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119.魔法袋と世情と挨拶

『そういうわけで、こうなってしまいました』

『エインはやっぱりすごいわ! すごいのよ!』


 朝、とりあえずシエルに魔法袋の実験の結果を伝えたのだけれど、何故だかとても感心されてしまった。

 凄いものが出来たとはいえ、失敗――せいぜい研究途中だと思うのだけれど。

 わたし達が使う分には問題ないから、良いのだろうか?


『使い方には気をつけないといけませんけどね。

 誰かが間違って使うと大変なことになりますから』

『それは間違える方がいけないのではないかしら?』

『確かに魔法袋を間違えるなんてことはない気がしますが、異形化したものは正直見たくないんですよね……』


 血とかは慣れたけれど、異形化というのはまた違うだろう。

 どうなるか分からないけれど、見ないことに越したことはないと思う。

 窃盗目的で自業自得だとしても、ぜひわたし達の目の届かないところで完結してほしい。


『そうかもしれないわね。私は少し興味があるけれど、エインが見たくないのなら強いて見たいとも思わないわ』


 シエルはそう言うけれど、スリに遭う可能性もあるので防犯だけはしっかりしておこう。

 結界で守っておくだけだけれど。





「あらあら。これは本当にすごいものを作ったのね」

「そうなのよ! エインはすごいのよ!」

「そうね、そうね。これを作れるのは地上だとエインだけじゃないかしら?」


 朝食の席でフィイ母様にも魔法袋について伝える。

 伝えるというか、バレていたというか、バレない方がおかしいというか。

 とりあえず、わたしが創造神様に呼ばれたことを「どうして呼ばれていたのかしら?」とツッコまれたので、包み隠さず話した。


 隠す意味もないし、むしろ話さないで後々バレたほうが面倒くさそうだ。


 とりあえず「わたしにしか作れない」というのが、「こんな中途半端なものを作るのはわたししかいない」という意味でないことを祈るばかりだ。

 素人の仕事なので気になるところはあるだろうし、実際異形化なんて意味が分からない効果が付いているけれど……。


 うん。入れた生き物が異形化する魔法袋は、確かにわたしにしか作れないだろう。

 なにせわたしの「魔力・神力を攻撃に使用できない」という制限ありきの効果なのだから。


『そういえば、フィイ母様はわたしが昨夜何していたのか、正確には把握していないみたいですね』

『言われてみるとそうね』


 創造神様に呼ばれていたのは知っていたけれど、改造魔法袋を見た時には普通に驚いていたように思う。

 無言で黙々と作っていたとはいえ、この屋敷内の出来事であればフィイ母様なら知れたと思うのだけれど。


「フィイはエインがこれを作っているのは知らなかったのかしら?」

「何かしていることは分かっていたのだけれど、エインの結界の中に入られると探るのは無理なのよね。外側のはともかく、内側の結界はお手上げね」

「という事は、私達の部屋の中はフィイは把握してないのかしら?」

「部屋というよりも、貴女達自身ということになるわ。防音していない時には声くらいならわかるけれど。

 その分どこにいるのかはすぐにわかるわね」

「そうなのね。わかったわ」


 フィイ母様は「貴女達なら心配いらないから構わないのだけれど」と言っていたけれど、シエルの目が怪しく光ったような気がする。

 何か良からぬことでも思いついたのかもしれない。

 シエルがやることなので、よほどの事でなければわたしは反対する気はないけれど、シエルがわたしを困らせるのが好きというのを知ってしまったので、ちょっと怖い。


 シエルも本気でわたしを困らせるつもりはなさそうだけれど。

 わたしが怒らないラインに対して、かなり余裕をもって弄ってくる……ような気がする。


「その魔法袋少し貸してくれないかしら?」


 フィイ母様に言われて、シエルが首をかしげながらも差し出す。

 じっと魔法袋を見ていた母様はおもむろに手を入れようとして、弾かれたようにその手を引っ込めた。


(わたくし)でも使うのは厳しそうね」

「そうなのね?」

