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148.下位精霊と授業選択

『もちろん。精霊と戯れるときとか、必要であれば替わってもらいますよ』

「そういうことではないのよ?」


 シエルが不満そうに頬を膨らませるので、『わかっていますよ』と折れることにする。

 できればシエルが表にいる時間を長くできないかと思っているのだけれど、そう簡単には無理だということだ。

 わたしが全くでない、というのも悪くはないけれど、それはそれでシエルに悪影響がありそうだし。

 仕方がないので代替案を出すことにする。


『様子を見ながらにはなると思いますが、日ごとにどちらがメインで活動するかを決めるようにしましょうか』

「今日はエインが表に出たら、明日は私が表に出るといった感じかしら?」

『そうですね。授業ではどちらが出た方が良いというものがあると思いますから、それ以外の時間はということになりますが』

「それは良さそうね。エインはさすがね」


 シエルが褒めてくれたけれど、すぐに「でも意地悪よ」と付け加える。

 かと思ったら、表情を緩めた。

 わたしの考えを分かったうえで、それでも言いたいことは言いたかったということだろう。

 できるだけシエルの時間を大切にしてほしいわたしと、わたしに時間を与えようとするシエルの意見は基本的に合わないので、シエルも不承不承なところがあるのだと思う。


 同時にシエルがわたしのことを考えてくれているのは、嬉しくもある。


「精霊と戯れるといえば、今後はどうやって精霊たちとあえばいいのかしら?

 夜中にこの寮から出るのは、少しばかり面倒だと思うのよ」

『最終的には窓から空を通って壁の外に行くしかないかと思います。見つからないようにするのは大変かもしれませんが……』

「何とか目立たないでいければいいのだけれどね」

『わたしたちの職業(ジョブ)が目立つのは仕方がないんですが、ままなりませんね』


 舞姫も歌姫も、基本的に使えば人目を引いてしまう。

 というか、そういう職業なのだからどうしようもない。

 職業を使おうとすると、わたしたちは絶望的に隠密行動に向いていないのだ。

 探索と結界を使えば、隠密まがいなことはできるだろうけれど、その場合にはシエルの本来の身体能力でどうにかしないといけなくなる。


 魔術を使えば何とかなるかもしれないけれど、考えてみるとこの階には例の先輩がいる。

 下手に魔術を使えば、バレかねない。

 それは空からいけても同じか。んー……何かいい場所があればいいのだけれど。


『一旦、精霊については置いておきましょうか。次に集めるまではもう少しありますから』

「エインが良いのなら構わないのよ。何なら、この部屋に少しずつ呼んでもいいものね」

『それもありかもしれませんね。エルフの誰かにはこの部屋に集まっていることがわかるかもしれませんが、惚けることもできますし、それがうまくいかなくても精霊に懐かれるわたしたちを無下にはできないと思いますしね』


 そもそも精霊たちに近づいてこないように言っているのは、エルフが比較的に多いオスエンテで騒がれたくなかったからで、バレたからといって悪い扱いをされるわけではない。

 エストークで歌姫とバレるのとは、全く違うのだ。エストークでもばれたらその時、むしろ多少はバレた方が安全かもとすら思っていたわけで、今回の件についてはそれ以上に気楽にいられる案件だ。


