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122.襲撃の後始末とフィイヤナミアの力

 スカートの裾を持ち、シエルがお辞儀をしたところで、茨の檻は内側に倒れてくる。

 もちろんシエルには当たらないようになってはいるけれど、できるだけ他の人にも当てないように気を付けてはもらった。


 まだ踊っていたかったのに、と言わんばかりにシエルは不満そうな顔をしていたけれど、既に相手の戦意は喪失しているし、これ以上やって邸の前を汚してしまうのも忍びない。

 だから歌うのをやめて、シエルに声をかけた。


『もっと踊っていたかったのに、エインはいけずだわ』

『確かに人前でここまでのびのび戦ったのは初めてですが、これ以上やっても死体が増えるだけですからね。

 後かたづけが大変そうです』

『そうだわ! エインは大丈夫かしら?』


 何か思い出したように、シエルが声を上げる。

 心配されているようなのだけれど、わたしが何かあったのだろうか?


『エインはあまり人が死ぬのを見たくはないのよね?』

『あー……。そういう意味では、少し嫌な感じはしていますが、気にするほどでもないですよ』


 何せシエルを殺しに来た、もしくは慰み者にしようとしてきた人達が相手なのだから。

 慈悲を与える必要はない。たぶん、ここがどこと知らぬ森の中とかなら、死体の数はもっと増えていただろう。

 おそらくわたしは止めなかった。


 シエルが心配してくれたのは、初めて人の死を前にした時に、わたしがおびえてしまっていたからだろう。

 今ではさほどでもない。神の力を宿してしまったせいか、単純にわたしの精神が壊れていたのか。

 でも、知り合いが死ぬ姿というのは、見たくないと思う。


 おそらく、人という括りで判断していないのだ。

 シエルがわたしとそれ以外を分けるように。あとは単純にこの世界は命が軽いから、染まったという見方もできるかもしれない。

 何度シエルが殺されかけたのかなんて、わたしはもう数えていないし。その多くが生まれてからの5年間に詰め込まれているけれど。


「シエルメール様。お迎えにあがりました」

「ん」

「片づけは使用人で行いますから、シエルメール様はお部屋でお休みになってください」

「わかった」


 やってきたルナ、それからそばに控えるミアに連れられて、シエルは邸の中に戻った。

 それから自分の部屋に案内される。

 モーサは片づけ組なのだろう。わたしが表にでることもないだろうし、人手はいるだろうし。


 そう思っていたら、この部屋に近づいてくる人が現れた。

 まあ、探知にかかっている姿はフィイ母様なのだけれど。

 ノックの後、扉が開かれ、母様なのを確認してから警戒を一段階落とす。


「お疲れさまね」

「あんな感じで良かったのかしら?」

「ええ、ええ。問題ないわ。思ったよりも邸への被害も少なかったし、言うことなしね」

「それなら良かったわ」


 今回はシエルの力を見せつけることが目的でもあるので、十分にやれたという事で良いのだろう。

 シエルは物足りなさそうだったけれど。

 考えてみれば、全滅させるとシエルの強さを伝える人が居なくなるわけで、止めたのはやっぱり正解だったと思う。


「これからどうなるのかしら?」

「あら、シエルが他人に興味を持つなんて珍しいわね」

「別に興味はないのよ。場合によっては、邸から出られないような状況に、なるんじゃないかと思っただけだもの」


 わたしも気にはなっていたので、聞いてくれるのはありがたい。

 興味がないというシエルの言は事実だろうけれど、わたしも人にはあまり興味はない。成り行きが気になるだけだ。

 そして、知らされなかったところで、どうということもない。


「ふふ、まあそうよね。心配しなくても、貴女達の行動が制限されることはないわ。

 攻めいった人達は、目が覚めて1日以内に町から退去。それから、3日以内に中央の地を後にしてもらうことになるわね」


 さすがは母様というか、ばっさり切り捨てるらしい。

 捨てるもどうも、という気もするけれど。

 むしろ今まで良く捨てなかったな、とすら思える。


「出て行かない人が居たらどうするのかしら?

 いうだけでは聞かない人の集まりが、今日の人達よね?」

「強制的に追い出すわ。場所はわかっているし……そうね、リーダーのトリアドルが目が覚めたら呼ぶから一緒に来てみるかしら?」

「おもしろいものでも見られるのかしら?」

「おもしろいかどうかはわからないけれど、(わたくし)が何をするかはわかると思うわよ」

「それなら行ってみようかしら」


 フィイ母様が何かするというのは、常に中央中を監視している魔術――魔法だろうか?――以外だと初めて見るのではないだろうか。

 強いのはわかるのだけれど、具体的に何かをしているのは見たことがない。だからこそ、トリアドルのような輩が現れるのかもしれないけれど。


 シエルの返事を聞いたフィイ母様は、満足そうに頷いてから部屋を出ていった。





 時刻はわからないけれど、だいたい夕方。

 今日シエルが襲撃してきた一団を壊滅させたわけだけれど、早朝だったこともあって、まだ日付は変わっていない。

 シエルが寝るのが好きだから、割と早朝から動くことはないのだけれど、こうやって動いてみると一日って長いんだなと思う。


 中央に来るまでは、割と早起きしていたこともあるけれど、同じくらい寝ていたような気もする。

 だいたいわたしの結界のせいで、どこでもずっと寝ていられるからだとは思うが。

 でもシエルが寝るのが好きなのって、わたしが夜中にシエルの体を借りることがあるからということもあるのだろうか?


