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150.レシミィイヤ姫と内緒話

おまたせしました。(閑話を除いて)150話です。

 王族の住むフロアに行くためには、特殊な魔道具が必要になる。

 エレベーターの杖にその魔道具をふれさせることで、一時的に最上階へ向かうことができるようになるが、一度使うと壊れてしまう。

 これはあくまで招待した相手にのみ渡す魔道具で、レシミィイヤ姫は繰り返し使えるものを持っているのだろう。


 もしくは王族だけが使えるエレベーターがあるのかもしれない。


 約束の時間。ミアを連れて最上階に向かうと、扉の向こうにいつか見た騎士たちが立っていた。

 わたしたちに気がついた彼らの内の一人が、「良くいらっしゃいました」と声をかけてくる。

 それから、メイドが一人やってきて、頭を下げた。


「姫の元へとご案内いたします。ですがその前に、身体検査を受けていただいてもよろしいでしょうか?」

「かまいません。魔法袋も渡しておいた方が良いでしょうか?」

「そうしていただけると助かります」


 シエルが魔法袋をメイドに渡し、ミアも隠し持っていたナイフを騎士に渡していた。

 そんなものを持っていたんだなと、思わなくもないけれど、万が一の時に必要なのだろう。

 それからどのような感じで身体検査を行うのかと思ったら、なにやら魔道具を使って行うらしい。


 ミアに先に受けてもらってから、その様子を観察する。

 詳しいところまではわからないものの、いつもの結界を使っていても問題はなさそうなので、気にせずにエイル(シエル)にも受けてもらう。

 検査が終わったところで案内されて、フロアの奥へと向かった。




 最上階は居住スペースに加えて、三階にあるような施設も内包しているようだった。人もそれに見合うだけ働いているようだ。

 前世の記憶が人一人のためにここまでするのか、と言ってきそうではあるけれど、同時に今のわたしとしてはここまでしないといけないんだろうなと納得もしている。


 単なる顔合わせなので、入り口付近にある応接室と思われる場所――探知で探った――に案内されるのかと思ったのだけれど、意外にも奥にあるレシミィイヤ姫の私室と思われるような場所までやってきてしまった。

 本当にここで合っているのだろうかと案内のメイドの様子を窺っても、特に不審な点や困っている様子は見られない。


 間違えてやってきたわけでもなく、確信を持ってここまでやってきたらしい。

 うん。まあ、この部屋は魔術が使えなくなる例の魔道具が使われているようだし、そのほかにもいろいろと対策をしているのかもしれない。

 わたしの結界は問題なく使えるけれど、球状結界については気が付く人は気が付くだろうし、使うのをやめた方が良いのかは迷う。

 隠蔽マシマシのいつもの結界だけで守りに関しては何の問題もないし、ミアが狙われたとしても守れる自信はある。


 問題はこの対魔術の魔法具が魔術の発動はもちろん、維持し続けるのも本来なら難しいということ。

 だから結界を使い続けるにしても、部屋に入った時点で解けた事にしても、何か感づかれる可能性がある。レシミィイヤ姫に対していえば、何を感づかれたところでいまさらというところはあるか。


