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118.帰宅と感想と魔法袋

 1日ぶりに屋敷に戻ったのだけれど、フィイ母様に「こういう時には、叱った方がいいのかしら?」なんて言われてしまった。

 12~13歳の子供が急に外泊したとなれば、前世であればお叱り案件だとは思う。

 だけれど、わたしはこの世界の基準を知らない。


 あと、シエルは無断外泊をこれまでに、何十何百何千とやっていることになる。


「あら私叱られてしまうのかしら? あまり経験がないから楽しみね」

「なんて言っている子を叱っても仕方がなさそうね。

 それにやりたくてやったわけでもないでしょうし」

「屋敷の食事の方が美味しいものね。でも久しぶりにああいったものを食べたから、なんだか懐かしかったわ」

「そういえばシエルは料理ができるのね」

「簡単なものは、エインがやっていたから覚えたのよ」


 わたしが体を動かせば当然シエルもそれを関知するわけで、集中すればやり方は覚えられる。

 うん。石鹸で泡を作るのも、シエルの成長は著しかった。


(わたくし)も、多少ならできるけれど、どうしても大味になってしまうのよね」

「食べられるのなら良いと思うわ」

「そもそも食べなくても良いもの。

 それで明日アミュリュートの子が来るのね?」

「そういうことになったわね」

「それならモーサ。明日入り口で待っていて」

「かしこまりました」


 急に名前を呼ばれたモーサさんだけれど、きれいなお辞儀をして返す。

 モーサさんが対応するなら大丈夫だろう。

 それからその日は結局叱られることはなく、夕食を食べることになった。





「やっぱり、屋敷の食事は美味しいわね」

『本職の人がやっていますからね。それに材料だって、一級品がそろっているんだと思います』


 自室に戻ってくるなり、シエルが幸せそうな顔で呟いた。

 なんだかんだで、シエルの生活の中で食事というものが大きな要素として君臨しているような気がする。

 人生に楽しみがあるということは、悪いことではないと思うけれど。


 食事は毎日するものだし、それを楽しめるということは幸せなことだと思う。

 あまり贅沢な舌になってしまうと、ハンターを続けるのが大変になりそうだけれど。

 やはり魔法袋を改造して、時間経過をしないようにさせて、その中にたくさんの料理を貯蔵しておいた方がいいだろうか?


 フィイ母様の子なのだから、おそらくこの世界においても規格外のものを持っていても、問題にはなるまい。

 少なくとも、上の人間に取り上げられることもなければ、大量に作れと言われることもない。だろう。


「でも、またエインが作った料理を食べたいわ」

『屋敷で作ってもらった方が美味しいですよ。それにわたしが作っても、シエルが作ったものとそんなに変わらないと思います』

「エインが作ったというのが大事なのよ?」

『機会があったら作りますね』

「楽しみにしているわ!」


 どうやらそのうち料理をしないといけないらしい。

 もう隠す必要もないし、前世の料理とかしてみようか?

 調味料が少なければ、材料も前世のそれとは異なるところも多いのだけれど。


 簡単なお菓子なら作れるか。砂糖は安くないけれど、今となってはトン単位でも買えるだろうし。

 記憶は曖昧だけれど、何回かやれば思い出すかもしれない。


『そういえば、上流階級の人はどうでした?』

「面倒くさいわね」


 勉強の一環でスミアリアさんを捕まえてきたわけなので尋ねてみたら、実に短い答えが返ってきた。


「でも必要なのよね?」

『必要なんだと思います。いえ、必要だと育てられてきたのでしょう』


 お家のために、家族のために。

 作法、根回し、なんやかんや。無駄な手順が多くても、それを守らないといけない。

 上下関係をはっきりさせるためだったり、他の理由があったり。


「私には大切には思えないことに、命を懸ける人もいるってことよね?」

『そうですね。逆にシエルが大切に思っているものを侮る人もそれなりにいるでしょう』

「それなりに()()わね」


 様々な人がいる。それがわかっただけでも十分だろう。

 シエルは敬われる側ではあるけれど、敬う側になることはないだろうし。国が相手になろうとも、わたしはシエルを守り続けるだけだし。

 サンプルの一つとしては良かったのだと思う。


『スミアリアさんと話してみてどうでした?』

「ルナやモーサ……いえ、カロルみたいな印象かしら?

