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106.買い物とアクセサリー

 翌朝。朝食を終えてから、シエルは意気揚々と屋敷を後にした。

 なんだかこんなシエルを見るのは初めてで、ほほえましく感じてしまうと同時に、その理由が自分であると思うとなんだか気後れしてしまう。


「どのお店に行こうかしら? やっぱり服かしら? エインにぴったりの服を着せたいものね!」


 目を輝かせながら歩くシエルに、少し考えてからまじめに答えることにした。


『せっかくですから、ずっと使えるものが良いです。

 服は成長すると着れなくなってしまいますから』

『それ()素敵ね! それならアクセサリー()見てみましょう!

 エインにぴったりの装飾品を見つけるのよ!』


 これはあれだ、服はシエルの中で確定事項として存在しているらしい。

 あの日シエルはとても楽しそうだったから、予想は出来ていたけれど。その情熱を少し自分に向けてもらえると嬉しい。

 シエルこそ着飾るべき存在だと思うし。


 真っ白な髪とその色に負けないくらい、シミがなく日に焼けていない白い肌。

 晴天の色を抽出したような綺麗な青い瞳。

 黒髪黒目のわたしと違って、儚げでいて、確かな存在感を放っている。

 絶対にシエルを着飾らせた方が、世界のためだと思う。


 あとわたしの為にお金を使うというのが、なんだか慣れない。


『出来ればシエルにも似合うものを買いましょう』

『あら? どうしてかしら? 今日はエインのためのものを買うのよ?

 ハンターの証には負けない、とっておきを買うのよ?』


 シエルからもらえれば何でも良いのだけれど。でもそれを言ってしまうと、今楽しんでいるシエルに悪いので口にはしない。

 それに証なんかよりも、こうやってシエルと2人で気兼ねなく出かけられるという時間の方が何倍も嬉しいし、掛け替えがない。


 シエルの勝ちが確定した勝負なのだけれど、やっぱりシエルに似合うものを買ってほしいと思うのだ。


『シエルにも似合うものを買えば、それを共有できますから、ハンターの証よりもちょっと特別な感じがしませんか?』

『……!? 確かにそうね! それ()素晴らしい事ね! 素晴らしい事よ!

 一緒に使えるもの()買うのよ! 見つけるのよ!』


 わかっていた。わかっていた事だ。

 こうなったシエルを止めることは難しいことくらい。

 わたしの発言で買うものが増えていることくらい、気がついていた。


 それでもシエルが楽しそうなので良いことにする。幸いお金はたくさんあるし、お金になりそうなものも魔法袋の中に眠っている。うん、早くワイバーンどうにかしよう。


 そうして、スキップでもするんじゃないかと思うくらい上機嫌なシエルは、アクセサリーショップの前で足を止めた。

 派手と言うほどでもなく、かといって地味と言うほどでもなく。

 上品というのが正しいのだろうか。区画としてはお金持ちとか、権力者とかが集まる治安が良い区画だからか、人がごった返しているという事もない。


 上品な人たちが、ごった返すほど1つのお店に集まるというイメージがないだけだけれど。

 なんか見た目は控えめだけれど、質が確かな金額が高めのものを売っているみたいな。


 まあ、シエルが入るには悪くないお店と言うことだ。

 中も楚々(そそ)としていて、居心地は悪くない。

 シエルの目にどれくらい映っているのかはわからないけれど。


 店員も感じが良さそうな人で、シエルを見てもほほえましそうに見るばかりで、強いて近づいてこようともしない。

 なんだろうか、貴族の子のお使いとか、プレゼントとか思われているのだろうか?

