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99.ギルドと灼熱と氷

 ハンター組合本部に、今日はわたし達だけでやってきた。

 フィイ母様も来ると言っていたけれど、遠慮してもらった。

 フィイ母様が嫌いだからではなくて、母様が大きすぎる権力を持っているため。一緒にいると動きが制限されてしまうのだ。


 制限されるというか、周りが変にかしこまってしまって話が進まなかったりすることは、昨日の通り。

 すでにわたし達もそちら側なのかもしれないけれど、フィイ母様と一緒にいる時よりはましだろう。


 ハンター組合に入るとやっぱりシエルに視線が向く。

 これ自体は仕方ない。

 ハンター組合本部にシエルのような年齢のハンターは珍しいだろうから。


 とは言え全くいないわけではない。

 外から来るハンターはB級以上なわけだけれど、元から中央にいた人がハンターになったというパターンもあるから。

 中央にいるからハンターになれません、と言うのはよくないのだろう。


 本部があるのにその周辺の人がハンターになれないのはどういうことなんだ、って話でもあるし。


 だからいないわけではない。

 特に親にハンターがいる子供であれば、幼いころからハンターになるように教育しているとこもあるだろう。

 それはそれとして、中央のハンターは何をハントしているのだろうか?


 この世界において魔物はそこら中にいるとはいえ、より人の手が及ばないところの方が数が多く、中央に関して言えば母様が完璧に把握していると思う。

 それはつまり、魔物の数を管理できるということで、中央では魔物の被害はほとんど起こらないという状況にもできると思う。

 そうなるとハンターの需要は減るはずだ。


 だけれど、本部にはその大きさに見合うだけの数のハンターが居る。


 フィイ母様がまるで管理する気がなくて、ハンター任せにしているという可能性もあるけれど、国境からここまで歩いてきた身としては、そんなことないんじゃないかと思ってしまう。

 歩いたのはわたしではなくてシエルなのだけれど。


『エイン、どうかしたのかしら?』

『いえ、何でもありません』

『そう? それならいいのだけれど』


 シエルに話しかけられて思考を止める。

 どうしているかなんて、後で母様やハンターの知り合いにでも聞けばいい。

 とりあえずは、昨日言っていたA級の資格もろもろの話を終わらせなければ。


 シエルが受付に行き、受付をしている人にギルドマスター――本部のトップだからグランドマスターだろうか?――を呼んでもらう。


 最初は首をかしげていたけれど、シエルメールと名前を出すと合点がいったのか、シエルに待つように伝えて奥へと引っ込んでいった。

 この辺りの連絡は滞りなく済んでいるらしい。

 フィイ母様の子供で且つ、ハンター組合に来る可能性が高い存在の事を伝えないはずがないのだけれど。


 しばらく待っていることになるかなと思っていたら、「シエルメールさんじゃありませんか?」と職員がたくさんいる奥の方から声をかけられた。

 見ると見覚えのある顔が、シエルを見て驚いている。


「セリア。久しぶり」

「……はい、お久しぶりです。まさかこんなに早くお会いできるとは思っていませんでした」


 久しぶり……? いや、それで正しいのだけれど、シエルにしてみればほぼ初対面のはずなのでなんだか変な感じだ。

 セリアさんはシエルの返答に一瞬言葉を失って、それから少し歪んだ笑顔で対応する。

 わたしからシエルに変わり、話し方が大きく変わっているので、邪推しているのだろうか?

