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85.挨拶と朝食と大事な話

閑話がどうこう言っていましたが、思うところがあったので先に本編進めます。

 朝が来た。またわたしは眠っていたらしい。

 昨日の夜は確かフィイヤナミア様に薬を飲まされて、いろいろ吐き出してしまった。

 おかげでなんだかすっきりしたけれど、今日フィイヤナミア様と顔を合わせなくてはいけないことが、どことなく恥ずかしい。

 薬のせいとは言え、あれだけの醜態を見せたのだ。


 だけれど、フィイヤナミア様もわたし達のことを家族と言った。

 だから良いのだろうか? 良いような、悪いような。覚醒したばかりの意識は何だかぼやけている。


「おはよう、エイン」

『おはようございます、シエル』


 シエルに声をかけられたので、反射的に挨拶を返す。

 聞こえていたらちゃんと返すのだ、何かに熱中していると耳に入らずに挨拶を返せないこともあるけれど。と言うか、朝の挨拶はいつもわたしからしていると思う。

 今日はわたしが眠っていたせいか、シエルからしてもらったのだけれど。


 何にしても何気ない挨拶には違いない。


 だけれど今日のシエルは何だかとても嬉しそうに、「そうね、ふふ、おはよう」と繰り返した。

 その楽しそうな様子に精霊たちも寄ってきて、シエルの周りをくるくる回っている。


『嬉しそうですね?』

「だってエインがいるのだもの。昨日まではいくら挨拶しても返ってこなかったのよ?」

『えっと、それは……』


 創造神様のところにいたせいか、そんなに時間がたっていた感覚はないのだけれど、わたしは3日も留守にしていたのだ。

 その間シエルに挨拶はしていないし、当然わたしにした挨拶は返ってこなかっただろう。

 昨日フィイヤナミア様が言っていた、1日でシエルが心を閉ざしてしまいそうだった、と言うのも誇張表現ではないのかもしれない。


 それが愛おしくも申し訳なくなり、同時にシエルにわたし達の今後の話をするのが怖くなってしまう。もしかしたら、シエルにつらい選択を迫ることになるから。


「でもね、良いのよ。エインが元気になったみたいだもの」


 そう言えば昨日フィイヤナミア様は、シエルに頼まれたと言っていた。

 自分で自分がどれほど追い詰められていたのか、実のところよくわかっていなかったのだけれど、昨日を経てかなり心が軽くなったということは、相当に危なかったのかもしれない。