『部屋の中で魔術が使えないようですが、結界はどうしましょうか?』

『別に球状のは消してしまっていいのではないかしら?』

『わかりました。そうします』


 これからのやり取りはシエルに任せるつもりなので、尋ねてみたらすぐに返事が返ってきた。

 異論はないので、シエルの言う通りにしよう。

 シエルとやり取りをしている間に、メイドが部屋にノックをしていたらしく部屋の中から「何か?」と大人っぽい女性の声が聞こえる。


 それから「お客様をお連れしました」「姫様、お客様です」みたいな感じの伝言ゲームを経て、部屋の扉がゆっくりと開かれた。

 中はだいたいわたしたちが借りた部屋と同じ。いろいろと模様替えをしたわたしたちとは違って、この部屋はとくにいじられていないらしくシンプルに仕上がっていた。

 レシミィイヤ姫の個性が見られないともいえる。


 中にはレシミィイヤ姫のほかにも何人かの使用人がいて、探知で探ってみた感じ隠れている人もいない。

 本来魔術が使えない空間だし、一人くらい隠れて姫様を守っている人がいると思ったのだけれど、そんなことはないらしい。


「本日はお越しいただきありがとうございます」

「いえ、こちらこそお招きいただきありがとうございます」

「今日は単なる顔合わせですので、細かいことは気にせずにおくつろぎください」


 レシミィイヤ姫に促されて、シエルが椅子に近づく。それからミアが引いた椅子に優雅に座った。

 使用人は数に入れないとして、一国の姫と同じ部屋に二人きりというのは緊張してしまいそうだ。

 シエルがいるから二人きりではないし、表にでているシエルはまるで緊張した様子はないけれど。


 ミアはシエルの後ろで気配を消して立っていて、姫側の使用人はお茶の準備をする。

 準備といっても、カップに注ぐだけだけれど。

 わたしたちが来るタイミングを計って、すぐにお茶を入れられるようにしていたのだろう。

 このあたりさすがは王家の使用人という感じがする。


「ここは私の部屋と同じ作りになっているんですね」

「他の学生と似たような生活も送れるように、ということのようですね。

 今日ここまで案内させたのは、同じ部屋の方が落ち着いてお話ができるかと思ったからです。あくまで顔合わせで、かしこまった場ではありませんから」

「他の方もここに通されたんですか?」

「そうですね。ほかの方と差異はありませんよ」

「ここならレシミィイヤ姫も安心でしょうからね」


 話を聞きながら、シエルの言葉は危ういよなとボケっと考える。

 危ういというか、今回の顔合わせ会がエイルネージュとの会話の場を設けたかったカモフラージュであると疑っていること、対魔術の魔道具の存在について気が付いていることはバレただろう。

 どちらもバレても構わないし、何ならシエルメールだとバレることも最悪ではないので構わない。

 そもそもわたしが表に出ていたとして、シエルよりもうまく話せたかといえば答えはNOなので、言えることはない。今そう思うのだって、いわゆる岡目八目というものだろうし。


「エイルネージュ様はわかったうえで、ここまで入ってきたのですか?」

「姫様が中央に喧嘩を売るとは思えませんから」

「ええ、それはもちろん。今の状況もエイルネージュ様の譲歩のおかげだと、理解しています」


 貴族の会話は面倒くさい。レシミィイヤ姫が、エイルネージュ(わたし)がそういったやり取りを得意としていないのは、わかっていたと思う。

 とはいえ、周りに使用人もいる中、直接的な話をするわけにもいかないのかもしれない。


「ところでエイルネージュ様は、どの授業を受けるのかお決めになりましたか?」

「ハンター関係と魔術関係をいくつかですね」

「エイルネージュ様は、すでにハンターとして十分活動できていると存じておりますが……」

「私は独学でやってきましたから、改めて一度基礎からやり直しておきたいと思いまして」

「そうなのですね。エイルネージュ様は、今までどのような活動をしてこられたのですか?」


 なんというか、本当にただのおしゃべりになってきた。

 シエルも決定的なところは言わないようにはしているものの、警戒した様子なく話をしている。

 しばらく話して、姫様はできる限りすべての授業を受けるなんて情報を得たけれど、お互いに対して有力な情報はなかったのではないだろうか?

 しかしながら、姫様も少なくとも表面上は楽しそうだったし、ハンターの話を聞いている時は、思いのほかにしっかりと聞いていたように思う。


 このままおしゃべりで終わるのかな、なんて思いかけたところで、姫様の表情が引き締まった。


「申し訳ありませんが、ここからは真にわたくしとエイルネージュ様だけで、お話をさせていただけないでしょうか?」

「ミアがいては不都合があるということですか?」

「こちらの使用人も含め……です」

『どうしようかしら?』

『わたしはかまいませんし、ミアも文句はないと思いますが、レシミィイヤ姫側が納得しているんですかね?』

『確かに人を下げておいて、実はこっそり……なんてことがあると面倒ね。

 そのあたり、エインに任せていいかしら?』

『わかりました』


 魔術が使いづらくなっている現状、シエルでも探知魔術を使うのは難しいらしい。

 わたしでも意識して使わないと普段通りの精度では難しいので、さもありなん。

 シエルは一度ミアを見て頷いてから、姫様の方を向いた。


「私はかまいませんが、先ほどの言葉に間違いはありませんか?」

「……もちろんです。全員下がってください」


 少し考えるしぐさを見せたのは、今のシエルの言葉を警告と感じたからなのか、それとも何か裏があるのか。

 とりあえずシエルの質問に肯定した姫様はすぐに指示を出す。

 姫様の傍に控えていたメイドが後ろ髪をひかれているかのような表情をしていたけれど、主人の命令に逆らうつもりはないのか、部屋から出て行ったところで確認して探知を行う。