「防御力に関しては、エインの方が上だもの。いえ、この場合防御力とかではないかもしれないけれど」

「とにかくエインはすごいのね?」

「ええ、ええ。そうね。エインはすごいのよ」


 何かさっきから妙にすごいと言われている気がする。

 それを意識すると居心地が悪くなりそうなので、気にしないことにしてシエルと入れ替わって貰うことにした。

 アクセサリの付け替えをしたところで、フィイ母様から話しかけられる。


「どうしたのかしら?」

「確認しておきたいことがありまして」


 表情を見る限り、わたしが何を訊きたいのか分かっているようなのだけれど、フィイ母様は尋ねない限り答えてくれない。

 尋ねてもわたし達でどうにかなりそうな部分に関しては、調べてこないとちゃんとは教えてくれない。

 例外もあるけれど、それがフィイ母様の教育方針らしい。


「フィイ母様に対抗する派閥が攻めてくるのっていつになるんですか?」

「エインはいつだと思うのかしら?」

「元の予定は知らないので何とも言えませんが、アミュリュートのことはすでに隠せないほどに広まったと思いますので、すぐに動くかしばらく様子を見るかだと思います」


 次期当主をあんな風に連れて歩けば噂にもなる。

 いくら上流階級でもみ消そうとしても、限度はある。

 要するに「アミュリュート家がフィイヤナミアの義娘に負けた」という事実が世間に広まる。


 反フィイヤナミア派は「フィイ母様が働かない」という主張をしているけれど、結局のところはフィイ母様が実は弱いのではないかという考えがあるからこそ集まっている。

 その前提が崩れてしまえば、その求心力がなくなっていくのは目に見えている。


 今回の件でシエルの強さがアミュリュート家を軽々退けるほどだということが広まった。

 だとすれば、フィイ母様が弱いという主張にも亀裂が入りかねない。アミュリュート家も影響力のある家だそうだし。


 その中で求心力を高めるために打って出るか、一度退いて力をためるかという選択になると思うのだけれど、わたし的には前者かなと思っている。

 現状後者の方が利口だと思うけれど、その判断ができる人であれば、フィイ母様を引きずり落とそうとしないだろうし。


「そうね、そうね。もう既に動き始めてはいるわ。それなりの数がいるから、即時行動はできないみたいだけれど、数日中には攻めてくるんじゃないかしら? 予想通りではあるわね。

 そのときにはよろしく頼むわね」

「やっぱりわたし達が出るんですね」

「その方が後々貴女達も楽だと思うもの」


『なんだか面倒くさそうね。でも、フィイの頼みなら仕方ないかしら?』

『断る理由もないですからね』


 シエルも了承したので、わたしも拒否するつもりはない。

 だけれど、ふとあることが気になった。


「そういえば、母様派の人達は何をしているんですか?」

「何もしていないわね。

 こういったときには下手に動かないように通達しているのよ」


 居候同士で戦い始めて、被害が出たら困るのだろう。


「土地への被害対策ですね」

「戦いだといって、資源を無駄遣いされても困るし、地面に穴をあけられても修復が面倒だもの。

 ふふ、エインもわかっていたのね」

「フィイ母様は()の為にいるわけじゃないって話ですから」


 世界の崩壊を防ぐために動くことはあっても、人類の絶滅のために動く存在ではない。

 くすくすときれいな顔で笑う母様は、根本的に人とは違う存在というわけだ。

 わたしも似たような感じだけれど。


「だとしたら、わたし達が動くときも、そのあたり考慮した方が良いですよね?」

「ええ、ええ。だけれど、できるだけで構わないわ。

 一カ所であれば精霊達がサッと直してくれるのよ。それに変に手加減をするとまた調子に乗る輩が出てくるものだから、思いっきりやってくれて良いわ」

「はい、考えておきます」


 実行するのはシエルだけれど。わたしは結界を張るだけだし。

 閉じこめることはできても、それ以上はできない。

 閉じこめるというのは、有用か。だけれどシエルが閉じこめた方がいい場合もある。


「それで、今日はどうするのかしら?」

『どうしましょうか?』

『エインは何かあるかしら?』

『昨日と一昨日が巣窟でしたし、休みにするのはどうでしょう?