 シエルもそれを知っていて、フィイヤナミア様に頼んでくれたのだろう。


 以前のシエルならまずありえない。シエルがわたしのために何かしたいと考えているのは知っていたし、今回は絶好の機会だったと思う。

 だけれどわたしは、シエルの前では弱音を吐けなかったと思う。仮に薬を飲まされて話したとしても、今起きた時にここまで気持ちが軽くはなっていなかったはずだ。


 たぶんシエルも昨日の夜の話を聞かされたとして、対応に困ってしまったことだろう。

 少なくともわたしがフィイヤナミア様の立場だったとしても、今回みたいにうまく終わらせられたかは分からない。

 シエルはそれを自覚したうえで、頼んでくれたのだろうか。


 それは何だか少しの寂しさもあるけれど、シエルの成長が見えるようでジーンと響く。

 今更シエルがわたしを大切に思ってくれていることは疑わない。


 わたしが元男であることも、異世界からやってきたこともあっけなく受け入れてくれたのだから。


『ありがとうございます』


 図らずも様々な意味を込めてしまったお礼の言葉に、シエルは少し寂しそうな顔をする。


「ごめんなさい。いいえ、ありがとう、エイン」


 この返答に込めた思いをわたしはどれくらい理解できているのか。

 わからないけれど、聞くのも野暮だと思うのでそっと心にしまっておくことにした。





 ほどなく朝食に呼ばれたのだけれど、フィイヤナミア様と顔を合わせるのがとても気まずい。

 わたしはシエルの陰に隠れているようなものだとは言え、フィイヤナミア様はわたしの存在を知っているから。

 メイドに呼ばれ、案内されたのは貴族が食事をするための部屋、って感じのところ。


 数十人単位で座れそうなテーブルと広々としたスペース。

 その中で食べるのは、シエルとフィイヤナミア様だけ。

 すでに何回かここを使っていたのだろう。シエルは迷うことなく、いくつもある席の中から1つを選んだ。


「うんうん。ちゃんと来たわね」

「フィイおはよう」

「ええ、おはようシエル」


 シエルが笑顔でフィイヤナミア様に挨拶をする。

 昨日はそれだけで、心がチリチリと痛んだけれど、今日はそんなことはない。むしろシエルがわたし以外にも心を許し、会話できる存在が出来て嬉しいくらいだ。精霊とはまだ会話できないから。

