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閑話 あの子たちの今までとこれから ※カロル視点

 彼女の――彼女たちの活躍は、中央にいても耳に入ってきた。

 実際に名前が出たわけではないのだけれど、特徴的な子どもということで、すぐに推測することが出来る。

 ハンターという職業はその性質上、特異なことをしようと思えばとことん行うことが出来る。


 わかりやすいところだと、強い魔物を倒せば中央になら確実に情報がやってくる。

 どこそこの、どういうハンターが、何とかという魔物を倒した。みたいな感じだ。

 ハンターが自分の名前を喧伝しているとか、もとより名の売れているハンターであれば、一緒に名前まで情報に載ってくるだろう。


 だけれど、彼女たちはそう言った類の目立ち方――活躍の仕方はしていない。

 むしろやっていることはひっそりとしたものだ。

 ワタシ達と別れた後だと、長い期間を放置された依頼の達成に従事していた。


 放置され、塩漬けにされた依頼など誰も見向きもしない。

 なぜならさほど重要度が高くなく、割に合わないものが多いから。

 エストーク各地で、黙々と塩漬け依頼をこなす年齢の割にランクの高い女の子。


 これだけで彼女だと推測するには十分。だって、彼女ほどの年齢でC級になる事自体が珍しく、それだけで情報が回ってくるはずだから。

 だけれど塩漬け依頼の消化というのは、ハンター組合からは感謝されても、ハンターからしてみれば変人の類である。


 だから彼女の情報は主にハンター組合の職員、というかセリアからもたらされた。

 セリア自身、シエルメールのことを気にかけているようだったし、その手の情報をさとく手に入れていたのだろう。

 おかげでワタシはなにもせずとも状況が分かって楽だった。


 情報の元であるシエルメールは、楽とはほど遠い道のりだったみたいだけれど。

 よりにもよって、歌姫であることをエストークで喧伝されるし、人造ノ神ノ遣イとか言う未知の魔物と戦うことになるし、二度も魔物氾濫(スタンピード)に巻き込まれたあげく、ハンター組合にハメられそうになるし。


 しかもワイバーンの群を単独で倒したんだったわよね。


 よく中央にたどり着けたわね、と誉めてあげたいくらいの道筋を通っている。

 こう言った道筋を通ってきたからこそ、成人(15歳)になる前の子どもがB級ハンターになり、中央に来るための権利を得ることが出来たのだろうけれど。


 おそらく10代のワタシでは無理。そもそもワタシは職業(ジョブ)によるハンデがないから、彼女たちの苦労を真に推し量ることは出来ないだろう。


 中央に来て少しでもその辺の扱いがましになると嬉しいのだけれど、フィイヤナミア様の娘になったのだから心配することはないか。

 そもそも今までだって、気にくわなければ暴力に訴えて意のままに振る舞う事も出来たはずなのだ。

 それでも、彼女たちはやられたからやり返しただけで、自分たちから暴力に訴えた事はない。少なくとも、聞いていない。


 どう転んだとしても、エストークにいた頃よりも過ごしやすくはなるだろう。


 それにこれだけの道筋をたどりながらも、彼女たちは腐っていなかった。以前と全く変わらずとは言わないけれど、それでもひねくれたわけでもなく、変に善に偏ったわけでもなく。

 シエルメールについては初めて会ったみたいなので、以前がわからないけれど。


 それにしても、フリーレをボコボコにしてくれたのは胸がすっとしたわね。

 シエルメールが負けるなんて少しも思っていなかったけれど、あそこまでの差があるとは思っていなかった。

 フリーレの蒼の煉獄を跳ね返す防御力は驚嘆に値する。

 というか、あれだけの戦いをしておきながら、全く消耗して居なさそうなことが驚異だ。


 あの小さい体にどれだけの魔力があるのだろうか。

 エインセルのものと併せて、2人分だとしても多すぎる。

 魔力は魂に宿っているので、体の大きさは関係ないのだけれど。


 フィイヤナミア様の娘になるはずだ。

 ワタシでも勝てないだろうし、ワタシとフリーレが組んでも結界を崩せるかわかったものではない。


「今日のセリアは口数が少なかったわね。せっかくあの子達に会えたって言うのに」

「ええ、うん。どう声をかけて良いかわからなくてね」


 言われてみると、そうだろう。ワタシは興味本位に彼女たちの動向を聞いていたけれど、セリアは心配していたからこそ探っていたのだから。


「そもそも、話について行くのがやっとだったというのもあるけど」

「そう言うものよ。ワタシも予想していなかったら、まともに会話できなかったわ」

「シエルメールさん――いや、エインセルさん?

 どう言ったらいいか難しいけど、シエルメールさんの姿を久し振りに見かけて、とても嬉しかった。

 少し大きくなった彼女は、綺麗な女の子にしか見えなかったし」

「彼女のあれはすごいわよね。貴族の子と言って出しても、誰も疑わないわ。むしろ王族でも通じるのではないかしら?