 気になったので可能性としてシエルに尋ねてみると「エインが使うんだったら別に良いのよ」と返ってきた。

 むしろそれを気にして今までと行動を変えると怒るらしい。変に気を使わないことにする。


 とりあえず、わたしとしてはシエルがあまり夜更かししないのであればそれで良いことにしよう。


 さて、夕方。フィイ母様に呼ばれて、邸の外にやってきた。

 そこには今日返り討ちにしたうちの一人がいる。

 それ以外の人がどうなったのかは、わからないけれど、なるようになったのだろう。

 そのあたりはまるで興味ない。


 目の前のこの男がリーダーをしているという、トリアドルか。

 なんだか高そうな服着ているし、間違いないだろう。


 シエルはフィイ母様の陰に隠れるように立って、石でも見るように男を見ている。

 男は悔しそうにフィイ母様とシエルを睨みつけているけれど、特に何かしようということはないらしい。

 シエルとの戦いで気絶するくらいだし、こちらに手を出せばどうなるかくらいは身に染みているようだ。


「リーダーである貴方には改めて言っておくわ。

 今より1日以内に町を出て、3日以内に中央の地から離れなさい」


 リーダーさんは小さく舌打ちをしたかと思うと、「無理だ」と首を左右に振った。

 わたしとしてはそりゃそうだとは思う。準備とか必要だろうし、上流階級であればあるほど、準備には時間がかかるだろうし。


 とはいえ、こちらに喧嘩を売ったのはあちらで、この状況はあちらの責任。その辺をわたし達が考慮する理由にはならない。

 シエルとわたしなんて、身一つで放り出されても別に構わないし。

 1日の準備期間があるだけ有情だ。1日で詰め込めるだけ、魔法袋に食べ物を詰め込めば、年単位で生きていけるのではないだろうか? 現地調達もある程度できるし。


「無理なのは、準備があるからかしら?

 それなら別に気にしなくて良いわよ」


 フィイ母様がそういうと、遠くの方で何かが爆発するような音が聞こえてきた。

 音がした方を見ると、なんだか煙が上がっている。


 それに気がついたリーダーさんは目を見開き、口をぱくぱくさせた。


 なるほど、なるほど。

 爆音がした場所はリーダーさんの家か。


「あら、何があったのかわかったのね。これで貴方が準備する必要はなくなったわね。いえ、もう少しかしら?」


 そういって、続けざまに同じ音が2度ほど鳴る。

 リーダーさんは信じられないものを見るかのように母様を見るけれど、秘密の隠れ家とかそういったものがあったのだろうか。

 上流階級なら確かに、持っているのかもしれない。


 フィイ母様に隠せるわけはないのだけれど。


「わかっているとは思うけれど、命令を違反したら今のが貴方に向くわ」


 フィイ母様の言葉に男が崩れ落ちる。

 なんだか小さい声で笑っていて、なかなかに怖い。

 そしてそれを放置して母様が邸に戻る。


 シエルも後について邸に入る。

 そこでようやくシエルが口を開いた。


「もしかして、フィイは中央ならどこにでも攻撃できるのかしら?」

「ええ、ええ。そういう事よ。感知できるのだから、攻撃できないことはないものね」

「やっぱり、フィイも凄いのね」

「こればかりは、生きている長さが違うもの。

 シエルもいつかできるようになるわ」


 一応範囲は狭いけれど、フィイ母様と似たようなことができるわたしなら、とも思ったけれど、人一人を対象にして何かをするのは流石に無理。

 周りを巻き込んで良いなら何とかといった感じだろうか。

 そもそもわたしは攻撃できないけれど。


 だいたい中央全体に探知を使い続けるとか、普通に意味がわからないし。


 ともかく、中央にいる限り常にフィイ母様に命を握られているといっていいだろう。

 神の使いというのは本当に規格外な存在らしい。

 フィイ母様の攻撃から身を守れるなら話は別だろうけれど。


「それにシエルもエインに引っ張られて神になるのよね?」

「エインとずっといられるのよ!」

「それなら、(わたくし)よりも凄いことが出来るようになるんじゃないかしら?」

「そうなのね?」

(わたくし)はあくまでも神が遣わした存在だもの」


 確かにそういった面はあるだろうけれど、まるで想像できない。

 もしかしてだけれど、創造神であり最高神に使わされたフィイ母様は下手な神よりも能力が上なのではないだろうか?

 わたしも力の出所も創造神様だけれど。そういう意味で越えられるという事かもしれない。


 まあ、急ぐ必要もないだろう。

 フィイ母様より凄くなったところで、何かあるわけでもないし。

 今でも防御力に関しては過剰なのはわかっているし。


「ということで、明日以降も好きに動いて良いわよ」

「そうみたいね。何をしようかしら?」

『服が出来上がっているんじゃないですか?』

『確かにそうね! 行ってみましょうか』


 襲撃があるから行けずにいたシュシーさんの事を伝えると、シエルが思い出したように乗っかってきた。

 結構日が空いてしまったけれど、大丈夫だろうか?

 ダメと言うことはないだろうけれど、こちらの事情をある程度知っていることに期待しよう。


 そういえば、結局わたしはどんな服が出来上がるのか知らないのだけれど……。シエルが考えてくれた服なら、どんなものでも良いか。変なものは着せないだろうし。

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