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アンサーブラッド-果てなき魔術大戦-  作者: 朱天キリ
ACT.1 第一章 歩き出す現実-グレイス・レルゲンバーン-
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009. 鉛玉の向こう





 彼はアリアステラに帰り、いつものルーティンをこなしていた。


 ノックをすると奥から声が聞こえる。入室の許可をもらうとドアノブを回し扉を押し開く。


「失礼します」


 ドアの下に敷かれた部屋と廊下のラインを越えると、グレイスは右肘を曲げ、手先を頭の前へと出す。


「グレイス・レルゲンバーン中尉、ただいま戻りました」


 部屋の中には後ろにいるグルニアを除く、戦線が誇る魔術師が勢揃いしていた。


「ご苦労」


 敬礼をするグレイスに労いの言葉をかけやめていいと身振りするクライヴ。

腕を下ろすとグレイスは早速、本題へと入った。


「今から向かいますか?」


「そうして欲しいところだが、今回は特殊な体制で行こう」


 部屋の中にいる全員がその体制を知らない中、クライヴは話を続ける。


「雑木林の中へ向かう魔術師を一人。そうだな、グレイスで行こう」


 全員が話を理解した上で話すクライヴ。雑木林の先にある敵の巣窟を潰すのがグレイスの仕事と任命された。


「他の奴らはニンバスを筆頭に前線に向かえ、現地でのそれ以降の指揮はニンバスに任せる」


「了解」


 小さく首を縦に振りながらニンバスが答えると、クライヴは全員に向け話し出す。


「今回、ニンバスに従うメンバー及びニンバス本人は、前線の監視がメインだ。万が一戦闘が始まったらニンバス、頼むぞ」


 もう一度首を同じ方向に振るニンバス。クライヴはグレイスに目線をむける。


「グレイス、相手がイカれていて欲しいと常々願う俺だが、今日も恐らくそんなことはないだろう。お前だけは本格的な戦闘だ、健闘を祈る」


「分かりました」


 本国にいた頃の電話のくだりを引きずっていたクライヴはグレイスに半笑いをよこした。





 戦闘服らしい戦闘服を着終えたグレイス達。

 前線へ向かう最中、グルニアはグレイスと空港から車の上で行われていた話の続きをしていた。


「そういやさっき言ってた鳩、あっただろ?」


「ああ、はい…」


 勘繰るようなトーンで喋るグルニア。それをなだめるかのようにグレイスは話す。


「今度貸してくれないか?行き先はお前と同じく本国の郵便局宛だからさ」


「何に、使うんです?」


「見合い相手…に…だな…色々と速かったもんで、悪いなーって思ってたからさ」


 そうやって申し訳なさそうに喋っているグレイスを見たグルニアは、そんなことかと笑みを浮かべる。


「ははっ、なんだそういうことですか。いいですよ、全然使ってやってください。自分もあまり送れていなかったもので」


「そうか、すまないな」


 感謝と同時に謝罪を述べるグレイス。


「じゃ、本部で会おう」


「はい!休暇合わせてくれるっていう貸し、返しましたから!」


 グレイスか背を向き微笑むグルニア。

 そんなことをグレイス本人は知らずに雑木林へ向かっていった。








 前線のメンバーがクライヴに言われた配置についた頃合いだと、グルニア達と別れた道のりから逆算し時計で確認するグレイス。


 木の後ろへ身を隠しているグレイス。自身の装備の軽さを生かし、身体を出し銃口を林の先へと向ける。


 敵がいないことを確認してから先へ進もうと一歩、踏み出そうとすると、奥から唸り声が聞こえてきた。


「うおおおおらあああああ!!!!死ねええええ!!!」


 罵詈雑言を飛び散らしながら、グレイスと同じように木に隠れていた四人余りの兵士は、銃弾を火薬とともに撒いてきた。


 すぐさま体を隠し座り込むグレイス。ハンドガンを太腿についたホルスターへしまい、鉄剣を創り出す。


 鉛玉の嵐を終える瞬間を見計らい、相手のマガジンが切れたのを読み、神経に指示し身体を飛び出させる。


「はああ!」


 直線上で最も近くにいた敵に瞬間的なスピードを出し、懐まで寄る。

 叫び声と共に剣を首元に突き刺す。


「あ、あ、あああ……」


 剣を手から離すと、尻から後ろへ倒れ込む兵士は首を抑え薄い金切り声を上げる。

 刃と皮膚の間から紅い水が湧き出る。


 それを尻目に次に近い者に標的を定める。

 人を殺したその鋭い目付きとその後ろにいる血まみれの男に眼前の敵に怯える。


「ひい!」


 後ずさりする男の脹ら脛を剣を飛ばし、横から貫く。


「がぁ!」


 後ろへ後ろへと下がっていた足はとどまり、男は膝から落ちる。

 ロングソードを生み出し頭から縦に振り下ろそうとすると真正面から再び銃撃が行われる。


「──ッ!」


 弾が来た方向に身が隠れるほどの大きさを誇る大剣を出し、地面へ突き立て防ぐ。

 方向転換すら容易な細く長いサーベルを四本、空中に生むとやがて空へと舞わせる。


「おらああああ!!!」


 敵へ猛烈な速度を出しながら飛んでいくサーベルは二人の頭、体、腕に刺さる。

 一人は唸り声すら出ずに倒れ、もう一人は絶叫しながら死んでいった。


「────ッ!」


 脹ら脛に刺した男もやがて死んでいった。


「ふう」


 四人殺しグレイスは息を吐く。

 雑木林を抜けテントを見つけ、敵をいないことを確認する。


 任務を遂行したグレイスは本部へ戻ろうとするその瞬間。


 刹那ー、乾いた重い銃声がテントの更に奥から聞こえる。


「!?」


 麓の方から叫び声が聞こえた。どこへ向けた銃弾かは明確。間違いなく敵の攻撃ということを瞬間的に理解したグレイスはその音がした方向へダッシュした。





 テントと薪があった所、その向こうを百メートルほど走り、その場所に着くと、長い髪が特徴的な女性を見つける。


「お前、何をした」


 すぐ目の前にある大きな岩にライフルのバイポッドを立てていたその女はこちらに気付く。


「見てわかるでしょ……?」


 ブレイジスの戦闘服、だが普通の兵士が着ているものより明らかに軽装である彼女が持っていたのは、対物ライフルだった。


「質問に、答えろ!!」


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