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125.エインと着せ替えと金色の魔物

「やっぱり、肌がきれいな人は出すべきだと思うんだよね」

「そ、そうですか……わたしは、できるだけ隠しておきたいんですが……」

『それくらいなら大丈夫よ。可愛いわ、エイン』

「これくらい普通だよ。ハンターの中にはもっと肌を出している人もいるんだから」


 シエルの声は聞こえていないはずなのだけれど、シエルとシュシーさんが示し合わせたように大丈夫だと言ってくる。

 シュシーさんのお店に襲撃があって、返り討ちにして、シュシーさんが起きるまで待って。

 なぜか服を買うことになって、わたしの存在は知られているから、入れ替わって出来上がった服を着ている。いや、着せ替えられている。


 直しがあるかもしれないからというのもあるし、何よりシエルが見たいといったからこうなった。

 それで今着せられているのは、ホットパンツとTシャツみたいな組み合わせ。

 靴下やタイツのようなものはなく、足をそのまま見せているような状態。上に着ているTシャツの裾の方が、ボトムスの裾よりも長いんじゃないかとすら思える。


 実際はややホットパンツの方が長いのだけれど。


 上のTシャツっぽいのは、生地が良いものらしく、肌触りはいい。

 前世のそれのような安っぽさはない。高いものもあったのかもしれないけれど。

 何というか前世っぽい着こなしのような気がする。とはいえ、確かにハンターの中にはもっと奇抜な服装をしている人もいるので、ハンターが多いところに行けば目立つことはないだろう。


 それはそれとして。


「これよりも、露出が多いって防御力心許ないですよね?」

「結界頼りとか、攻撃は全部避けるんだとか、そんな感じの人でそれなりにいるかな。重たい防具は動きの邪魔になるって。

 それに本当に守るべきところだけはしっかり守っているからね。攻撃受けたらポーションのお世話になるか、教会に直行することになるけど」

『エインはむしろ、なにも着なくても防御力は問題ないわよね』

『問題はないですが、問題しかないです』


 からかうようにシエルが話に入ってくるので、素っ気なく返すとシエルが『ふふふ』と楽しそうに笑った。

 なんだか釈然としないけれど、それを表に出しても笑われそうなので胸の内にとどめておく。

 同時に何ともいえないむずがゆさがわたしを襲った。


 いや、何でシエルが笑ったのか想像つくからだけれど。


「それが一番露出が多い奴だから、次からは大丈夫だと思うよ」

「その辺は信用します」

「そっかぁ……えへへ」

「シエルを、ですが」

「そっかぁ……」


 照れていたシュシーさんが、今度は落ち込んだように同じことをいう。

 残念ながら、シュシーさんはまだ信用できるわけではない。

 別に敵意を向けるわけではないけれど、大事な話をするつもりはない。

 わたしの存在がばれたのも、半分事故みたいなものだったし。


 それからすぐに気を取り直したシュシーさんが次の服を持ってきた。

 今度は左右非対称なワンピース。

 足は隠れるけれど、肩は隠れない。隠して欲しい。はずかしい。ストールが欲しい。


 シエルをベースとしたこの体に恥ずかしいところはないけれど、それとこれとは話が別なのだ。


 それでも腕ならましかなと思う。たぶんそれは、前世で半袖は着ていたから。そして足を出すのが恥ずかしいのは、中学以降半ズボンを穿くのが体育の時間だけだったからなのだと思う。