 使用人は下げるといったけれど、そうではない人は言っていない……なんてことがあるかなとも思ったけれど、そうではないらしく本当にエイルネージュ(わたしたち)と二人きりになりたかったらしい。

 部屋から使用人全員が出ていくのを確認した姫様が、安心したかのような、緊張したかのような、何とも言えない表情で息を吐いた。


「これからこの場で起こることは、わたくしとエイルネージュ様しかわからなくなりました」

「よくこの状況になれましたね」

「そのために準備をしましたから。果たしてエイルネージュ様に対してどれほど意味があるのかはわかりませんが、使用人たちを納得させるには十分な程度には」

「つまりこの部屋を覆うように効果を示している魔道具は、姫様には効果を及ぼさないんですね」

「いえ。現在この部屋ではわたくしも魔術を使うことはできません。ですが特殊な魔道具を使うことができますので、用意はしてあります」

『エインは気がついていたかしら?』

『魔石っぽいのがあるな、とは思っていました』


 この部屋の魔道具に使っているのかなと思って放置していたけれど、どうやら違ったらしい。

 わたしはあくまで魔力の探知に長けているだけなので、動いていない魔道具を探せたりはしない。

 何なら動いている魔道具も、なんとなくそれっぽいなと感じているだけで、確信しているわけでもない。

 わたしのことはともかく、こうやって二人だけになれた理由はわかった。


「こちらは魔術が使えず、姫様は魔道具で身を守ることができるからこそ、認めてもらえたんですね」

「はい。皆そう思っています」

「つまり姫様はそうは思っていないんですね?」


 魔道具のことをあっさり言ったので、回りくどいやり取りをやめてくれたのかなと思ったのだけれど、レシミィイヤ姫はまた思わせぶりなことを言ってくる。

 これはそこまで回りくどいとは思わないけれど、どんな意図があるのか。

 シエルの問いにレシミィイヤ姫は困ったように首を振った。


「わたくしがどう思っているのかは、エイルネージュ様の判断にお任せします」

『これってどういうことかしら?』

『……ああ、なるほど。姫様はわたしたちがこの場で魔術を使えると気が付いているとした方が、話が楽に進みそうです。

 要するにレシミィイヤ姫は、エイルネージュがかなりの実力者であること、おそらくシエルメールであることをほぼ確信しているみたいですね。そのうえでレシミィイヤ姫がどこまでこちらの事を把握しているのかを、こちらに選んでほしいのだと思います』


 要するにこの場において、エイルネージュ=シエルメールを公然の秘密として話していいのかどうか、という問いかけのようなものだと思う。

 そのことがバレたとして、それが一部の人だけで且つ放っておいてくれるのであれば、何の問題もない。

 むしろここで変に一般人を装うと、今から話すであろう内容が変わる可能性もある。


「そうですね。姫様が気が付いている通り、私はこの場でも魔術が使えます」

「やはりそうですか。回りくどい方法をとってしまい、申し訳ありません」

「いえ、姫様も約束を違えずに守ってくださいましたから、かまいません」


 シエルの言葉にレシミィイヤ姫の表情に緊張が走ったかのようだったけれど、隠すことがほとんどなくなったシエルは「ですが、分かったうえでこのような場を作ったんですね?」と追い打ちをかけていた。

「約束を違えなかった」→それを確信するだけの何かを知らぬ間に行っていた。

裏を読むような会話は苦手ですね。ええ、本当に。

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― 新着の感想 ―
[一言] OHANASHIタイムですね( ˘ω˘ )
[良い点] 作者さん、更新はお疲れ様です! 続きも楽しみにしています!
[一言] 祝150話。 いよいよ姫様の自室での二人だけの対話(静かなるキャットファイト)開始。
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