045.5 ただ勝利を求め
「フハハハハッ!」
甲高い笑いが耳を痛ませる。ヴィクトル・ザドンスキーはガーディアンズの基地の裏取りをしていた。
「私ともなればこの程度の事造作もないわ!」
一体なぜニルヴァーナがこの任務を自分に負わせたか、その意味こそ分からないがその任務が滞りなく順調に進んでいることは確からしい。
ただひたすらにこちら側に注意を集める。それがニルヴァーナからヴィクトルに託された任務である。天才で秀才で非凡な才能を持つと自負するヴィクトルは他者よりも圧倒的な指揮力があると熱弁し、自ら陣頭指揮を買って出た。
それほどまでに自分に才能があると思い込んでいるヴィクトル。実力は確かなものだった。
ガーディアンズ時代の訓練校では魔術師を抜けばニルヴァーナに次ぐ二番手。実力を身につければつけるほど彼は天狗になっていった。自分に無いものなんてあるのだろうか、自ら疑問に思うほどだ。
彼は負けることを知らない。敗北は彼の辞書に存在しない。どう足掻いても負けを認めない。
だが、勝つ以外の選択肢を持たないヴィクトルが勝てないものの中、彼が唯一負けを認めざるを得ないものがある。
魔術師だ。自分にはない超常現象を操る力。自分にはない別の角度からの他者からの信頼。自分にはない確実な勝利。
ヴィクトル・ザドンスキーはそれが許せなかった。憎くて憎くて憎たらしくて仕方がなかった。自分に無いものを持つ人間が赦せなかった。
だからこそ殺す、だからこそ消す、だからこそ滅ぼす。表面的に高笑いこそしているが、彼の心には静かな嫉妬と憎悪が確かにあった。
「む、あれは……?」
基地の中から出てきた男。その姿は未だ遠かったが、頭の奥底に眠っている何かが危険を察知させている。
そのうる覚えの脅威に足は震えていなかった。
彼は負けないと確信している。いつだってそうだった。そう自己暗示すれば次は勝てるということを知っているからだ。
そしてヴィクトルは男に向けてこう言い放つ。
「フハ、フハハハハハハハッ!! 随分と久しいじゃないか」