 いても不快ではない感じ……かしら?」


 それなら良かった。わたしは警戒を解く気はないけれど、スミアリアさんがいることでシエルに負担がかかるようなら、ちょっと考えないといけないところだった。


『そういえば、スミアリアさんの立ち位置ってどうなるんでしょうね?

 わたし達が雇っていることになるのでしょうか? そうしたらわたし達付きになるのかもしれませんが』

『ルナに聞いてみようかしら?』

『そうですね。何か知っているかもしれません』


 シエルからわたしやフィイ母様以外の人に話しかけるというのは珍しい。それだけ、ルナやモーサが居ることに慣れたのだろうか?

 ただ話し方は変わらないので、少しずつの変化だとは思うけれど。

 もしくは、わたしが少し気を許しているところがあるから、シエルにも影響したのか。


「ルナ」

「どうしましたか? シエルメールお嬢様」

「スミアリアはどうなる?」

「詳しくは聞いていませんが、わたし達の補佐をすることになりそうです」

「ん。ありがとう」


 ルナが頭を下げてすっと一歩引く。

 自然な動作は、意識していないと気がつくこともないだろう。


『そうなると、接する機会増えそうですね』

「そうね。誰が来てもエインが居てくれるなら、私は大丈夫よ?」

『そうですね。誰が相手でもわたしはシエルを守ります』


 わたしの返事に、シエルの表情が軟らかくなる。と思ったら、小さく欠伸をした。


『寝ましょうか』

「ええ、そうね」

『あ、その前に1つ良いですか?』

「何かしら?」

『実験のために魔法袋を使いたいんですが、財布代わりにしている方を使って良いですか?』

「何をするのかわからないけれど、良いわよ。

 そのかわり、眠るまでうたっていてくれるかしら?」

『それくらいならいくらでも』


 シエルがベッドに横になり、目を閉じる。

 人形のようだけれど、わたしが歌い出すと何かを探すように手を動かす。たぶん無意識なのだろう。

 わたしはふれることができないけれど、少しでもシエルの心が安まればと、すり抜ける手をシエルに重ねることにした。





 夜。シエルの体を借りて、魔法袋を調べてみる。

 魔道具は探せば星の数ほど出てくると思うけれど、魔法袋に関してはその名の通り、魔術ではなくて、魔法の領域に入っているのだと思う。

 この世界の人がどう認識しているのかは知らないけれど、魔法袋が行っているのは、既存の空間を無理矢理広げているような所行。


 別空間に繋げている説もわたしの中にはあるけれど、何となく違う気がする。


 袋の裏側に魔法陣を縫いつけて、魔石を入れて発動させる。それだけではないのだけれど、単純なところではこんな感じ。

 手を加えるにはいったん魔力供給を止めさせて、ねじ曲げた空間を戻した方がいいのだろうけれど、魔力というか神力をうねうねさせていたら、だいたいわかった。


 今のわたしが一からこれを作ることはできそうにないけれど、いじってみることはできそうだ。

 例えばこのカロルさんからもらった魔法袋。練習作みたいなことを言っていただけあって、空間の広げ方の効率が悪い。それを改善する事はできる。


 だけれど、魔石からの魔力吸収の効率を上げることはできない。

 魔石は余っているので別に良いのだけれど。


 空間を広げるのではなく、別空間に繋げるというのは、できそうな気もするけれどできない。


 そんな感じでできそうなこと、できなさそうなことを確認して、本題に入ることにした。

 時を止めるなんて考えていたけれど、実際のところは食料を長期保存できればいい。

 簡単に考えられるところだと、冷却させることだろうか?