 あながち間違っていないと思うけれど。


 生まれは曲がりなりにも貴族だし、今はフィイ母様の娘だから。

 後はあれだ、シエルが着ている服はフィイ母様の屋敷にあったものというのもあるのだろう。

 こう言ったお店では、その価値がわかる人が店員をしていると言うことか。


『どれがいいのかしら? どれもエインに似合うと思うのよ』


 たくさんのアクセサリーが並んだ店内で、シエルがじっと商品をにらみつけている。

 にらみつけていると言っても、全く怖くはない。

 怒っているわけではないし、真剣になっているだけだから。


 口を出してもいいのかもしれないけれど、わたしは敢えて口を出さない。せっかくならシエルが選んだものがほしいから。


 それにしても、たくさんのアクセサリーがある。

 前の世界では、特におしゃれとかに気を使うタイプでもなく、無難に無難にで生きていたから、アクセサリーを買ったことはない。

 思いつくものとしては、ネックレスや指輪、ピアスくらいがせいぜいだろうか?


 後はせいぜい腕時計くらいか。腕時計は買っていたけれど、見た目よりも機能性を優先していた。


 だからネックレスや指輪でも、実は身につけると違和感がある。


 それはそれとして、女性もののアクセサリーとなると、ブローチや髪飾り、後は鞄に付けるチャームなんかもあって見ていておもしろい。

 その多くは宝石をあしらった金属のものだけれど、中には自然素材で作られたものもある。


 植物の蔓をネックレスに加工していたり、木を削って指輪にしていたり、なんかすごそうな葉っぱの冠があったり。

 お店の一画を占拠する程度にはあるという事は、それなりに売れているのだろう。エルフ向けとかなのだろうか?

 何となく金属がダメなイメージがあるし。


 植物の加工は魔術を使っているのか、そう言う職業があるのか。

 どちらにしても、ファンタジー的世界だからこそという感じがする。


『何か良いものは見つかりましたか?』

『全部ってダメかしら?』

『お金の問題もありますし、出来れば最初はシエルが選んだ1つの方が嬉しいです。たくさんあるとそれだけ、ありがたみが分散してしまいそうですから』

『そんなものかしら?』

『たくさんあると、すべて身につけるのにどれだけ掛かるかわかりませんからね。わたしはシエルが最初に選んでくれたものを、ずっと身につけておきたいです』


 体があれば……だけれど。それでも、シエルの体を借りている間中は身につけておきたい。

 大切に保管するというのも良いけれど、こういうものは使ってこそだから。わたしは是非とも保管しておきたい派だけれど、逆の立場で考えると使ってもらえた方が嬉しいのはわかる。


『わかったわ!』

『そうですね。出来れば、シエルがわたしに身につけてほしいものを選んでほしいです』


 一応希望を言っておく。

 わたしを想って選んでくれるのは嬉しいけれど、どちらかと言えばわたしはシエルの好みに合わせたい。

 シエルが気に入ってくれるわたしでありたい。


 シエルがまた考え始めたので、改めてお店の中を探索する。

 シエルからあまり離れられないけれど、ある程度なら離れられるので。

 シエルがわたしのアクセサリーを選ぶなら、わたしはシエルのを選ぼうとそういう話だ。

 実際に買うかどうかは置いておいて、時間つぶしになるだろうし、シエルがどんなものを選ぶのかと楽しみに待つ時間が増える。


 とはいえ、シエルならどれを身につけても似合うのではないだろうか?

 もういっそ、全部買っていいんじゃなかろうか?

 そうは思っても、さっきシエルにそうじゃないと言ったばかりなので、わたしもそれは諦める。


 実際にシエルにつけてほしいけれど、そうすると何しているかばれるので却下。

 想像で補ってみるけれど、あの赤い宝石がついたネックレスも、青い宝石のイヤリングも、青緑の髪飾りも、銀の腕輪も何もかもシエルに似合うとしか思えない。


 でも全部身につけるのはさすがに、ごちゃごちゃしすぎているかな?

 何事も程々がいい。だからやっぱり選ぶのは1つ。

 シエルは舞姫。だから、舞ったときに映えるものが良い。


 それならアクセサリーとは違うけれど、ストールとかどうだろう?

