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102.カロルと家と話

 ハンター組合に戻るまでの道中、シエルがカロルさんにランクを教えて良いか聞かれたので、シエルが頷いていた。

 フィイ母様の子であることが広まる以上、中央ではA級だと言っておいた方が無難だとは思うので、わたしも反対しなかった。

 仮に別の場所でもシエルが言いたいというのであれば、わたしは反対しないけれど。


 話すことで楽になることもあれば、面倒をしょい込むこともある。

 わたしがするのは、一緒に面倒を背負うことだから。明らかに悪手だと思えば、止めはするだろうけれど。


 と、わたし達の事は置いておいて、カロルさんが悪戯をしようとする子供のような顔をしている。

 フリーレさん驚くだろうからなぁ……B級だと思っているからなぁ……。


「フリーレは知らないだろうけど、その子A級ハンターよ」

「……ちょっと待ってもらっていいかしら?」


 フリーレさんが頭に手を当てて、何かを考え始めたところで無慈悲にもカロルさんの追撃がはじまる。


「それからその子、フィイヤナミア様の娘になったらしいわよ」

「待てと言っているで……やっぱりちょっと待ってくれるかしら」

「喧嘩売らなくて良かったわね。一歩間違えると、中央にいられなくなっていたわよ」


 カロルさんの言葉に、フリーレさんの顔色が少し悪くなった……と思う。

 隠すのが上手いのか、顔色を窺うのが難しい。


『カロルって私達がフィイの子供になったこと知っているのね?』

『伝えておかないと、間違いが起こると困るのはハンター組合ですからね。

 フリーレさんには伝えられる前だったみたいですが。もしくはわたし達とカロルさんが知り合いと言うところを考慮して、伝わるのが早かったのかもしれませんね』

『そうなのね。でも説明しなくて良くなるのは助かったわね』

『手間は省けましたね』


 カロルさんとフリーレさんの漫才を見ながら、シエルとおしゃべりしていたらハンター組合に辿り着いた。





 ハンター組合に戻った後、なぜかカロルさんの家に連れていかれることになった。

 何故かとシエルが尋ねると「B級になったら、ワタシの家に招待するって約束だったわよ」と返ってきた。

 それから「今はもうA級みたいだけれど、誤差よ」と付け加えたけれど、B級とA級はさすがに誤差では済まないと思う。

 言いたいことは分かるからシエルにも言うことはしないけれど。


 ハンター組合でフリーレさんと別れ、代わりにセリアさんと合流する。

 仕事は大丈夫なのかと思ったけれど、フィイヤナミア様の娘より優先すべきことではないと送り出されていた。

 そりゃあそうだ。それくらいの権力は持っているんだった。


 こう……何と言うか、想定外のところでシエル――わたしもだけれど――の持つ権力を見せられると、少し居心地が悪くなってしまう。

 シエルはそんなことはないのだけれど、残念ながらわたしは元々小市民なのだ。


 そうして連れていかれたカロルさんの家なのだけれど、貴族のお宅みたいな外見をしている。

 邸宅と言うのだろうか?