 大学に入学してからは、夏の寝間着がせいぜいだ。


 前世基準でいくと、先ほどの服装も年相応なものといえば、そうなのだけれど。


 閑話休題。


 用意されたワンピースは左に行くほど裾が長くなる。

 右は膝を隠すくらいの長さなのに対して、左は地面についている。

 長い部分を綺麗に結んで、アクセントとするらしい。


 柄は木の葉柄……だろうか? 右上が白、左下が鮮やかな緑で、白から緑に徐々に変わっていく。

 その変化の過程が木の葉のような形をしている。


 落ち着いた色合い、落ち着いたモチーフの割に攻め攻めの服だ。

 着てから鏡を見ると、案外悪くないと思うのだけれど、それはシエルの容姿があってこそだろう。


 余談だけれど、木の葉がモチーフのせいかリシルさんが心持ち嬉しそうにしている。


 最後に淡い茶色のストールを肩に掛けられて完成。

 ストール嬉しい。これで肩を隠せる。

 なんて思いながら、両手でストールを持ち、頬でその感触を確かめる。


 確かめたところで、わたしに解るのは肌触りが好みかどうかくらいだけれど。なんだかすべすべしていて、気持ちがいい。


『そうしているエインも可愛いわ!』

『そうしている、ですか?』

『解らないなら良いのよ。いえ、解らない方がいいのかもしれないわね』


 シエルにそんなことを言われたので、ストールから手を離して鏡を見てみるけれど、別に変なところはないと思う。

 ストールを腕に絡ませるようにしたら、歌姫じゃなくて舞姫っぽいかななんて思うくらいだ。


 わたしが踊っても、その出来は残念なものになるだろうけれど。


「こんな風に柄付けられるんですね」

「ふふーん。これができるのはあたしだけだからね」


 自慢げに胸を張るシュシーさんだけれど、不機嫌そうな精霊がシュシーさんの足を蹴っているので、たぶん精霊のおかげなのだろう。それから足を蹴っているように見えるけれど、たぶん当たっていない。

 木の精霊という話だったし、植物関係=染色は強いのかもしれない。

 糸も植物からとれるものもあるし、専門分野ということだろう。


 不機嫌な精霊だけれど、何というか鹿みたいな姿をしている。

 頭に芽があって、全体的に緑色。鹿みたいといっても、本物の鹿というわけではなくて、デフォルメしたようなかわいさがある。


「精霊に手伝ってもらったんですね」

「そうだけど……ああ、ごめんね、ごめんね」


 わたしの視線で不機嫌なことに気がついたらしいシュシーさんが精霊に謝り出す。

 しばらくして精霊の機嫌が直ったところで、次の服を持ってきた。


 ほぼ黒一色のドレス。いわゆるゴスロリファッションに似ている。

 ゴテゴテしていて動きにくいように思っていたけれど、着てみるとそんなでもない。

 胸のところに宝石みたいなのがあるのだけれど、これもしかして魔石だろうか?


 つまりこの服は動きやすいようにと作られた、魔道具ということになる。

 お金かかっているんだろうなぁ……。魔法袋ほどではないのだろうけれど。一応ハンターとしての活動で着ることも想定しているらしい。


 黒髪黒目ではあるけれど、ベースはシエルなので日本人顔ではない。

 そしてベースがシエルなので、普通に似合っていると思う。

 だけれど、前世の記憶があるわたしとしては、何となく喪服っぽい印象を受けてしまう。


『エイン、綺麗ね、カッコいいわ!』

『ありがとうございます』


 カッコいいと誉められるのは珍しいけれど、これはアレだ。男性的なそれではなくて、女性的な格好良さなのだろう。

 今さら性別なんてどうでも良いのだけれど。


 シエルに誉められても、やっぱり喪服感が拭えないのは、黒髪黒目で真っ黒になってしまうのも、問題だろうか?

