閑話 シエルと○○ ※シエルメール視点
【シエルが見るダンス】
試験の最後でなぜかエインとレシミィイヤが一緒に踊ることになった。
ここでのダンスはエインがやると決めていたし、エインのダンスが見られると思って私も二つ返事で認めてしまったのだけれど、あとになって思うと何が何でも私が踊ればよかったと思う。
だってこういった場でエインが最初に踊る相手になれなかったのだから。
レシミィイヤとの会話内容まで考えると、エインがダンスをしていてよかったとは思うけれど、嫉妬せずにはいられない。
踊りましょうとエインに手を伸ばすのは、私でありたかった。
エインの手を引いて、精霊たちに囲まれて踊りたかった。
でもここで踊るのがレシミィイヤではなかったとしても、エインは誰かとダンスすることになっていたのだ。
生まれて初めて踊りに対して怒りたくなった。
どうしてパーティのダンスは2人組で踊らないといけないのかしら?
幸いなことは、エインがダンスを楽しんでいる様子はなく、レシミィイヤとの会話でいっぱいいっぱいなところ。
不幸なのはレシミィイヤがエインを引き立てるようにダンスを踊っていること。
でも、エインと楽しくダンスするのは私が最初だ、と心に誓って二人の様子――といってもエインが見えている範囲しかわからないのだけれど――を眺める。
エインは気が付いていないようだけれど、レシミィイヤはやっぱりエインが映えるように踊っている。
だけれど、エインもエインで、レシミィイヤとの接触をできるだけ避けているから――結界を使っているからどこもまるで触れていない――良しとしておこう。
だんだんレシミィイヤがエイルを探りはじめ、エインが困っているのがわかる。
エインを困らせていいのは私だけなのに、わかっているのかしら?
エインを困らせるときは、困らせすぎてはいけないの。ちょうど可愛いエインが見られるギリギリを狙わないといけないのよ?
そう考えると、レシミィイヤはまだまだね。
エインはとりあえずとぼけている様だけれど、レシミィイヤが仮面をしたエインのことに言及したときにエインが驚いた様子を見せていた。
様子を見せたといっても、ほんの少し。
エインが気を付けていたのに、レシミィイヤにそれを言及されたのは驚いたので、エインに聞いてみることにする。
『エインのことがどうして気づかれたのか、何か思いつくかしら?』
『レシミィイヤ姫に最初に会った時に隣にいた赤髪の令嬢がいましたよね』
『いたわね。確か同じ部屋で試験を受けていたかしら』
『そうですね。おそらく彼女が鑑定系の職業を持っているのだと思います。もしくはわたしが何か気づかないうちに失敗していたからですね』
『だとしたら、鑑定系の職業だったのね。エインが失敗しているはずはないもの』
なるほどエインはよく見ている。
だけれど、エインはいろいろと考えすぎていると思うのよね。
エインが失敗するのであれば、ほかの誰でも失敗すると思うもの。
『そういっていただけるのは嬉しいですが、失敗していないとは言い切れませんよ?』
なんてエインが言うのは、私のことを守るため。後悔しているだけではなく、少しでもエイン自身に落ち度があれば、それを無くそうとしているエインの向上心の現れなのだと思う。
そこまでしてくれるのは嬉しいし、そんなエインを応援はしたいけれど、いつものことだけれど、エインは少し頑張りすぎている気がするのよ。
私だってエインが失敗することくらいあるのは知っている。
エインが失敗してくれたおかげで、私は可愛いエインをたくさん見ることができたから。
わかっていてエインに言わない私は悪い子なのね。悪い子なのよ!
でも今はエインにそこまでしなくても大丈夫だと知ってほしい。
大体失敗したとしても、私が危機に陥ることなんてそうそうありはしないのだから。
いじらしいエインを思うとなんだか笑みがこぼれてしまって『わかっているのよ』という声に混ざってしまった。
『だけれど、エインが失敗している可能性まで考え始めたら、きりがないのよ。何より今までエインは私を守ることには手を抜いたことも、気を抜いたこともないわよね。
それに鑑定系の職業を持っている可能性を考えていて損はないのではないかしら?』
『確かにそうですが、鑑定に対して今以上にできることもないんですよね』
エインの言葉が早口になる。私の気持ちが少しは通じたのかしら?
早口になるということは、照れているからだと思うのだけれど。
『むしろ鑑定に関して、エイン以上に対策している人も少ないと思うのよね。だとしたら、仕方ないと割り切るしかないのではないかしら?』
『まあ……それは……』
『できないこと、どうしようもなかったことまで、自分のせいにしてしまうのはエインの悪いところなのよ?