 スミアリアさんも来るでしょうし』

『わかったわ!』

「今日は休みにして、1日屋敷に居ようと思います」

「それが良いわね。のんびり過ごしてちょうだいな」


 そこで話を終えて、立ち上がる。

 シエルと入れ替わると、シエルはまっすぐに自分の部屋に戻った。

 それから『二度寝をするのよ! 二度寝』と宣言してベッドに潜り込んだ。





 シエルが二度寝から目覚めてからは、庭でシエルの舞に合わせて歌ったり、フィイ母様に呼ばれてお茶にしたり、その間にスミアリアさんが来たりと、のんびりした時間を過ごしていた。

 変わったことといえば、モーサとルナの後ろにスミアリアさん――ミアが加わったことだろうか。


 加わったといっても、基本的にお世話をするのはいつもの2人で、ミアはそのお手伝い。

 最初に軽く挨拶して――そのときにミアと呼ぶようにいわれた――以降は話すこともなかった。

 というかシエルと入れ替わったのが、ミアが来る前だったので、わたしはミアと会っていない。


 一日が終わり、うとうとしていたシエルが眠気に負けて夢の世界に落ちる。歌いながらそれを見届けた後、部屋を出ようとしない使用人達に何を望まれているのかわかったので、シエルの体を借りることにした。


「エインセル様、お手数をおかけいたします」

「わたしは構わないんですけどね。長時間は嫌ですよ?」

「もちろんです。ありがとうございます」


 ベッドに腰掛けてモーサに応えると、モーサが恭しく頭を下げる。

 シエルの体はできるだけ休ませたいから。なんていいつつ昨日は好き勝手していた気がするけれど。


「シエルメール様には挨拶いたしましたが、エインセルお嬢様にはまだでしたので、スミアリアと顔を合わせてもらえませんか?」


 後ろにいるので既に顔を合わせていると思うのだけれど、形式に則らないといけないのか。

 現時点では顔を合わせておらず、あちらから声をかけることができない。そんなこともあるのだろう。


「構いませんよ。わたしが連れてきたみたいなものですからね」


 わたしが応えると、ルナがミアの背中をすっと押す。

 この状況は昼間も見た。同じ挨拶なのだから当然かもしれないけれど。


「スミアリアと申します。ミアとお呼びください。エインセル様にお会いできて光栄です。

 今後はなにとなくお申し付けください」

「わたしは初めましてという感じでもないんですけどね。

 強引に連れてきたような形になってしまいましたが、何か困ったことはないですか?」

「いえ、お気遣いありがとうございます」


 そういうものなのだろうか?

 特にミアはつい昨日まで敬われる側で、誰かに仕えるということはなかったと思うのだけれど。

 本人がないというのであれば、困ったことがあるとしても何とかする気なのだろう。まだ初日。様子を見てから改めて尋ねればいいか。


 別に話すこともないし、これで終わりかなと思っていたら、ミアがうずうずとした様子でわたしをちらちらと見てくる。


「何かありましたか?」

「いえ、あの……。少しだけお話を聞かせていただけないでしょうか?」


 おずおずと尋ねるミアに対して、モーサが何かを言おうとしたけれど、わたしがそれを止める。


「別に構いませんよ。初日ですし、聞きたいこともあるでしょう。

 わたしの事をどれくらい知っているのかもわからないですが」

「お嬢様がそう言われるのであれば。スミアリアにはお嬢様のことは少しだけ話してあります。人格の変化と色の変化ですね」


 それだけ話しておけばとりあえずは大丈夫、ということなのだろう。


「それで何を聞きたいんですか?」

「結界を使っているのは、エインセル様……で合っているでしょうか?」

「どうしてわたしだと?」

「ビビアナにシエルメール様の守護者だと聞きましたので」


 ああ、言った。うん。守護者ってことはシエルを守っているというわけで、結界なんてそのわかりやすい例である。

 ばれて困ることはないけれど、ちょっとびっくりした。わたし達の魔力の違いがわかるレベルの人なのかと思った。


「そうですね。わたしの結界です」

「どのようにしたら、そのような美しい結界を作れるのでしょう?」


 あ、この人、カロルさんと同じようなタイプの人だ。ミアの目が輝いている。

 結界が魔法であるという方向でもないし、別に教えてもいい。

 というか、たぶん魔術を使える人は薄々感づいているだろうし。


「魔力の循環と魔力の操作を徹底すれば良いだけです」

「やはりそうなのですね……」


 何かミアが物思いに耽り始めたと思ったら、「お話ありがとうございました」と頭を下げた。

 聞きたいことってこれだったのか。

 わたしの正体とかそういった方向かなと思ったけれど、それならそれで別に良いか。

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