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アンサーブラッド-果てなき魔術大戦-  作者: 朱天キリ
ACT.1 第一章 歩き出す現実-グレイス・レルゲンバーン-
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002. 仲間と魔術


 一九六四年。

 かつて、日本の首都で世界平和の象徴とも言える、締め付けられたような規制のもと行われた催しの中、それは見つかってしまった。


 グレイスすら生まれていないその頃に特殊な遺伝子、魔術遺伝子は発見され世界中で話題を攫った。

 ヒトの体の中に稀に潜在するその遺伝子は常人では成せない超能力が使えてしまう。そんな世界のおかげか、米ソの冷戦は二〇〇〇年代まで続いた。


 軋轢が絶えない中、世間は超能力を使える人間、"魔術師"に目が向いた。

 人間はそんな力を使えていいのか。いずれ彼等はただの人間を脅かし破滅に追いやり魔術師だけの世界にしてしまうのではないか。いつの間にか魔術師を絶滅させる為に作られた組織である革命軍、ブレイジスをグレイスは今、五年前から潰しにかかろうとしていた。


 冷戦をしていた二つの国はすぐさま和解に向かいふたつの人種が共に歩み寄る世界を作る為に出来た"国連軍"、あらゆる世界の軍隊が統合して出来た防衛軍、ガーディアンズが出来ていた。

そして今、国連軍と革命軍、二つの組織は対立、戦争に向かっていった。


 グレイスは自分達が訓練校で習っていたことをふと思い出していた。

 戦争の準備をする為ではなく他人に馬鹿にされたくないから、行く宛がないからという理由で来た人も多かった。たとえ魔術師も同じワケでわざわざ国連軍の訓練校に入る。自分もそんなような理由だったと振り返ると、ふとあの顔がチラつく。


 また出てきた。そんな悲しい顔をしないでくれ、どこかへ行かないでくれそんな思いも虚しくその顔はどこかへ消えていく。消していく。


 やがて消したその顔から逃げるように現実へとかえる。




 食堂へ向かうグレイスがいた。彼の横にはシルライト・ブラースカ曹長がおり、隣で絶え間なく喋り続ける。

決まって出てくるのは親族が馬鹿やったり親族と馬鹿やったりしてた話だった。


 二年前、ここに彼女が来てから随分と明るくなったものだ。そう考えると天真爛漫な彼女の功績は多大であるとグレイスはしみじみと感じていた。だが、そんな彼女も魔術師である。


「それでですねグレイスさん! ソイツ、そこでズボン脱ぎ始めてー!」


 シルライトの話はあたりとはずれがある。面白い確率は凡そ二割くらいだ。

 面白い話は就寝時に思い出し笑いするほどだが面白くない話は本当にくすりとも来ない。これはハズレの方だと確信する。


「シル、その話いつまで続く?」


 シルライトを略称で呼ぶ彼に、彼女は答える。


「あと十分くらいです!」


 面白くない話をあと十分ほど聞き続けるのはどんな苦行僧でも、きついモノがあるだろう、とボソリと呟くグレイスに救いの手が舞い降りた。


 食堂と五人ほどの列に並ぶグルニアだった。


 あの時、あれほど彼に強く当たったのに彼は怒らず寧ろ、それを糧にしているかのようだった。

 あれから今日までの彼の功績は一二を争う程だ。


「お疲れ様です」


 おつかれ、とグレイスは彼の後につき、そう返す。

 その間に割って入るようにシルはグルニアにチョップをくらわせる。


「グルニア! アンタが色んなトコで活躍してるとわたしのやることなくなるじゃないの!」


「ええ! そんな事言われても!」


 子供が親に駄々をこねるように騒ぎ、何かと理由をつけて理不尽な攻撃を行うシルとそれを喰らうグルニア。

 これで文句を言わない辺りにグルニアの人間性と、訓練校からの同期である関係性が垣間見えると二人のじゃれあいを穏やかに見つめていた。



 席につき、三人は輸送中にパサパサになったパンと薄味で具材は少ない上に小さいシチューを頬張る。細い道の中、まともに供給も行われないこんな場所ではこの食事は豪華な方だ。


「二人共、三日後に侵攻作戦を行う」


 グレイスに呼ばれた二人、シルとグルニアは食事中にそんな話をされたことは今まで何度もあった。


「一体、なぜ三日後に?」


 最初に口を開いたのはグルニアだった。


「それの答えは簡単だ、新兵の能力調査と敵武器庫への攻撃、戦線の押し上げだ」

 

 新兵の能力調査、聞こえはいいがやることはあの二人に実戦を経験させる。死んでしまえばそれまでという非情に思えるものだ。


「アイツらも戦闘に参加するんですね」


 二年以上の付き合いとなるとこの小さな拠点で生きている者達は互いに考えてくることがなんとなく分かってくるようになる。その一番の例が彼女だ。


 特にグレイスの話となると恐らく同期のニンバス、アリアステラ戦線初期から居るクライヴに次ぐ三番目に理解できる程、それだけ彼女はグレイスに尊敬の念を置いていることがわかる。それでもグレイスは彼女にどこか距離を置こうとしていた。


