部活動 5-3.2
ここまでお読みいただいてありがとうござます。
鉄臣流オムレツがいかがでしょうか?
ではでは~
「はふはふ、おいひー」
「真綾。みっともないよ」
「お嬢様。大奥様のおっしゃる通りですよ」
「ふにゅー(ちらっ)」
竹腰さんは諫められたのが恥ずかしくなって鉄臣君をチラ見した。
鉄臣君は、アヤメさんや御堂さんの箸運びをチラチラ見ていた。
その様子に少しがっかりする竹腰さんだった。
鉄臣君、料理の出来が気になって、意識されないようにふたりの食の進み具合を観察していたのだった。
「かな坊、オムレツもいいもんだ。けど、不思議さね。もっと脂っこい印象があるんだけどねぇ」
「ちょっと工夫してますから」
鉄臣君、少し得意げに言った。
「どんなだい?」
「アヤメさんと御堂さんのひき肉は、鶏のささみ8に牛、豚、1、1です。竹腰さんのは、豚6、牛3、鶏1」
「ほほう、それであっさりした感じなんだね」
「ひき肉には、出汁を振りかけて親子丼の組み合わせに近づけましたので、ご飯に合うと思います」
鉄臣君以外の箸が止まる。
竹腰さんの顔が赤くなる。
「竹腰さん?」
「鉄臣さん、こっち見ないで」
「え!あ、はい。すみません」
「違うの、悪くないの。だめ、恥ずかしい。ごめんなさい。ごちそうさまでした」
竹腰さんは大急ぎで食べると真っ赤な顔で部屋を出ていった。
「あのー、ボク、また何か変なこと言いました?」
「まあ、気にしなさんな。ところで、かな坊、そろそろ真綾を名前で呼んでくれないかね」
「ええっ!そんな失礼なことはできませんよ。アヤメさんもお姐さんと呼んでるんですし」
鉄臣君の言葉に半ば呆れ顔になるアヤメさん。
「かおる、お前、どう思うね?」
「そうですね。たぶん、アヤかあさんと同じと思います。で、どうするの?」
「自覚がないのが困りものさね」
「まぁちゃんも考え始めてるのにね」
鉄臣君、アヤメさんと御堂さんが今まで見たことのない態度で会話する横で黙々と昼食を食べていた。
= = = = =
「かな坊、真綾に何も言わずに帰るのかい?薄情だねぇ。真綾の心の傷が癒えるのは、いつになるのやら」
「ちょ、お姐さん。だったら、ボクが挨拶に行くのは逆効果じゃないですか」
竹腰さんが部屋に籠ってしまったので、代わりに御堂さんと3人であとかたずけをする。
「あ。こ、細かいことはいいさね!」
「えー、よくないですよ。傷口広げちゃうじゃないですか。さっきだって何か気に障ったのかも知れませんし」
「うーん」
食器を拭きながら唸るアヤメさんだった。
= = = = =
「やだ、もう。何が貧乏くさいオムレツよ。お肉の比率変えてるとかって、漫画の料理対決並みに工夫してるじゃない」
竹腰さんはダイブしたベッドの上でジタバタしていた。
「料理はちょっと自信があったから、胃袋を掴みに行けってお曾祖母様の作戦だったのにぃ」
(知らないでお弁当作ってたなんて、間抜けじゃない。ドヤ顔とかしてなかったかな。あーん、恥ずかしすぎるー)
「お嬢様、大奥様がお呼びでございます。具合はいかがですか?」
「あ、はい。行きます」
ドレッサーで紅潮が治まったか確認した竹腰さんは、御堂さんの後ろをついていく。
= = = = =
竹腰家の勝手口。
鉄臣君は帰り支度も整っていたが、アヤメさんが引き留めていた。
「だから、お姐さん、今日は寄るところがあるので、電車で帰りますって」
「だから、目的地まで送ってあげるさね」
「運転手さんにも悪いですから」
「それが仕事さね」
「みなさん、お忙しいでしょ」
「いいんだよ、息抜きなんだから」
「じゃあ、なおさら運転手さんに悪いですよ」
「なんだい、ウチより運転手の方に気を遣うのかい」
「うぅっ。そ、それは」
「そろそろ、真綾も来るから」
「竹腰さんも暇じゃないでしょうから」
「そうよ、暇じゃないもん」
腰に手を当てて竹腰さんが呆れ顔で立っていた。
「えーと。じゃあ、ボクは電車で「降りる駅まで行きましょうか」・・・、はい」
竹腰さんの言葉が決定打。
2対1。
鉄臣君、勝ち目がなくなったので、あきらめた。
竹腰の女は、手ごわい。
「クフフ、真綾が来ると観念するんだね」
「おふたりに勝てる気がしないだけです」
= = = = =
「あのー」
「・・・」
「・・・」
(う、う、気まずい)
竹腰さんとアヤメさんが一言もしゃべらない。
竹腰さんがもたれてきているような気がする。
鉄臣君、さっきまで雑談で何か気に障ることを言っていないか、思いだしていた。
心当たりがない。
竹腰さんに帰ったら何をするか聞かれたときに今日は橘さんの家庭教師と楠木さんの部屋の模様替えのバイトの話をした。
そして、楠木さんちで夕飯を作ると。
橘さんちの最寄り駅にクルマが着いた。
竹腰さんが動かない。
「あのー、竹腰さん?」
「まゃ」
「はい?」
「竹腰だとウチのみんなが竹腰だから、ウチにいるときは真綾って呼んで」
「え? で、でも、なれなれしくて失礼だから、お嬢様でいいんじゃ」
「・・・、真綾、真綾でいいから」
「うん、うん、真綾がそういうんじゃ仕方ないね。かな坊は、いうことを聞いとくれ」
「え、あ、はい」
鉄臣君、押し切られる。
「じゃあ、呼んでみて」
「あ、・・・ま、ま、真綾・・・さん」
「うーん、感情がこもっていないな」
「えー、感情って何ですか」
鉄臣君、戸惑ってしまうが、竹腰さんがニコニコしていることには気がつけなかった。
いかがでしたか?
鉄臣流オムレツは、ひき肉の配分が工夫されていました。
次話をお待ちください。