 なんて思いつつ、この部屋にいる精霊に目を向けてみると、幼精霊がくるくる回りながら口をパクパクと動かしていた。

 実際には何かを話しているのか、歌っているのだろうけれど、その声はわたしたちには届かない。

 でもその姿は可愛らしく、思わず頬が緩んでしまいそうだ。

 シエルも楽し気に精霊を眺めている。

 リシルさんは保護者のように見つめているし、なんだかのほほんとしてしまう。


 くるくると回る幼精霊が手を叩くと「パンッ」と手を叩く音がした。

 何かと思って辺りを見回してみると、ミアが驚いたように幼精霊の方を見た。


「シエルメール様、なにかなさいましたか?」

「何もしてないわ。それよりもミア、今の聞こえたのかしら?」

「はい。手を叩くような音がしたと思うのですが」

『ミアにも聞こえていたみたいね。エインも聞こえていたのよね?』

『聞こえました。多分あの幼精霊が手を叩いた音だとは思いますが……』


 何かを知っているとすればリシルさんだろう、と彼女の方を見てみれば、うんうんと我が知り顔で頷いている。


『リシルさん良いですか?』


 リシルさんに声をかけると、彼女は首を傾げる。

 リシルさんとの会話は難しいけれど、シエルと入れ替わらなくていいから楽でもある。


『今の音はその子が出したんですよね?』


 尋ねるとリシルさんが頷く。その表情はやはり疑問はなさそうだ。



 リシルさんに尋ねること数分。わかったことをまとめると、この精霊は区分的には下位精霊になるらしい。下位精霊になったのは、わたしたちの前で変化した時。

 この段階で火精霊だとか、水精霊だとか、決まるらしいのだけれど、この子は音精霊になる。

 リシルさんも初めてみる精霊らしく、大いにわたしの影響を受けているのだとか。


 とても特殊な精霊で精霊を感じることができない相手にも音を届かせることができるのだとか。

 その能力がさっき使えるようになったらしい。

 そのことに気が付いた音精霊が拍手でもするように音を鳴らし始めたので、一時リシルさんが注意をする場面があったが、それはそれ。

 わたしに嫌われるかもしれないと伝えると、すぐにおとなしくなった。


 この部屋では大丈夫だと思うけれど、外で音を出されると困るのでその辺は徹底してもらう。

 だけれどそれさえ守ってもらえば、むしろ音精霊はわたしたちには必要になるであろう精霊だと思う。まだまだ力は弱いけれど、遠からず力を借りる場面が出てくるだろう。

 絶対に必要とは言わないけれど、いてくれた方がわたし的に助かる場面が。


「ということみたいですので、あまり気にしなくて大丈夫です」

「わかりました。ですが精霊という存在は、ワタクシとしてはとても興味深いですね」

「普通の人には感じられませんからね。わたしもずっと感じ取ることができませんでしたし」

「ワタクシもいつか見ることができるようになるのでしょうか?」

「難しいかもしれませんね。わたしたちが特殊だから見えるようになったところがありますし」

「それは残念です」


 シエルに入れ替わってもらってミアに説明すると、言葉と同様にミアが残念そうな表情を見せる。

 こればかりは仕方がない。エルフの血が混ざっているとか、そういう職業を持っているとかでない限りは、精霊を感じるのは無理だろうから。

 なんとなくそこにいる気がする、までは行けても見るとなると才能だ。

 わたしたちができるのも神に足を踏み入れたからで、そのレベルでないと後天的に精霊を見ることができるようにはならない。


「さてエインセル様。あとはベッドを替えるだけですので移動してもらっていいでしょうか?」

「本当ですね。お疲れ様です」


 気が付けば部屋の中が様変わりして、邸と似たような状態になっている。

 部屋の奥がほぼ邸の部屋と同じ配置になり、手前に来客用のスペースだけが残っている形。

 奥で違う部分は、ベッドが仕切りで囲まれていることくらい。

 こればかりは来客時に見られないようにという意図もあるので仕方がない。


 使われている家具は同型のものだし、他のどんな高級な宿よりも落ち着ける部屋だと言えそうだ。


「これで終わりですか?」

「はい。お待たせいたしました」

「それなら、次はお金を払ってきてください」


 魔法袋から諸々を払えるだろう金額を取り出して、ミアに渡す。

 受け取るミアがなんだか温かい笑顔を向けてくるのは、わたしの指示の出し方が拙いからだろう。

 しかしながら、これでもだいぶマシになったのだ。

 人に命令を出すというのは、慣れていないのだから。


 生前の感覚で申し訳ないと感じる部分もあるけれど、単純に人を信用しきれないという部分もある。

 今だって相手がミアではないと、頼まずに自分で行っていただろう。

 正直、人を使うことに関してはミアの方が上なのは間違いない。


 ミアを見送ってから、シエルと入れ替わる。


「ミアもいなくなってしまったし、話が大きく戻るけれど、授業でも見てみようかしら?」

『そうですね。ほかにやることもありませんし』


 そうして、授業が書かれた資料に視線を落とした。

 まず一番上にわたしたちが受けることができる授業が書かれていて、次のページから各授業の時間や簡単な内容について書かれている。

 わたしたちはすべての授業を受けられるわけではないけれど、魔術関係は問題なく受けられるし、ハンター関連も同様。

 あとは騎士向けの授業も受けられるものがある。


 大枠で見ると少ないけれど魔術関連がものすごく多く、基礎や人形魔術、魔道具学など細かく分けられていた。

 とりあえず、シエルとわたしとでそれぞれ受けたい授業を決めることにする。


「魔道具学はわかるのだけれど、魔術の基礎なんて今更エインが受けても仕方がないと思うのだけれど」

『無駄かもしれませんが、特にわたしは魔術は独学でやってきましたから、少し気になるんですよね。

 案外新たな発見があるかもしれませんし、エイルネージュで使ってよさそうな魔術を吟味できるかもしれません』

「そういうものなのね? ということは、ハンターの方もそうなのかしら?」

『似たようなものですね』


 それに同年代の強さを知る指標にもなるだろうから。

 すでにE級――だとされている――エイルネージュがハンターの初心者向けの授業を受けても、卒業要件的には何のメリットもないので、完全に興味本位。仮に授業が気にくわなければ、さぼるという選択肢を選ぶ事もためらわない。


『シエルはやはり人形魔術なんですね』

「このために学園に入学したようなものだもの。できればゴーレムの授業も受けてみたかったのだけれど、時間が一緒だから無理だったのよね」

『本当ですね』


 似たような系統だから、同じ時間にしてあるのだろうか?

 だとしたらいっそ、人形魔術もゴーレムの一種みたいに扱えばいいと思うのだけれど。

 前にも考えていたけれど、なにも人形魔術だけを独立させる必要はないと思う。

 まあ、人形魔術を詳しく知らないので、わたしの知らない理由で独立させる必要があったのかもしれないけれど。


 この後もミアが帰ってくるまで、シエルとどの授業を受けようかと話し合った。

前回と同じく、ぶつ切り&見直し無しです。

細かいところが後々変わるかもしれませんが、誤字脱字誤用以外の変更は次話の前書き等で連絡いたします。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます!
[一言] 音精霊さん、たまにやらかしてしまいそうな不安もあるが、リシルさんが嫉妬で一時的な家出とかしそうな存在になりそう。(暴露した時のエインを思い出しながら)
[一言] 音の精霊だからそのうち話せるようにもなるかもしれないですね。
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