 そうだとしても、何事もなかったように続けるのはさすがだと思う。


 笑みが少し歪んでいるなと感じたのも、セリアさんとしばらく顔を合わせていたからだし。

 初対面だとその違いはさっぱり分からなかったと思う。


「カロルは?」

「中央にいますよ。呼べば来るとは思いますが、呼びますか?」

「できれば」

「わかりました。ですがその前に、シエルメールさん。ハンター組合が申し訳ございませんでした」

「ん」


 頭を下げたセリアさんに、シエルが短く応える。

 セリアさんが謝る必要はないとは思うけれど、彼女なりのけじめなのだろう。

 大人の対応と言うか、出来た人だなと思う。


 頭を上げたセリアさんは何か魔道具を使って、連絡を取っているようだった。

 カロルさんを呼んでくれと言ったので、それ関連だろう。

 魔道具を操作し終えたセリアさんは、改めてシエルの方を向いた。


「気になることはたくさんありますが、ひとまず無事にシエルメールさんと会うことができてよかったです」

「私もセリアとは話したかった。でもカロルと一緒が良いかも」

「そうですね。カロルも楽しみにしていると思います」


『シエル、少し知りたいことがあるので、代わってもらっていいですか?』

『良いわよ? 何を聞くのかしらね』


 折角だからさっきの疑問をぶつけてみよう、と交代するように頼むと、シエルは快く代わってくれた。

 神力を抑えればシエルの色のまま居られるので、見た目で入れ替わったことがバレることはない。それから今回はシエルから引き継いだので、口調はシエルに寄せる。


「ところで、中央のハンターはどうやって活動する?」

「シエルメールさんは中央は初めてでしたね。

 中央では他国と同じような依頼も確かにありますが、大きな違いがありまして……」

「何だお前、そんなことも知らずに来たのか?」


 あー、はい。この展開は忘れていた。

 気取ったような少年の声。無知を晒してしまったわたしのせいなのかもしれないけれど、話の流れを聞いていればシエルのランクに気づきそうなものだ。

 それに気が付けないということは、この少年の底が知れる……と思う。


『ごめんなさい。わたしのせいで厄介なことに巻き込まれたみたいです』

『エインのせいではないわ。こうやって絡んでくる方が悪いもの。

 それに面倒だったら撃退すればいいのよ!』


 シエルが元気に応えてくれたけれど、もうその手を使っていいだろうか?

 今までは悪目立ちすることでリスペルギアに見つかることを避けるために、出来るだけ穏便に動いていたけれど、今はもうそんなことを気にしなくていいのだから。

 A級ハンターに喧嘩を売るということがどういうことかは、話に割り込んだであろう少年も知っているだろうし、運がなかったよねと痛めつけるのもありかもしれない。


「無視すんなよ」


 小馬鹿にしたような声だったのが、怒ったような声に変った。

 そう言えば、わたしは探知でおおよその場所は分かっているから気にしていなかったけれど、振り返ってすらいないや。

 なんだか前も似たような展開があったよなー、と思っていたら「あんた程度が手を出してどうにかなる相手ではないわ。死にたくなければ、すぐにその手を下げなさい」と知らない女性の声が聞こえてきた。


 声がした方を向けば、真っ赤な髪の毛に魔女っぽい三角帽子、釣り目気味の妙齢の女性が少年を指さしていた。

 少年――たぶん20歳いってないくらい――は、彼女の姿を確認すると、顔を真っ青にして「すみませんでしたっ」と頭を下げて逃げるようにハンター組合から出て行った。


「別に大丈夫だった」

「貴女が大丈夫なことくらい分かっているわ。その結界を見れば、貴女がB級のハンターだということは分かるもの」


 この女性はシエルの見た目で侮ることはないらしい。

 まあ、それなりに意識して張っている球状結界の防御力を正しく測れているし、当然か。

 だけれど、シエルをB級と断定したのはどうしてだろうか?


 探知でその存在は分かっていたけれど、シエルとセリアさんの話は聞こえていなさそうだった。

 つまりシエルのランクを測るには、結界から推測するしかない。

 だけれど、普通こんなところで全力は出さない。


 だから「()()()()()B級」とか「()()B級」とか「()()()B級以上」などの言い回しになると思うのだけれど。


「ビビアナが言っていた、B級昇格の最年少記録を破ったのは貴女ね?」


 なるほど、ビビアナさんの関係者か。ビビアナさんはシエルがB級になったことは知っているし、シエルほどの年齢でB級と言えばそれこそシエルしかいないだろう。

 まさかA級になっているとは思わないだろうし。


「貴女、ビビアナの関係者?」

「自己紹介がまだだったわね!」


 何かこの人、キラキラしているというか、目立たないと満足出来ない人なのだろうか?