 実際、貴族の娘ではあったんでしょうけど」


 肌に傷は一つもなく、日に焼けた様子もない。

 あの年齢の子というのは、肌に気を使わなくてもその美しさを保てるものだけれど、日に当たれば色は変わるし、ハンターをしていながら傷一つもないと言うのはあの年齢ではあり得ない。

 曰くあの結界のおかげらしいけれど、本当になんなのかしらね、あの結界。


 シエルメールがエインセルの結界と口走っていたから、術者はエインセルなのだろうけれど。

 見て聞いた感じ、あの二人が同時に表に出ているという事はなさそうなのだ。

 ということは、どちらかが体を動かしている間、もう片方は見ていることしかできない。


 でも会話は出来るらしいから、歌姫の効果は与えられる?

 ……ちょっと待ってくれるかしら?


 なんて考えていたら、セリアがこちらを恨めしそうに見ていた。

 考えをまとめるのは後からにしよう。なんかとんでもない事に気が付いた気がするのだけれど、仕方ない。


「私もカロルほどの図太さがほしかったよ」

「上位ハンターなんて、図太さがないとやっていけないもの。

 それでシエルメールに会ってどうしたのかしら?」

「そうそう。シエルメールさんに久し振りに会って、話をしてみたとき、その口調の変化に驚いたの」

「そうね。作ったような丁寧な口調だったのが、急にあれだもの。

 ワタシも一瞬何だったのかと驚いたわ」


 ワタシはその時に、シエルメールには魂が2つあるという可能性を高めることが出来たわけだけれど、それをセリアが知っているはずもない。


「彼女がエストークでどのような経験をしたのか話だけでも知っているから、心を閉ざしてしまったのではないかと気が気じゃなかった。

 だけれど、実際は違った」

「サノワで会った彼女は、シエルメールではなくてエインセルだったわって話ね」

「ええ。改めてエインセルさんとして話を聞いたときには、あのころとあまり変わっていなくて安心したんだよ。

 でもそうなると、シエルメールさんのはずっと人を寄せ付けないような、心を閉ざしたような状態だったという事よね?」


 ああ、なるほど。

 エインセルはエインセルで変わっていなくて良かったけれど、それを喜ぶと心を閉ざしているみたいなシエルメールに対して申し訳が立たないと。

 何とも難儀な性格をしている。とは言え、割り切っている方なはずなので、シエルメールが相手の時だけの限定かもしれないけれど。


 見た目は、無力な少女だものね。実力はぜんぜん可愛くないけれど。


 そんな子が心を閉ざしたようにしているのを見れば、どう声をかけて良いかわからないと。

 でもあれってたぶん、心を閉ざしているのとはちょっと違うのよね。

 あれで案外世界を楽しんでいるんだと思う。


 フリーレと模擬戦をしている彼女――フリーレなんて居ないかのような舞を見せていた彼女は、この上なく楽しそうだった。

 セリアはそれを見ていないと言うのもあるだろうし、苦労してきただろうと言うバイアスをかけてしまっていたのだろう。

 エインセルの話をするときの彼女もまた、普通の少女とそう変わらなかった。


 単純に多くの事に興味がないのだろう。それもそれでどうかと思うけれど。


「そこまで気にしなくて大丈夫よ。

 今まではともかく、これからは世界でもっとも安全な場所で保護されることになっているのだもの」

「確かにね」

「変に気にすると、それこそあの子達に悪いわよ」

「ええ、そうね」


 これで良し。先ほどの考えの続きを始めることとしよう。

 エインセルの声がシエルメールだけに聞こえているという話。

 エインセルの職業は歌姫。これは確定で良いはずだ。


 そしてシエルメールとエインセルは、誰にも聞かれずに会話が出来る。


 だとしたらエインセルの歌は、()()()()()()()()()()()()()()()

 それは可能か? 不可能か? いや、可能だからあの子たちはあれだけ強いのか。

 これはなかなか、面白い研究になりそうだ。


 結果が出たとして、何にもならないのも目に見えているけれど。

 1つの身体に2つの魂なんて、シエルメールの他にはいないだろうし。


「そう言えば、人造ノ神ノ遣イについてカロルは何か知ってる?」

「あの子たちが倒したくらいしか知らないわ」


 セリアが話しかけてきたので、思考を中断して話を合わせる。

 こんな風に考えるくらいなら、後でじっくり考えるか。

 人造ノ神ノ遣イも気になる存在ではあるし。


 なぜかあの子たちが目の敵にしているらしいし。

 目の敵と言うか、討伐目標と言うか。


「でも神の使いといえば、いろいろな説があるわよね」

「その中でも特に有名と言えばウルフとフォックス、クロウ……」

「あとは蛇とかラットとか……蜘蛛もいたんじゃないかしら?」

「1体目がウルフだったことを考えると、この辺りの魔物になるのかな?」

「どうでしょうね? 人造のってくらいだから、作った人がどう思っているか次第だと思うわよ」


 セリアが納得した表情を見せるけれど、ワタシは蛇や蜘蛛が人造ノ神ノ遣イになっていないことを祈るばかりだ。

 戦う事自体は構わないけれど、その見た目だけで忌避する人も多そうだし。


「それにしても、あの子達に肩入れするのね」

「ハンター組合が、これくらい肩入れしても良いくらいの事をしてきたんだもの」

「セリアの責任ではないと思うけれど」

「それはそれ、これはこれ」


 セリアは旗色が悪くなったと思ったのか「これでおしまい」と強制的に話を終わらせた。

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