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アンサーブラッド-果てなき魔術大戦-  作者: 朱天キリ
ACT.1 第一章 歩き出す現実-グレイス・レルゲンバーン-
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017. 親友





 あれから一週間、クライヴ・ヴァルケンシュタインは予定通りの日程で本国へ帰還した。


 彼の代役として来たのは今、グレイス・レルゲンバーンの目の前にいる男だった。



「やあ君! 元気にしているか!」


 高らかにグレイス声をかけたのは知らない男だった。

 声の音程から察するにクライヴと同じ年代と思われるが、あらゆる部分から滲み出る若々しさにグレイスは戸惑っていた。


「失礼ですが、あなたは?」


 見た所、国連の軍服を着ているため関係者であることは明白だったが、空港からの道のりから歩いてやってくる男などまずいない。


 ましてや空港側の裏門に配備されていた兵士すらこの男の姿を見ていないという。


「俺か? 俺が名前言う前に自分から名乗れよぉ、行けずな奴だなーグレイス・レルゲンバーンってのは」


 自分の名前など知られていることに遂には驚かなくなったが、見ず知らずの、加えてテンションの高い中年男に言われることはまずなかった。


「言わなくとも知ってるじゃないじゃないですか。とにかく名前と、ここにいる訳を教えてください」


 グレイスがそう言うと不機嫌になる自分より一回り近く年上に見えるその男は、彼に自己紹介をする。


「しゃあないなぁ。俺はアライアス・レブサーブ中佐だ! 本日付でこのアリアステラ戦線とかいうちゃっちい拠点に、クライヴの代わりとして居座ることになった! どうぞよろしく!」


 今まで聞いてきた誰よりも声のデカい挨拶にグレイスは耳を塞ぎたくなる。

 ただその言葉はグレイスを大いに不安にさせた。

 クライヴの代わり。彼がクライヴの言う親友で信頼のできる仲間だと言うのだ。


 苦い顔しか出来なくなってしまったグレイスはレブサーブに質問する。


「そ、そうですか…ところでレブサーブ中佐、裏門からどうやって入ったのですか? 軍服を着ていても一旦は確認の為、基地の中にいる尉官に知らされるはずなのですが」


 ニンバスにも、ましてやグレイスに伝えられておらず、その上、基地内に侵入した男は始めてであった。


「どうやっても何も、道なりに進んでもその裏門ってのも正門って言われそうなでけぇ入口も無かったから壁登っただけだ」


 頭が狂っているのか方向音痴なのか、そのどちらもであると勝手に断定したグレイスは彼に出入り口の場所を伝える。


「中佐、今度から門の場所まで書かれた基地内の地図を渡しますので常備してください…」


「本当か! 助かるなぁやっぱりレルゲンバーン大尉様は最高だ!」


 無駄に一言一言が長い彼、大尉という言葉にグレイスは反応する。


「大尉…?」


「ああそうだ、グレイス・レルゲンバーン、並びにアリアステラ戦線在駐の魔術師は本日から一階級昇進だ!」














「改めまして、グレイス・レルゲンバーンちゅう……大尉です」


「おう! よろしくな」


 廊下を歩きながら固い握手を交わすグレイスとレブサーブ。


 基地内の設備の説明と各魔術師との挨拶を済ませる名目で彼らは部屋を回っていた。


「ヴァルケンシュタイン大佐から聞きましたが、彼とは一体……」


「クライヴの野郎とは昔っからの付き合いでなぁ、一時期同じ小隊に入ってからはずーーーっと一緒だ。なんでもアイツは俺とウマがあわねぇあわねぇ! 第一印象としては最悪だったんだ! そったら…」


 彼に喋らせると誰かが止めない限り喋り続けるのだろうと咄嗟に判断したグレイスは彼の一人語りに割り込む。


「二人がお互いを信頼していることは分かりました。それでここに来るまでは何を?」


「ああ、本国で国連総会とかなんとかのメンバーの護衛とか、そこのまとめ役みてーなモンだよ」


 クライヴと交代ということは彼が今はその座についているのだろうと話すレブサーブ。


「ここみたいに最前線も本国も狂ってるのは同じなんだがなぁ、なーんでこんな時期にやってくれるのかねぇ」


「大佐や中佐本人の異動理由とかは聞かれましたか?」


「いや? あーでも、護衛役としては不適切な行動しかしておらず、またヴァルケンシュタイン大佐の方が適任なのでーとかいう文書は来たなあ」


 要約すると、使えないので飛ばされてしまったのだ。


 実力も実績もある彼は護衛には向かず、身勝手な行動をした結果だと聞いたグレイスは初対面ながらその濃さに呆れる。


 理解力がないのか天然なのかその意味を理解していないように見えるレブサーブにグレイスは何も言わなかった。


「今ははどうなってんだ? 魔術師の数やら補給の状況とか。辺境の地だと色々シビアだろ?」


ズカズカと聞いてくる彼にグレイスは静かに答える。


「問題ないと言えば嘘になりますが、ギリギリやっていけてます」


「ほほう、なるほどなぁ。ただ俺はもう少し潤沢にだな…」






 彼との会話を重ねると度々クライヴの名前が出てくる。


 それほど彼とレブサーブが信頼し、信頼されているのだろうとグレイスは感じていた。


 彼は、どうだったのだろう。


 自分では親友と思っていた彼が目の前から急にいなくなり、死んだ思われていたら実は生きていたなんてありえないとグレイスは考える。




 いつしか彼、ニルヴァーナ・フォールンラプスにその真意を聞きたい、その一心で今はただ生きているしかなかった。







アライアス・レブサーブ

年齢に似つかわしくない態度の男。クライヴとは旧知の仲。


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