 帽子もあって、やっぱり黒い。仕方がないので、シエルからもらった髪飾りと精霊達の休憩所は、帽子に留める。

 色が黒いから、これらが目立つのは個人的に嬉しい。


 喪服感を考えないとすれば、これで日傘を持っていればいかにもという感じになるだろう。


 最後にシュシーさんが持ってきたのは、何というかいかにもハンター風衣装という感じのもの。

 厚手のワンピースの下には、短パンを穿いて、胸当てなどの皮の防具があって、それらをローブですっぽり覆い隠す。

 見た目年齢と相まって、駆け出しハンターに見える。


 いやシエルの容姿のせいで、「貴族令嬢が戯れにハンターに登録してみました」という感じかもしれない。


 要するに今までとあまり変わらない。服のランクは上がっているだろうから、より貴族令嬢感は出たかもしれないけれど。

 これはたぶん、シエルも着る普段着にするつもりなのだろう。


『これはシエルが着るやつですよね?』

『そうね、私()着る服よ』

『それなら、このまま入れ替わりましょうか』

『あら残念。もっとエインを見ていたかったのだけれど』

『そろそろアレをハンター組合に連れて行った方が良さそうですから』


 シエルと入れ替わるときに、茨からロープへと拘束具が変わった男をちらっと見るとシエルも納得したように『そうね』と返す。

 同じ部屋にはいるけれど、目隠しをして、布を噛ませているのでわたし達がきゃいきゃいしていた声だけが聞こえていたことだろう。

 男にしてみれば、「なにを聞かされているんだ」という状態かもしれないけれど、自業自得なので知ったことではない。


「シエルメール様どうだった?」

「全部買う」


 なんて緩いやりとりをして、すべての衣装を買ったシエルがそれらを魔法袋に入れる。

 それから、男を引きずるようにシュシーさんと共にハンター組合に向かった。





「なるほど、そのようなことが……」


 男をハンター組合に引っ張っていった後、話が早そうなラーヴェルトさんを呼んでもらって事情を説明した。

 シュシーさんはなんだか居心地が悪そうだけれど。いきなりギルドのトップと対面するとなればそうなるか。


「また我らが迷惑をかけてしまいましたな」


 我らと言えるあたり、ラーヴェルトさんはフィイ母様の考えを正しく認識しているのだと思う。

 家主と居候の関係。正しい認識もなにもって感じだけれど、ここまで規模が大きくなるとそうも行かなくなるらしい。


「気にしてない。それで?」

「即時有力者を集め、対応を決めましょうぞ。

 そこで財産をすべて没収し、シエルメール様とA級のシュシー・シャガル・メスィで折半すると決めますが、よろしいですかな?」

『別にお金はいらないのだけれど……これは、もらっておいた方がいいのかしら?』


 シエルに突然尋ねられ、頭をひねる。

 事情説明において、シエルは二度と関わらせないようにとは要求したけれど、金銭については何もいっていない。

 実際お金はいらないし。でも渡そうとするのには、理由があるのだろう。


 例えば、シエルに借りを作りたくないから、とか。

 お金を受け取れば、今回の件はそれで手打ち。受け取らなければ、居候達はシエルに借りを作ったと感じてしまう。

 シエルはそう思っていなくても、勝手にそう思う人もいるだろう。ようするに精神安定剤みたいなものだ。


『面倒を避けたいならもらっておいた方がいいでしょうね』

『じゃあ、もらっておこうかしら』

「それでいい」

「では、そのように」

『勘違いしないように、くらい言っておいていいと思います』

「でも、勘違いしないで」

「……存じております」


 わたしの言葉を反射的に繰り返したシエルに対して、ラーヴェルトさんはまじめな顔をして頷いた。

 こちらの意図は通じた、と思っていいだろうか?

 通じていなくても困りはしないけれど。


「そのあとは?」

「生涯地下牢で過ごすことになりますな」


 あ、追放ではないんだ。フィイ母様はとりあえず追放みたいなところがあるから、それに倣うものだと思っていたのだけれど。

 それとも、二度と関わらせないようにという要求を満たすためだろうか?

 無一文で追放の時点で、のたれ死ぬか、魔物の餌かだとおもうのだけれど、生き残って別の国で生きていくという可能性もある。


 そして新天地にて、わたし達と再会する可能性だって、ないわけではない。


「シュシーも良い?」

「は、はい。それでいいよ、いや、えっと。それが良いです」


 話に参加していなかったシュシーさんにシエルが尋ねると、なんか妙にテンパった様子で頷いた。

 ラーヴェルトさんの前というのもあるのだろうけれど、単にシエルに敬語を使い慣れていないだけかもしれない。


 これで話は終わりかなと思ったところで、組合の入り口の方から「大変だ! 巣窟にやたら強い金色の魔物が出たぞ」と声が聞こえてきた。

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