部分もあるらしい。例えば職業システムの基礎を作ったのが創造神様とか。


 神様と言えばアーシャロース以外にも、技術の神とされるメーテストス、武神のクーアクレス、魔術の女神ウァートルース、そして主神とされるテュルノルスについても少し話してくれた。

 クーアクレスとテュルノルスがアーシャロースに恋をしていたとか、そんなことも話していたけれど、聞き覚えがある話だったし、正直興味はない。


 そうやって話している間に礼拝堂にたどり着いたからか、シスターはいったん話を止める。ステンドグラスから色とりどりの光が射し込む礼拝堂は、どこか神々しくて観光するには良いところだなと思う。シエルが『綺麗なところね』といっているのもポイントが高い。

 たぶんこれを静かに見せるために、黙ったのだろうなと考えると、シスターは気が利く人なのだろう。


「綺麗なところですね。心が澄み渡るようです」

「はい。私が言うのもなんですが、自慢の礼拝堂です」


 わたしの言葉に気をよくしたらしいシスターが嬉しそうに応える。


「正面の像はアーシャロース様のものなのですか?」

「そうですね。この教会ができたときからある、女神像だと聞いています」

「それは……とても立派なものなのですね。良ければアーシャロース様についてお話を聞いても良いでしょうか?」

「私が答えられる範囲でよろしければ――ですが、そのまえに場所を移動してもよろしいでしょうか?」

「もちろんです」


 入り口で立ちっぱなしと言うのも邪魔だろうから、シスターの言葉に頷いてから空いている椅子に座らせてもらう。多いのか少ないのかわからないけれど、いくつも並べられた長椅子――わたしが座ったところ以外――には一人は人が座って祈りを捧げてたり、本を読んだりしている。

 シスターは座るわけにはいかないのか、場所は空いているものの座ろうとはしない。


「さて申し訳ないのですが、アーシャロース様については、先ほどお話ししたこと以外だとあまり話せることはないのです。なにか聞きたいことはありますか?」

「人に語りかけてくれるのはアーシャロース様だけだとお話しくださいましたが、どのようなお言葉が聞けたのかは、わかりますか?」

「それなら、お答えできます。最近ですと私が生まれて間もない頃、強い魔物が辺境に現れることを教えてくださったそうです。あとは少し前にも『より広く自分の教えを人々に伝えるように』と」


 シスターが生まれて間もない頃となると、20年くらい前になるのだろうか? もしかしたらもう少し若いかもしれないけれど、思ったよりも近い時期に神託が下されているらしい。その時点でわたし的には怪しいなと思ってはいるけれど。その次のも神が本当に言ったのか甚だ怪しい。なにせアーシャロースは……というか、教会はほかの神を信じることを禁止していないから。おそらく世界最大の宗教だろうし、広めるようにとは言わないと思うのだ。

 アーシャロース的には自分を含めた世界の神々を指している可能性はあるけれど、なんだか胡散臭い。何より、創造神様が言っていた拗ねている神はアーシャロースだと思っているし。


「それから最も有名なのが『人々に平等に癒しを届けるように』という言葉です。その言葉通りに教会では平等に癒しを届けています」

「アーシャロース様はわたしたちのことをよく考えてくださっているんですね」

「ええ、そうなんです」


 我がことのように喜ぶシスターはとても信心深いのかもしれない。もしくはペテン師か、単純にわたしの予想が外れているのか。


「癒しといえば、治療を頼みたいときにはどうしたら良いんでしょうか?」


 話が一段落したようなので聞きたいことを聞いてみると、シスターの表情が固まった。まるでピキッという音が聞こえてきそうなほどだ。たった今平等に癒しを届けるのがって言っていた割に、料金を取るからなのだろうけれど。

 どう返ってくるのかなと思っていたら、取り繕うように慌てた声を出した。


「お怪我をなされているのですか?」

「わたし、第二学園に入学していまして、知り合いが怪我をするかもしれないんです。そのときにどうしたらいいのかというのが、今一つわかっていなくて……」

「えっと、言っていただけたら専用のお部屋に案内できます。もしくはもう一つある入り口から入れば受付があるのですが……どちらにしてもそれなりにお布施をいただくことに……」

「教会を運営するうえでもお金は必要でしょうから、そこは仕方がないですよね」

「そうなんです。理解していただけているようで良かったです。たまに怒鳴ってくる人もいて……」


 遠い目をするシスターの苦労が忍ばれるが、もう少しつついておこう。来たくなかった教会だけれど、来たのであればいくらでも情報は欲しいから。


「具体的にはどれくらいになるんですか?」

「一般的な奇跡で大銀貨2枚ほど、より高い奇跡なら大金貨数枚いただいています」

「一般的な奇跡はどの程度の傷まで治せるのですか?」

「骨折くらいであればすぐに治すことができますし、ある程度の病気も完治させることができます。高度なものになりますと、新しい欠損した部位の再生やより重い病気にまで対応ができます。ただ病気に関しては、治せないものも少なくないのが心苦しいところです」