そんなエインももちろん愛おしいけれど、心配になってしまうわ』
リスペルギアの屋敷にいたときからそうだ。エインは最善を尽くしてきてくれたと私は思うのに、エイン本人がそうは思っていない。
そうして優しいエインは傷ついてしまう。
『ありがとうございます』
どう返せばいいのかわからず、思わず口にしたであろうエインのお礼がなんだかとてもエインらしくて、私も思わず『エインは可愛いわね』と返していた。
【シエルと授業選択】
「魔道具学はわかるのだけれど、魔術の基礎なんて今更エインが受けても仕方がないと思うのだけれど」
合格発表も終わり、ミアがお金を持っていくために部屋を出て行ったので、エインと授業をどうしようかと考えている。
だけれどどういうわけか、エインは初級魔術の授業を取ろうという。
今更エインが学ぶことはないと思うのだけれど。
『無駄かもしれませんが、特にわたしは魔術は独学でやってきましたから、少し気になるんですよね。
案外新たな発見があるかもしれませんし、エイルネージュで使ってよさそうな魔術を吟味できるかもしれません』
「そういうものなのね? ということは、ハンターの方もそうなのかしら?」
『似たようなものですね』
確かにエイルネージュが使える魔術をどうするのか調べるのは大切なのかもしれない。
そうでなければ、エイルネージュを作り出した意味もなくなってしまうだろうし。でも私としては、そこまで気にしなくていいのではないかな、と思いもする。
ハンター向けの授業も、初心者が入るところから受けるつもりらしく、徹底しているなと感心した。
『シエルはやはり人形魔術なんですね』
エインが言う通り、私が受けたいと思うのは人形魔術くらい。
ゴーレム関係も面白そうだなと思ったけれど、人形魔術と時間が一緒になるのであきらめるしかなかった。
こうやってやりたくても出来ないことがあるというのは、不思議な感じだ。今まではエインと一緒にいられればそれでよかったし、これからもそうだけれど、それとは別にやりたいことが増えたからだろうか?
「このために学園に入学したようなものだもの。できればゴーレムの授業も受けてみたかったのだけれど、時間が一緒だから無理だったのよね」
『本当ですね。そういえば、シエルは人形魔術で何をしたいんですか?』
「エインの体を作るのよ?」
ほかに何があるというのかしら?
人形ということは、あまり大きいものにはならないかもしれないけれど、小さいエインもそれはそれで可愛いと思う。
掌の上で歌ってくれるエインを想像すると、それだけで顔がにやけてしまいそうだ。
もちろんエインに無理強いをしたくはないけれど、何かあった時に体があったほうが便利なこともあるかもしれない。
『難しいかもしれませんよ?』
「できるかどうかを知るために学ぶのよね?」
『そうですね』
「エインはあの日が早くまた訪れてほしいとは思えないかしら?」
あの日はエインに体が与えられた一日。
私はいつでも待ち望んでいるけれど、エインがそうでないならちょっと困ってしまう。
だけれどエインは『もちろん待ち遠しいです』と断言した。
ということは、エイン的に人形魔術に不安があるのかもしれない。それはそれだ、その時になってエインの不安が払しょくされなかったときに考えよう。
「またあの幸せな時間を過ごしたいのよ」
『溺れ切ってしまいそうですけどね』
「それはそれでいいのではないかしら? エインが一緒なら永遠にまどろんでいてもいいくらいだもの」
『その時には誰にも邪魔されない場所を作らないといけないですね』
「そうね、そうね!」
『その時になったらわたしが何とかしますよ』
「何とかできるのかしら?」
『その時になるころにはきっと』
つまり今はできないということかしら?
何にしてもこの話に乗ってきてくれたということは、その気があるということかしら。
だとしたらとてもとても、うれしいのよ。
さてその時が来たらエインが何とかしてくれるのであれば、今は授業の話に戻ることにしよう。
「エインは魔道具で何をする気なのかしら?」
『魔法袋を作れないかなと思っていまして』
「そういえば前に弄っていたわね。そして私たち……というか、エインにしか使えなくなったのよね」
以前カロルにもらった小さな魔法袋は、エインの手によって容量が大きくなり、時間の進みが遅くなった代わりにエインに守られた人しか使えなくなった。
私は常に守られているし、勝手に私たちの魔法袋を使おうとする人のことなんて考えなくていいと思うから、別に構わないと思うのだけれど。
『一般的に使えるようにしたいですし、中の時間を止めるものも作りたいですね。
容量もより大きなものを目指しますが、これは他よりはまだ簡単な気がします』
「それを聞いたら多くの人がびっくりするのではないかしら?
魔法袋は作るのがとても難しいのよね?」
『そうですね。たぶん職業が「魔道具師」とかの人じゃない限り作れないような気がするんですよ』
「それはどうしてかしら?」
『多くの魔道具は明るくするとか、水を出すとか、一定の動きをさせるとか、やろうと思えば普通の魔術でできることばかりだと思うのですが、中にはどう考えても魔法の領域に足を踏み込んだものがありますよね?』
「言われてみるとそうね」
その代表例が魔法袋であるのは言うまでもない。
ほかにも魔術を使えなくする魔道具も、魔法に匹敵するものだろう。
そういったものが誰にでも作れるわけがなく、職業の力であればまだ納得できる。
「だけれど、そしたらエインも作れないのではないかしら?」
『そうかもしれませんね』
「でも作れそうだと思っているのよね?」
『たぶんできそうかな、くらいです』
「ふふ、エインはすごいわ、すごいわね!」
エインはできるかわからないという反応をしているけれど、口にしたということはそれなりに根拠があるということだ。
きっと成し遂げるエインを考えると、なんだかとても誇らしい。
もしうまくいかなかったとしても、落ち込んだり、恥ずかしがったりするのかなと思うと、それもありかなと思ってしまうのはエインには内緒ね。
その時にはちゃんと慰めるもの。
シエル視点がもう一つと、別視点がもう一つで、閑話を終えて本編に戻る予定です。予定です。