 やっぱり布がひらひらとはためく様は踊るときには良いアクセントになると思う。

 逆に指輪とかはちょっと目立たなさすぎるかもしれない。


 シエルの綺麗な長い髪を装飾してみるのはどうだろうか?

 真っ白な中に別の色がちらっと混じるだけでも、目を引くと思う。

 でもそうか、シエルは常に髪飾りをしているので、それに合うようにと考えないといけないのか。


 やめておこう。難易度が高いことはするべきではない。

 だとしたら……。


 そう考えていたら、一つのネックレスが目に入った。細いチェーンの輪の先に黒真珠だろうか? 黒い宝石のようなものが付いている。

 他にもたくさん物はあるのに、なぜかこれがとても気になった。

 シンプルなところもシエルにぴったりだと思う。


『これにするわ!』


 シエルの声が聞こえてきたので、いったん思考を停止する。

『決まりましたか?』と声をかけると、シエルは満足そうに指輪と髪飾りを指さした。

 指輪にはシエルの瞳と同じ空のような色の宝石が輝き、髪飾りは真っ白な真珠が貝殻と一緒についている。


 シエルに白の髪飾りをしても目立たないので、明らかにわたし専用。

 そう言えば、髪が黒い時も精霊の休憩所はあるのだろうけど、どうなっているのだろうか?

 割と柔軟に対応してくれていたので、シエルが選んだ髪飾りに合わせてもらおう。


 それはそれとして。


『1つではなかったんですね』

『エインに私の色を身に着けてほしかったんだもの……駄目だったかしら?』


 少し不安そうなシエルの声に『いいえ』と返す。

 ちょっと意地悪してしまっただろうか? そんなつもりはなかったのだけれど。


『シエルが選んでくれたものですから、どちらも嬉しいです。

 理由もわからなくもないですから』

『そうなのね! それならよかったわ!』


 自分の色を身に着けてほしいと思ったのは、きっとわたしも同じこと。

 黒真珠のネックレスに惹かれたのも、きっとそんな心理があったからなのだろう。

 言おうかどうしようかと思っていると、シエルが『エイン、どうしたのかしら?』と声をかけてきた。


『シエルが選んでいる間に、わたしもシエルに似合いそうなアクセサリーを探していたんですよ』

『本当!? どれかしら? どれかしら!』


 シエルが目を輝かせて店内に視線を巡らせる。

 シエルがどれだというのか気になりはするけれど、そんなことはせずにすぐに先ほどの黒真珠のネックレスを指さす。

 うん。こういう時実体はないものの姿があるというのは助かる。


『黒い石のネックレスね。ふふ、エインの色なのね?』

『あまり意識していなかったのですが、わたし達は似た者同士なのかもしれませんね』

『それじゃあ、全部買いましょう。そしてこのネックレスは身に着けておくわ。エインが選んでくれたものだもの』


 シエルがニヘッと笑いながら、ネックレスを手に取る。

 何と言うか、選んだものの、お金に関しては共有財産みたいなところがあるとはいえ、こう……シエルが買うというシチュエーションはどうかと思ってしまう。

 逆の立場になったらなったで、シエルが似たようなことを考えそうだから別にいいのだけれど。


 如何にシエルが話をする気がないとはいえ、こういったお店でなら滞りなく買える。

 商品示してお金払うだけだから何も難しいこともないし。

 計算もシエルは結構できる。というか、わたしが偶に教えていた。

 ガンガン吸収していったシエルの頭脳には戦慄したけれど。


 店の外に出て、シエルがネックレスを身に着ける。


『どうかしら? どうかしら!』

『良く似合ってますよ』

『エインが選んでくれたんだもの。似合わないはずがないのよ! それにエインの色だもの!』


 この展開は読めていた。でも回避する気はないので、甘んじてシエルの称賛を受け止めよう。

 頭の中で、選んだ人よりも身に着けた人の素材の良さが大事なんだと念じながら。

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