 動きが貴族っぽいというか……こう、高飛車なお嬢様がそのまま大人になりました、みたいな印象を受ける。

 そして周りから「灼熱の美姫」と聞こえるのだけれど、この人の二つ名だろうか。


 二つ名と言えば、カロルさんの「氷の魔女」を思い出すけれど、確かカロルさんはその二つ名を嫌っていたと思う。

 この人は真逆らしく、二つ名で呼ばれることを喜んでいるように見える。

 氷と灼熱って言うのも真逆のイメージだし、性格も馬が合わなさそうな感じ。


 それにしても、シエルに体を返すタイミングを逸してしまった。


「わたくしはフリーレ・イャズィーク。B級ハンターで二つ名を灼熱の美姫と言いますわ。

 ビビアナとの関係はそうね、あの子の師よ!」


 胸に手を当てて、灼熱の美姫ことフリーレさんが名乗りを上げる。

 その姿の何と目立つことか。

 ビビアナさんの先生とのことだけれど、よくこの人の下でやっていけたものだ。

 それとも、師としては優秀な人なのだろうか?


「わたしはシエルメール」

「シエルメールですわね。先ほどの小物などはどうでもいいのですが、貴女に1つ依頼をしても良いかしら?」

「何?」

「わたくしと模擬戦をしてくれません事?」


『とのことですが、どうしましょう?』

『私はどちらでもいいわ。鏡のように対応するなら、受けても良いのかしら?』

『この場合、好意とも悪意とも言えそうにないですからね……好奇心と言うところでしょうか?

 シエルは彼女に興味はありますか?』

『本当のことを言えば、あまりないわ。でも人に興味を持つために、受けてみても良いのかもしれないわね。エインはどう思うかしら?』

『それなら、依頼を受けましょうか。それで興味が持てなかったら、それも一つの経験、結果として受け入れましょう』

『ええ、わかったわ』


 話がまとまったところで「条件は?」と話を促す。


「受けてくれてありがとう。まずは報酬の話ね。勝敗に関係なく金貨50枚でどうかしら?」

「B級の依頼なら多すぎる」

「そうね。でもそれだけの価値があると踏んでいるわ。

 勝負方法はハンターが良く使うやつよ。殺しは無し、大怪我もできるだけ負わせない。

 負けを認めるか、戦闘不能にするか、有効打が入ったと判断したら勝利。これでどうかしら?」

「分かった。立会人は?」

「セリア、よろしく頼むわ」


 フリーレさんがセリアさんに頼むのだけれど、セリアさんは困った顔をしている。

 セリアさんにも仕事はあるだろうし、今のを依頼として処理する人も必要だったりするのではないだろうか。

 やっぱりと言うか、お嬢様らしい奔放さがある人だなと思っていたら、後ろから「ワタシがやるわよ」とため息交じりの声が聞こえてきた。


 声の主を見たフリーレさんはキーっと言いたそうな感じで睨みつけている。


「何しに来たのよ、氷の」

「その子に用があってきたのよ。久しぶりねシエルメール」

「カロル、久しぶり」


 話を振られてしまったので、ぶっきらぼうに返す。

 やっぱりカロルさんも驚いた表情を見せていたけれど、すぐに楽しそうなものに変わった。


「貴女とはまた後でじっくり話をするわ。まずはそこの赤いのをボコボコにしてくれると清々するわね」

「喧嘩を売っているのかしら? 買わなくてよ」

「はいはい。その子とやるのよね。いい機会だから、完膚なきまでに負けると良いわ」

「そこまで言うなら、勝って見せるわよ。あとで吠え面かかない事ね!」


 フリーレさんはカロルさんにそう告げたかと思うと、こちらを向いて「そう言うわけだから、恨むならそこの氷のを恨みなさいな」と宣言した。

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