「ああ、今回もニンバス率いる第二分隊が後ろからの急襲、俺達が正面からの攻撃だ」


 ブレイジスでは本部に武器を置くのではなく、要所要所に武器庫を設置し取り出し出撃するのに手間を書けさせないようにしている。それを逆に利用しようという魂胆だった。


「了解です、他のメンバーには?」


「伝えてくれ」


 いつも当たり前に人殺しの準備をする。周りの人等もそれに同意した上協力する。

 異常なのにそれを正常と思えてしまう自身の躰にグレイスは無意識の内に嫌悪感を持っていた。


 机を挟み、向かいにシル、その右隣にグルニアの席だったが、グレイスにひかれるように彼のとなりの椅子に座るものが一人。


「失礼します」


 横目で見るとそこには、目上の人間には気配りを欠かさない精神、その寛容さが魔術にも現れている男、マスト・ディバイドだった。


「ああ」


 首を小さく一回縦に振り、ほんの少し漏れたような同意の声だけ。

 パイプ椅子を音を立てずに引き粛々と座る、それをいつもかかさない整った顔立ちの彼は時々女性と間違われることすらある。

 グレイスが彼の態度を真似しようにもきっと長続きしない。それだけ身に染みている行動なのだと感じていた。


「作戦の話でしょうか?」


 グレイスはもう一度首を縦に振り口を開く。


「武器庫への攻撃と言っても持っていける分は持って帰る、勿体無いからな」


 ただでさえ物資の不足したこの戦場で敵のモノさえ消し飛ばすのは気が引けるグレイスは何とかして活用しようとする。


「俺達が最前線の敵をあらかた仕留めたあと俺らの一般兵が武器装備をできるだけかっさらい、武器庫の中にある爆破物でドカンだ」


 一般兵などと魔術師である自分を至高とし、自身と相手の身分差を決定づけるような発言はしたくないが、グレイスには他の表現が見つからない。


 魔術師主体の作戦はグレイスやクライヴから話を聞いた者から魔術師達のみにまわる。

 一般兵への伝達は作戦前日の朝方クライヴの口から聞くこととなる。

 この方法は殆どの支部が採用しており、実際効率が良くなっただとか士気が上がったなどという成功例こそ出ないが他の方法を試し、失敗するよりかはマシだというもの。




 作戦の話を手短に済ませ、食事へと戻る四人。話はやはり話題の新兵。挨拶回りを行っただけで他は何も知らされていない三人が気になるのも当然だ。


「彼等はどんなのを使うんです?」


 それをグレイスに聞いたのはマスト。興味深い話には目がなく知識欲も旺盛。そんな彼が興味を示したのは潤とガルカだった。


「試しにアイツらを裏の方に呼び出して少し見てみたんだ」


 結果はそこそこ。まあそんなものだと思えてしまうグルニアとシル。この二人も配属時、クライヴやグレイスから"そこそこ"の評価を受けていた。


「ガルカも潤も伸び代は充分にある」


 氷を槍に込める魔術、"アウルゲルミル"を持つガルカ・ヒルレー、炎を主体とし微力ではあるが氷も使える二属性持ちの"ウルサヌス"を操る櫻井潤。彼ら二人の魔術は素質は相当なものであり、特に潤の魔術に関してはあまり例を見ない。


「二属性の魔法を持つ、ですか。なかなかに面白い人材ですね」


「オマエが言うか、オマエが」


 シルライトはマストの頷きにそうやって反論する。それを聞いたマストは頭の上に疑問を浮かべているようなきょとんとした表情で、シルはそれを見て呆れる。


「オマエの魔法だって変梃なくせに」


 その通りだ、そう思うグレイスもいたが口には出さずにいた。自分の魔術も周りから見たらきっと変わったいるんだろうと感じていたからだ。


 マストの魔術、フルフィルメントは自分だけの四次元空間を持っており、そこにはあらゆる物を内包出来る。彼の心の表れともいっていいふさわしい魔術だとグレイスは確信している。

 最初の使い勝手や利用方法こそ悪かったが活用法を当時のメンバーで編み出し、彼の真価を発揮させた事は戦時中でありながら目を輝かせたものだ、と物思いにふける。今回の作戦での一般兵主導は彼とニンバスだ。


「彼等の本当の力は実戦を行ってから、ですね」


 グルニアの言葉にグレイスは同意し、マストとの苦難を乗り越えた皆と新人の二人が分かり合うことを願っていた。




グルニア・ベルファング

グレイスの部隊の副隊長。シルライト、マストとは同期。


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