 魔術を使って、冷やそうと思えば簡単にできるので、案外簡単にいけるのではないかと思ったのだけれど、魔道具を作ったことのないわたしにはどこをどうしたら良いのかわからなかった。

 さっきはどうしたら良いのか何となくわかったのに。

 魔力吸収効率をどうにかできないかと探っていた時と同じ感じだ。


 だとしたら時間をどうにかしてみたらいいのだろうか?

 どう考えても、そちらの方が難易度が高いと思うのだけれど。


 そう思っていたのに、なぜかいけそうな気がしてしまった。

 魔法袋の空間に神力を馴染ませるようなイメージ。

 いや、もっと面倒くさい。何と言うか、何千ものボタンを一つ一つ手作業で留めていくような面倒くささ。


 消費自体は少ないけれど、かなりの精度は求められる。

 全然魔道具を作っている感じはしないけれど、コントロールの練習になるのでこれはこれで良いかと思ってしまう。


 どれくらい時間が経っただろうか。やれることをやってみたら、魔法袋の中の時間がゆっくりになった。気がする。

 止まってはいない。止まらないかなと思ったけれど、さすがにそこまではできなかった。

 とりあえず、実験のために魔術で沸かしたお湯でも入れておこうか。


 いや、沸かせないのだけれど。たぶん良い感じにお風呂のお湯くらいの温度で止まる。

 実験には十分だからいいのだけれど。

 比較用に外においておくのと、とりあえずいくつか魔法袋の中に入れておこう。


 そう思ってできたお湯を魔法袋に入れようとしたら、違和感があった。

 ぞくっとした。

 何があったんだろうと思ったら、いつの間にか見たことがある庭園の椅子に座っていた。

 向かい側には見覚えのある美人。でも確か姿を変えられるんだったっけ?


 現状としては、強制的に神界に連れてこられた……思いつくのはあの魔法袋か。違和感があったからね。やらかしたのかもしれない。

 まあ、神力も普通に使っていたからかな。


「やらかしたって程ではないけどね。君は君の力を使って、望むものを手に入れようとした。

 一度(わたし)が許可したことだから、咎めるつもりもないよ」

「それならどうして呼ばれたのでしょうか? あとまた3日過ぎるとかはないですよね?」

「前回3日過ぎていたのは、ここに来たことよりも君の精神的な摩耗が問題だったからね。朝までには起きるよ」

「それなら良かったです」


 良かったといっていいのかは謎だけれど。

 わたしはそんなに精神的に参っていたのか。

 全く自覚がないわけではないけれど、そこまでだとは思っていなかった。


「それで君を呼んだのは一応注意しておこうと思ってね。

 君が作ったあの道具。君以外に使わせないほうが良いよ。正確には君が本気で守っていない生き物を入れないほうが良いよ」

「入れたらどうなるんですか?」

「何と言うか、異形化する。全身入れたら、全身おかしくなるし、一部だけ入れたら一部だけおかしくなる。

 本当なら破裂したり、潰れたりするんだけれど、君はどう頑張っても攻撃できないからね。結果、おかしな変化が訪れるようになった。

 この変化が起こるのは、それなりに複雑な生物に限るけれど」


 単純な生物は大丈夫だと。

 それはそれとして、シエルの身体でやらかす手前だったのを知って、背筋がぞっとした。

 シエルの手がおかしくなっていたかもしれない。


「君ならそうなる前に、守れたと思うけど。

 とにかく君達以外には使えないね。時間としては外の30分の1くらいになっているかな」

「分かりました。ありがとうございます」

「うん、それじゃあ、またね」


 創造神様に見送られて、現実の世界に戻っていく。

 この感覚は慣れない。なにせ、前回はこれで3日過ぎていたのだから。

 だけれど今回は、神界に行く直前と同じような状態で、まだ作っていたお湯が温かったので安心することができた。

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