 魔術オタクのカロルさんが住んでいる家とは思えない。


 もっと研究室チックなのを想像していたのに。


『大きい家だけれど、エインは何か気になることがあるのかしら?』

『いえ、大したことではなくて、イメージと違うなと思っただけです』

『イメージ?』

『何と言うか、もっとおどろおどろしいというか、不気味な雰囲気がありそうだなと思いまして』

『ふふ、エインはそんな風に思うのね。どうしてかしら? どうしてかしら!』


 妙にシエルが食いついてきたけれど、そうか研究者と言うかマッドサイエンティストみたいなイメージは、前世でのイメージがあるからか。

 この世界の研究者がどういったものか、わたしはよく知らないのだから、シエルも当然知らないわけで、疑問に思うのは普通かもしれない。


『前の世界での研究者と言うか、研究にのめりこんでいる人が住んでいるのが、そう言った雰囲気の建物だったんですよ。雷とか鳴っているイメージです』

『エインはそう言う家に行ったことはあるのかしら?』

『……そう言えばないですね。物語の科学者のイメージって感じがしてきました』


 現実の研究機関と言うのは行ったことはないけれど、安全対策とかがしっかりしていて、どちらかと言うと整然としているような気がする。

 と言うか、前世の事は大して知らないな。狭い世界で生きていたものだ。


 中に入ってみると、エントランスはなかなかに豪奢なつくりをしている。

 天井が高く、壺とか飾っている。応接室に、大広間、食堂なんか高そうな家具が並んでいるけれど、やっぱりカロルさんの趣味っぽくはない。


『やっぱりイメージと違いますね』

『それは私にもわかるわ。どちらかと言えば、こういうのは苦手だと思っていたのだけれど』


 いくつかの部屋を通り抜けたところで、ようやくイメージ通りのほどほどに散らかった部屋に辿り着いた。


「やっぱりここが落ち着くわね」

「また、そんなこと言って……今日はシエルメールさんもいるのに」

「そうだったわね。ようこそワタシの城へ」


 そう言って示すのは、本や魔法陣がごちゃごちゃした部屋。

 足の踏み場がないというほどではないけれど、どこに何があるのかはわからない。

 自慢気なカロルさんに対して、シエルが少し首をかしげる。


「他の部屋は?」

「見せかけよ。A級ハンターになった時に組合に押し付けられたのよね。

 いらないって言ったのだけど、A級である以上はこれくらいの家に住んでもらわないと困るそうよ」

「A級になればそれだけ高貴な方とのやり取りもありますからね。家に招く可能性もある以上、せめて見せかけだけは気にしていないといけないんですよ」


 セリアさんの補足にシエルの表情が少し歪む。


「それは面倒ね」

「シエルメールには関係ないわ。貴女の家はフィイヤナミア様の家になるのだから、そうそう誰かが訪れるなんてできないもの」


 確かにわたし達を久しぶりのお客様とか言っていた気がする。

 一国の王ともいえる存在の家を尋ねるというのは、いかに貴族と言えど簡単ではないだろう。

 しかも中央はフィイ母様の独裁のようなもの。嫌だといえば、嫌で通る。


「さて、邪魔者がいなくなって、落ち着けるところに来たのだからもう聞いても良いわよね?」

「何?」


 背伸びをしたカロルさんが、ようやくと言った感じでシエルに向かって声をかける。

 何と言うかずっと聞きたくてうずうずしているみたいな、そんな反応。


「貴女とは初めましてかしら? それとも久しぶりかしら?」


『これはもう隠さなくていいのかしら?』

『良いと思いますよ。鎌をかけているとしても、元から話すつもりでしたから』

『そうよね』


「初めまして、カロル」

「ということは、貴女はシエルメールではない誰か? それとも貴女がシエルメールなのかしら?」

「そうね。私がシエルメール。よろしく」

「なるほど、なるほど。そう言うことなのね」


 カロルさんが納得している隣で、セリアさんが首をかしげている。

 でも話に割り込んでこないのは、とりあえず話を聞いてしまおうということなのだろう。

 今の状況、シエルもカロルさんも説明する気はなさそうだけれど。


「そしてサノワでワタシ達と話していたのは……貴女の中なのかしらね?」

「替わる?」

「一度そうしてくれるかしら? 隣でセリアが頭痛そうにしているから」


『良いかしら?』

『良いですよ』


 セリアさんが頭痛そうにしている中、わたしに入れ替わったらさらに頭痛くなると思うのだけれど。でも状況説明としては分かりやすいと思うので、入れ替わる。

 色はどうしようかなと思ったけれど、わかりやすさ重視で黒髪にしておくことにした。


「お久しぶりです。それとも初めましてでしょうか?」

「色が違うけれど、貴女がワタシ達が会っていたシエルメールでいいのよね?」

「そうですね。色は最近変えれるようになりました。分かりやすくなったんじゃないでしょうか?」

「そうね。貴女の名前は聞いても良いのかしら?」

「わたしはエインセルです。どういえばいいかわかりませんが、そうですね。

 シエルメールと共存している者とご理解ください」


 こんな会話をしている隣で、セリアさんが何とか理解しようと頑張っている。

 そしてカロルさんはそんなセリアさんを考慮せずに話を進める。


「つまりその体はシエルメールのものということね?」

「そうですね」


『違うわ! 私達の身体なのよ!