 だけれど、少し寂しいのは許してほしい。


「エインセルちゃんは元気かしら?」

『おかげさまで』

「おかげさまでって言っているわ。

 昨日はありがとう、フィイ」

「いいえ、いいえ。良いのよ気にしなくて。むしろちょっと役得だと思ったもの」


 フィイヤナミア様が親指と人差し指で少し隙間を作って、シエルを煽る。

 やめてください。その話は止めてください。

 さすがに話す気はないだろうけれど。


「なにかしら、なにかしら? エインと何かあったのね?」

「あらあら、うふふ。秘密よ」

「ずるいわ、ずるいわ!」


 シエルが楽しそうなところを見るに、無理に聞き出そうとしているわけではない。

 昨日の話はシエルに聞かれたくはないものだったと、2人とも分かっているのだろう。

 だからじゃれているだけ。楽しそうだから良いんじゃないかと思うけれど、こうも自分の話をされると心が、こう……もにゅっとする。


『あ、あの。早く朝食食べませんか? ほら、美味しそうですよ』


 だから食事を差し向けて気を逸らすことにした。

 きっとシエルなら、そちらを向いてくれるはずだ。なんだかんだ食べることは好きだから。


 シエルはわたしが望んだとおり「そうね」と口にしたけれど、そのあとにクスッと笑った。


「フィイは昨日のエインと何かあったのかもしれないけれど、今のエインのことは分からないのだもの。気にしないわ」

「あらあら。それじゃあ、朝食にしましょうか」


 不本意なやり取りがあった後で、朝食が始まる。

 スープにパンにサラダ。シンプルだけれど、どれも良いものを使っているらしく、とてもおいしい。


 ここまでの食事となると久しぶりなので、わたしが味に意識を持っていかれていると、フィイヤナミア様が「ところで、ところで」とシエルに話しかけてきた。


「今日はどうするつもりかしら? エインセルちゃんが戻ってきたのだから、外にでも行ってみるかしら?」

「エイン何かやりたいことはあるかしら?」

『えっと、シエルに話さないといけないことがあるので、時間を貰えませんか?』

「エインが私に話すことがあるみたい」

「最高神様と何を話したのか、聞かないといけないものね。

 わかったわ。話し終わるまで、出来るだけ呼ばないようにしておくわね」

「ありがとう、フィイ」


 すんなり決まってよかったというべきか、もう少し引き伸ばしたかったというべきか。

 引き延ばしたところで、シエルが考える時間が短くなるだけだからナンセンスなのだけれど。





 朝食が終わって、また部屋まで戻ってきた。

 メイドさん達にも今からの予定を話しているので、本当に邪魔をされることはないだろう。

 ベッドの上に座ったシエルが、わたしが話を始めるのを待っている。


 男だと言うことは勢いで言ってしまったが、本当はもっと言いづらいことのはずではあった。

 今回の話もそれくらい言いづらいのだけれど、ここでグチグチ考えても一緒か。とりあえず、話をしながらタイミングを計ろう。


『シエルはわたしが三日間何処にいたのかは、知っているんですよね?』

「フィイが、たぶん神界に行ったって言っていたわ」

『それで間違いありません。創造神様に呼ばれて、神界に行っていました』

「神界ってどんなところだったのかしら?」

『綺麗なところでしたよ。この屋敷の庭に近いでしょうか。

 ですが見たことがない花も多くて、とても日差しが柔らかでした。

 そこで創造神様とお茶会のような席で話をしていたんです。さすがに綺麗な人でした。神……でしょうか?』


 こういう時、少し表現に困ることは多い。

 猫の生を表すときに、猫生と言うか、人生と言ってしまうかみたいな。

 言葉は違うから、猫生みたいな造語を作るのは難しいのだけれど。


 このままの流れで、創造神様から聞いた話をしようかと思ったのだけれど、シエルが「今なんて言ったのかしら?」と尋ねてきたので一旦止まる。


『今というとどれでしょう?』

「席で話したって言わなかったかしら?」

『そうですね。綺麗な椅子に座って話しました』


 妙な食いつきに、シエルは家具とか気にするタイプだったかなと疑問に思う。他にも気になることはあるけれど、とりあえずここから攻めたという感じなのだろうか。

 だけれど、シエルの言葉は想像の斜め上に向かった。


「座ったのね? つまり神界にはエインの体があるのね? そうなのね?」

『えっと、体があるというかわたしの魂が人の形を取っていたんだと思います』

「エインが1人の人だったらこういう姿、と言うのがあるということね?」

『そうなりますね』


 気になるだろうとは思うけれど、()()()居るという情報だけでよく気が付いたものだ。

 わたしはぜんぜん気がつけなかった。自分が座っていたのに。


「それでどんな姿だったのかしら? かしら!」

『シエルみたいな見た目でしたよ。シエルの体を使っているから、魂が影響されたみたいです。

 でも色は前世の配色でしたね。髪と瞳が黒くて、肌が薄い橙色……でしょうか?』


 黄色人種のあの肌って、何色って表せばいいのだろうか。

 肌色なんて言ったら、この世界の一般的な肌の色になるけれど、この世界の一般的な肌の色を知らない、と言うか結構色が違う。

 種族によっても変わってくるだろうし、肌色=黄色人種の肌の色の元日本人としてはかなり困ってしまう。


「いいわ、いいわ。私も見てみたいわ!

 どうにかして、エインの姿を見られないかしら?」

『そうですね……。それとも少し関係する話と言いますか、本題に入ってしまいましょうか』


 たぶん神になれば、わたしの姿を見る機会もあるだろう。

 だけれど、そうでなければ機会はないと思う。

 だから話してしまおう。


 でもその前にこれまでのわたしについて話そう。

 あ、これはフィイヤナミア様も一緒の時に話せば良かったかもしれない。

 仕方がないからフィイヤナミア様には、今度聞かれたときにでも話すとしよう。





 とりあえずわたしがどうしてシエルのところに行ったのかと、わたしが神力を得るに至った経緯を説明する。前世なんかについては今回はノータッチ。

 話している間シエルは、ジッとまじめな顔をして聞いていた。


「つまりあの男の実験は半分くらい成功していたのね?」

『そうなりますね。ですが、残りの半分を埋めることはまず無理でしょう』

「そうね。それにあの男もどれくらいうまくいっていたのかなんて、わかっていなさそうだもの。

 それにしても、精霊が見えるようになったのも、たぶんあの男のおかげなのよね。なんだか複雑な気持ちなのよ」

『それはわかります』

「そんなことよりも、やっぱりエインはすごいのね。魔法を使えていたのね!」

『お陰様で攻撃魔術がこれからも全く使えなくなったんですが……そこはシエルにお任せします』

「ええ、もちろん、もちろんよ!」


 前置きはここまで。

 改めて本題に入ろう。わたし達がこれからどうなっていくのかを。

閑話ではなく本編に入ったのは、シエル視点で書きたいシーンを書き切れていなかったからです。

下手すると「閑話」→「本編」→「本編」→「閑話」みたいな流れになりそうだったので、ひとまずシエル視点で書きたいところが終わるまで本編進めて、そこから閑話を書こうと思います。

変則的かもしれませんが、ご了承ください。

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