 だいたい一般的な奇跡とやらが初級ポーション程度の回復力に、病気の治療ができると。確か初級ポーションが大銀貨5枚とかだった気がするので、安いとは思う。それでも一般的に安くはない。一般家庭だと年に何回も来るのは難しいかなってところだと思う。

 おそらく一番値段が高い治療だと、歌姫のそれよりも効果は高い。歌姫だと切れた部分をくっつけてつなげるくらいが限界で、欠損部位から生やすというのは無理だから。


 平等に癒しを云々は、おそらく料金が一律の金額で――身分関係なく――ってところで納得してるのだと思う。無料で誰にでもと言うのが理想かもしれないけれど、教会で働く人がいる以上お金は必要だし、非営利集団だとしても最低限はお金が必要になる。教会が本当に非営利なのかはおいておいて。

 たぶん神殿を維持するお金とかもかなりかかるのだろうし。


 それにしても、さすがに死者蘇生のようなものはないんだなと思っていたら、シスターが自信たっぷりに「ですが」と続けた。


「簡単な怪我などであれば、決まった時間に礼拝に来ていただけるだけでも治すことができますよ」

「決まった時間ですか?」

「はい。そろそろ始まると思います」


 シスターがそういってから少し経ったところで、どこからともなく()が聞こえてきた。いかにも教会っぽい女神を讃える歌。どこから聞こえているのだろうかと辺りを見回してみてもそれらしい人は見つからず、そしてわたしにはこの歌について思い当たることがあった。


『これ、歌姫の歌ね?』

『そうだと思います』

『エイン以外の歌姫の歌は初めて聞くのだけれど、エインの方が上手ね』

『それは……ありがとうございます。えっと、少し実験をしても良いでしょうか?』

『かまわないわ』


 なにをするのかは言っていないのだけれど、シエルから了承を得たので周りの人にバレないようにナイフで指先に傷を作る。シエルの体を傷つけるなんて本当はやりたくないのだけれど、今後のシエルの安全のために、これはどうしても確かめておきたかった。


 傷を付けて少し様子を見てみた感じ、特に変化はない。痛みは一定で、血も止まる様子もない。

 それからとある結界を加えて、なにをするのかわかっていたらしいシエルと入れ替わる。

 すると徐々にではあるけれど、指の痛みがひいていくような感じがした。シエルが傷つけた部分を盗み見ると、血が止まり傷が癒えているのがわかる。


 そのままシエルが主導権を握っていても良かったのだけれど、結果が分かった段階で再びわたしと入れ替わった。


『これはエインに頼むしかなさそうね』

『そこまで警戒する必要はないと思いますが……万が一のときには、わたしが逃げるしかなさそうです』

『それでエインはどうするのかしら?』

『どうもしませんよ。やっぱりそうだったんですねー、って感じですから』


 一連の行動は歌姫の歌に対する実験。歌姫の歌を果たして防御することができるのかというもので、結論は歌姫でしか対抗できない。音をシャットアウトしても駄目だし、今のわたしの結界もすり抜けるらしい。

 とはいえ、フィイ母様に歌姫での弱体化が効くとは思えないし、精霊にも効かないはずなので、そこまでいくと自分に影響を及ぼせるかどうかを選択できるのかもしれない。わたしたちだと、50%神様になるまでって感じだろうか? もっと上かもしれない。


 とりあえず、シエルに何かあってもわたしに代われば影響はなさそうなので、今回は安心しておくことにしよう。


 それから続くシエルの問いは、ここにいるであろう歌姫をどうするかだけれど、わたしとしてはどうする気もない。教会への不信感は強まったけれど、シエルが助けると言い出さない限りは手を出さないし、たぶんシエルもどうにかしようとは言わないと思う。


「今のは歌……ですか?」


 歌が終わったところで、シスターに尋ねてみる。


「高位の力を持つ神官だけが使えるという歌で、聞くものにちょっとした癒しを与えてくれます。歌と言うことで、初めての人は不思議に思う――中には忌避してしまう――人も居ますが、不吉なものではありませんから安心してください」

「そうなんですね。どなたが歌っているのか教えていただけませんか?」

「残念ながらお教えできません。そういう私も知らないのですが」


 正体を知るのは上の人間だけということだろうか?

 まあ、これ以上このことについて聞いても意味はなさそうなので、別のことを聞こう。

感想返信できずに申し訳ないです。時間ができたら返信しますので、ご容赦くださいませ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 歌姫差別してるのに、歌姫を使ってるのか。 そもそも教会も謎神とつながってるようだし、危険だな。
[良い点] きな臭くなってきたな [一言] 歌職差別の事はさておき、愛の神が拗ねてるの(推定)ってもしかして…?
[気になる点] ・神託の内容と歌姫の扱い 神託の方は『より広く自分の教えを』の部分が、歌姫の扱いの方は不遇なはずなのに歌姫を裏で利用してるっぽいのが気になる ・楽器絡みの職が未登場な事 単に道具が必…
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