 少なくともエインの身体が出来るまではそうなのよ!』


 頭の中でシエルが反論して、なんだかふふっと笑いたくなってしまう。

 とりあえずカロルさんとの会話は一旦無視して、シエルを宥める。


『元々の持ち主はシエルということです。

 わたし達の関係や感覚を説明するのも、難しいですからね』

『まあ、そうよね。エインと私しか分からないのよね。そう、エインとわたしだけよ!』

『そうですよ。だから、安心してください』


 何か勢いだけだった気もするけれど、シエルが満足そうに閉口したので良しとする。


「それで何でしょうか?」

「……貴女、ワタシの話聞いていなかったのね……」

「ええ、大切な話をしていましたから」

「……良いわ。貴女達同士は普通に話せるのね」

「それでどうしたんですか?」


 わたしがあっけらかんと聞き直すと、カロルさんが呆れたようにわたしを見る。

 だって、シエルの方が大事なのだから仕方がないだろう。

 シエルよりも大事なことがあるとすれば……うん? ないんじゃなかろうか。


 そんな当たり前の事を考えていたら、カロルさんがため息を一つついて話し出す。


「貴女達ってそれぞれ職業を持っているわね?」

「そうですね。と言うか、見せましたからね。

 ところで、どうしてわたし達の事に気が付いたのか、一応教えてもらっていいですか?」

「一応って、話す必要あるのかしら?」

「主にセリアさんのために」


 さっきから話に入れないセリアさんが可哀そうになってきたから、話に入れるようにそろそろ事情を知ってほしい。

 わたしが話しても良いのだけれど、一応わたしもカロルさんが確信した理由は知りたい。


「わかったわよ。そもそもシエルメール、いえエインセルだったのよね。

 エインセルがワタシによこしたヒントがあるじゃない。魔力が魂に宿っている事を実感で知っているだったかしら?

 そんなことを実感できる存在がそもそもわからなかったのよ。


 可能性として、体から魂が離れることができれば、わかるだろうなってところまでは考えたのよ。どうしたらそうなるのかわからないけれど。

 それから、貴女達って実は歌姫であることを隠していないわよね。

 むしろ上手く広まってくれても構わないくらいの感じだったわね。基本的には隠すようにしていたみたいだけれど」

「それは私も感じたかな」


 ようやくセリアさんが会話に入ってくる。

 と言うか、中央にいるとそれくらいの情報は入ってくるのか。

 それとも2人がわたし達の事を知っていたから、断片的に入ってきた情報をわたし達に結び付けることができたのだろうか。


 中央の人たちの反応を見ていると、たぶん後者なんだろうな。


「歌姫なんて目立つ職業でありながら、それを隠すのを徹底していないというのはおかしな話なのよね。目立ちたがりならまだしも、貴女達は追われている可能性がある身だったはずだもの。

 歌姫と名前、これだけ揃えばほぼ個人が特定できるわ。だけれどそうならなかったのは、追う立場の人間が貴女達を別の職業だと認識していたから。

 憶測でしかないうえに、穴ばかりだけれど、妙にしっくりくるのよね」

「実際そうですからね。わたしが歌姫です」

「じゃあ、シエルメールの方は……」

「それを聞くのはマナー違反ですよ?」


 にっこりと笑って返すと、カロルさんが胡散臭そうな顔をした。

 まあ、舞姫なのを隠す気ない戦いをしたから当然か。

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