部活動 5-4.3
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
ようやくバイトが一巡します。
ではでは~
「えーと、竹腰さん?」
「何?」
「いえ、なんでもないです」
鉄臣君、竹腰さんの威圧感に引き下がる。
「あのー、お姐さん。今日の真綾さん近くないですか?」
「そうかい?」
鉄臣君、汗ばむほどべったりの竹腰さんの香りに圧倒されていた。
それを全く気に留めないアヤメさん。
それを正面から竹腰ママさんが微笑みながら眺めている。
今日は、後部座席が対面式のリムジンだった。
「あのー、そもそも、ボクがこっちに座っているのがおかしくないですか?」
「かな坊、男っていうのは、言われたところにドーンと座って黙っているもんさね」
「お姐さん、ボクただのバイトですから」
「あーーーー。お曾祖母様、このバイト男が、わたしの隣を不満だって言ってますー」
「真綾、かわいそうに。このことは竹腰の家の者全員に周知させないといけないかもねぇ」
「あらあら、・・・おばあさまったら、・・・そんな生ぬるいことを。・・・真綾が不満というなら、・・・去勢してもよいのでは』
竹腰ママさんは言い終る前から頬を染めていた。
「ヒィーーーーーーー」
鉄臣君、最後まで聞こえなかったが身の危険を感じていた。
= = = = =
「ありがとうございました」
鉄臣君、拍子抜けするほどあっさりと降ろしてもらった。
いつものように出口側に陣取っていた竹腰さんが先に降りている。
鉄臣君、車内に聞こえ無さそうな声で竹腰さんから話しかけられる。
「鉄臣さん。また明日。でね、わ、わたし考えたんだけど。・・・【あーん】は、こ、恋人にしてあげる大事なことだと思うんだ。だから、練習したいなって」
「はあ。でも練習しなくてもいい感じだったと思いますよ。俺、ドキッてするし」
「!、・・・ダ、ダメよ。ちゃんと相手・・・勘違いしないでね。れ、練習、そう練習相手になってくれないとダメだからね」
「うーん、それ、バイトに含まれる?練習いるのかなぁ。竹腰さんだったら、今のまんまでOKだと思うんだけど」
「オ、オーケーじゃ、ないじゃない。すぐに食べてくれないし。・・・それにまだ、わたしが少し恥ずかしいしぃ」
「?、だったら、無理にしなくても」
「だって、学園とかじゃ、みんな見てて、今じゃないとできないもん」
「ごめん。俺なんかで練習して役に立つの?」
「なんかじゃないの!したいからよ!もう。・・・な、なんてね。ほ、ほら、自然にできるようになりたいなぁって」
「ますます相手が俺である必要性がないような気がする」
「いいの!わかった?練習台になってよ。こ、恋人みたいに振る舞わないと減点だからね」
「えーーーー。ボクにそんなのできないよーー」
「真綾、そろそろ帰るよ。じゃあ、明日も頼むさね、かな坊」
「鉄臣さん、わたしからもお願いね」
「はい。何かリクエストがあったら、連絡ください」
「そりゃ、真綾から夜にでも電話をさせるさね」
「えーー、夜にリクエストされても、準備、間に合わないかもしれませんよ」
「フフッ。その時は、真綾ちゃんにいっぱい謝って、いっぱいお話ししてあげてね」
「お、お母さんったら、もう。・・・鉄臣さん、言い訳をたくさんしてもらうからね」
「えーー、ボクの責任なんですかぁ?」
鉄臣君、竹腰家の理不尽さ追いつめられていた。
= = = = =
「せーんぱーい」
鉄臣君、待ち合わせの駅前で橘さんに見つけられる。
トテトテと駆け寄ってくる橘さん。
(橘さんって、かわいいなぁ)
「はぁ、はぁ。先輩、お待たせしました」
「こっちに走ってこなくてよかったのに」
「先輩のいるところが集合場所なんです」
「なんか、気を使わせちゃって、ごめん」
「いいんです。ボクがやりたいんですから。じゃあ、行きましょう」
鉄臣君、かわいい後輩に腕を抱きかかえられてしまう。
「ちょ、ちょっと、橘さん。ひ、ひっつき過ぎじゃない?」
「もう、先輩。後輩は先輩の影になってもおかしくないんです」
「そういうものだっけ?」
「そういうものですぅ」
「先輩、もうすぐ丸美のウチです」
「道案内があって助かるよ」
「えへへー。ご褒美に撫でてください」
「ええー。ココでじゃないよね」
「ぶー。ご褒美は今すぐって、決まってます」
「そ、そうなの?」
「そうです」
<ご褒美>というキーワードから頭を差し出してくる橘さん。
フワッといい匂いがする。
(みんな、どうしてこんなにいい匂いなんだろ)
鉄臣君、逆らえそうもないので、素直に頭を撫でる。
「ちょ、ちょっと!橘!あんた、何、してもらってるのよ!」
かぁー、かぁー。バサバサバサバサッ!
突然の大声にカラスや鳥が一斉に羽ばたいた。
「おお!」
鉄臣君、思わず慄く。タメゴローを忘れてるぞ・・・よい子のみんなは、おじいさんたちに聞いてみよう。
= = = = =
「むー」
「丸美さん、こんにちは」
「むー」
「丸美ぃ?どうしたの」
「むー」
「エート、どうしたのかなぁ」
「むー」
「ははーぁ。先輩のご褒美が羨ましいんだ」
「な、な、しょんなことにゃいわよ」
むくれていた丸美さんは、橘さんの一言で俯いてしまった。
「さ、さあ。ウチで勉強するんでしょ。こっちよ」
鉄臣君、丸美さんが手を差し出していることに気がついた。
「うん、ついてくよ」
何気なく手を繋いだ。
「あー、先輩、ボクも手を繋ぎますぅ」
『た、橘は、大げさなのよ。こんなの普通じゃない』
か細い声でぽしょぽしょつぶやく丸美さん。
鉄臣君、この時、この瞬間を見られていることを知る由もなかった。
いかがでしたか?
真綾さんは練習へのこだわりはぱねぇようです。
次話、丸美さんちへ突入です。
次話をお待ちください。




