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うそなき -嘘笑む声無き-  作者: 楠楊つばき
第1章 嘘を言え
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魔法使いVS????:1

 寝静まった街の上空にいくつもの人影が揺らめいた。続いて赤、青、黄色といった鮮やかな光が人影を追いかけていった。轟音と閃光は地上から見れば花火に間違われるだろう。意志を持っているかのように対象を補足する光はさしずめ大きな蛍だ。


 学院を保有するエステル東学術区周辺では二つの組織が水面下で凌ぎを削っていた。一つは魔法協会エステル支部。全国的に展開された魔法使いによる組織であり、卒業生が引き上げられる等、学院とも良い関係にある。もう一つは広く認知されていない野良組織だ。活動成績もなく、表で日の目を浴びることはない。無論学院との関係は無に等しい。


 協会の魔法使いであることを示すバッチが月明かりできらめいた。


 両組織の間に開戦の狼煙のろしはいらない。なぜならば互いは矛盾した存在であった。更なる繁栄を望もうとするならばもう片方が障害となる。たとえ魔法を操るという前提条件が同じであろうと、道は分たれた。


 今宵の戦場も、あてつけとして魔法使いの学び舎が選ばれる。真夜中は人ならざるものの独擅場。彼らを非難する者はおらず、崇拝する者もおらず、のびのびと思うがままに指先を走らせ羽を広げる。


「こうして争うのも何度目かな。大人しく引き渡してくれればいいものを……君も強情だね。他人のために命をかけるなんて馬鹿じゃない?」

「お前に言われたくねぇ!」


 一際ひときわ火花を散らして戦っているのは二人の男であった。一進一退の攻防の中に、見え隠れするのは血の通った思い。一歩も退かずにぶつかり合う両者には譲れない動機があった。相手の動きを目で見なくても予測できるほど刃を交えてきたのも、立場ゆえだけではない。


 便宜上、野良組織側をA、協会側をZとしよう。


 Zは体のバネをいかし、しなやかかつ重みのある拳を繰り出した。肉薄までは成功したが、えぐり落とすための一撃は盾によって受け流さられる。だがZは諦めなかった。体重を移動させ、勢いを殺さずに回し蹴りを叩き込む。今度は盾に阻まれず、Aの脚に直撃した。


「っぐ……ッ」


 しかし顔をしかめたのは攻勢に出ていたZであった。


「防御ががら空きだね。対策がたりないよ」


 Zの左脚はまるで石像を蹴ったかのように痺れていた。反動が全身を駆け抜け、次の一手が遅れる。


 この好機をAが見逃すわけもなく、AはZの脚を握りしめた。するとジュウと肉を炙るような音が聞こえ、Zの呻吟しんぎんがコンクリートを震わせる。Aの手の平には炎が生まれていた。その炎がZの肌を焦がしたのだった。


「君もよく立ち上がってくるよねぇ。あっぱれな根性だ。この前も手厚くお見舞いさせたつもりだったけれど、君は満足できなかった?」


 Aの手の中に次は紫電がほとばしり、Zは危機感知をして片脚をかばいながら飛び退いた。左脚を焼きただらせたのは「奇跡ではない」とうたわれた魔法だ。


「――るせぇな、ゴチャゴチャッ」


 怪我の一つや二つで心折れてしまうならば、きらめく星に手を伸ばそうとは思わない。幾多の傷を背負おうと、Zは満身創痍でありながらも必死に食らいつく。


 それでも相手の方が上手うわてだった。Aは涼しい顔のままZの攻撃を全て受け流し、飄々と手で仰ぐ。まるで痛くも痒くもないと言いたげに、手が空いていることを見せつける。


 しかしそれが罠であることを見抜けず、迫撃を狙おうとしたZは手強いしっぺ返しを食らうこととなる。拳が届くかという距離まで近付いた直後、激痛に脚をとられZは倒れたのだった。Aとはまだ接触していなかった。Aの手の中に刃物といった得物はなく、いた剣は鞘に行儀よく収まったままである。


「なん……だ、これ……! あがっ!?」


 焦がされた左脚から異常な熱が発せられていた。Zは己の左脚を抱きながら、冷たい地面の上でもがき苦しむ。


 そんなZの醜態を眺めながら、Aは無関心といった様子で吐き捨てる。


「新たな創世使いを迎える準備はできている。君がいつまで彼女を守れるか、高見の見物だ」


 Aが指を鳴らすと、黒衣の人物が集結した。


 のたうちまわりながらZは彼らを一人一人睨みつけた。宿敵を目で殺そうという気迫をみなぎらせながら、無念にも目を閉じた。






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