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部活動 5-1.5

ここまでお読みいただいてありがとうございます。


竹腰家のバイト初日も終わります。


ではでは~


「あのう、お姐さん。近くの駅までで充分ですから」

「諦めろ、鉄臣。お曾祖母様は一度言ったら、引かないぞ」

「竹腰さん、なんで男口調なんですか?」

「おもしろくなかった?」

「真綾、そんなんじゃだめだ。会長のお嬢さんが教えてくれた、ああいうのじゃないと男は喜ばないさね」

「ヒィーーーーーー」

鉄臣君、クルマで送ってもらっていた。

ただし、鉄臣君は竹腰さんとアヤメさんに挟まれ、いいように揶揄われていた。


鉄臣君、要望は聞き入れてもらえず、寮の前まで送ってもらってしまった。


「かな坊、明日も頼むよ」

「はい。それはもちろんです」

「明日は一緒にだよ」

「う、・・・わかりました」

「あー、なんか嫌がってないですか?わたし降りないよ」


「それもアリだね。かな坊、このままウチに住み込みで働きな」

「そ、それは困ります」

「どうしてさ?」

「それは・・・、いろいろです」

「「ハ、ハーーーン」」

「ヒイィィィーーーー」

鉄臣君、いつも以上にダメージが大きい。


 = = = = =


竹腰家のクルマを見送る。


鉄臣君の携帯がメールの着信音を奏でる。

「会長?」


鉄臣君、メールを確認する。

<竹腰さんのバイトお疲れさま。どうして、同乗のクルマで送ってもらったの?>

血の気が引く音が聞こえた気がした。


女子寮の方を見た。

久遠寺さんの姿は見つけられなかった。

「部屋の場所知らないんだった」


鉄臣君、アヤメさんに捕まったこと、強引にふたりが送っていくと聞かなかったこと、事あるごとに婚約白紙の件で揶揄ってくることなど書いて送った。

着信音が鳴る。

<電話で済むのに>

一言だった。


鉄臣君、電話帳の番号を指定し、通話ボタンを押した。


呼び出し音が聞こえてくるまで、間が長かった。

嘘の番号を教えられたのかも。


呼び出し音2回で久遠寺さんが出た。

「三石です。会長のお電話でしょうか?」

≪・・・≫

「すみません、まち「もう、せっかく掛けてきたのに切らないの」・・・はあ」

≪鉄臣くん、食堂でお茶を飲むから、付き合ってくれない?≫

「え、ええ」

≪ダメ?≫

「い、いえ。荷物を置いたら、食堂にいきます」


 = = = = =


鉄臣君、荷物を置いて、食堂に行くと手を振る久遠寺さんを見つけた。


夏休みで夕食の仕込み前と相まって、食堂でふたりきりだった。


「お待たせしましたー」

「待ちましたぁ」

フフとほほ笑む久遠寺さん。


「鉄臣くんは何を飲む? 奢るわよ」

「悪いからいいですよ」

「あら、竹腰さ「いただきます。ミルクティー砂糖大目で」」

「頑張ってる人へのご褒美よ」

「はあ」


自販機で飲み物を買って、窓際の席に座る。

窓から見える植物は、初夏の昼下がりの日差しで青さが増していた。


久遠寺さんがラッピングされた袋をテーブルに置いた。

「鉄臣くん、クッキー焼いてみたの、味見してくれるかしら」

「はい、喜んで」


それから、ふたりはクッキーを摘まみながら午後のティータイムを過ごした。

何か特別なことはなく、ふたりで過ごす自然な時間。


鉄臣君、ふと思いついた。やめろ、それは地雷かもしれないぞ。


「デートって、こんな感じなんですかね?」


「・・・、な、な、あなた、わたしを恋人と思ってるの!」

半ば叫びに近かった。

一気に耳まで真っ赤になった久遠寺さんが立ち上がる。


「すみません、すみません。悪気はないんです。経験ないから、こんな感じなのかなと思っただけです。決して分不相応なことは考えていません」

鉄臣君、久遠寺さんを怒らせたと思って必死で謝る。

その言葉で一気に冷める久遠寺さん。

「鉄臣くん、謝ることはないわ。今のはわたしが悪かったわ。変に期待したらダメよね」

「おっしゃる通りです。期待なんておこがましいです。でも、久遠寺さんが恋人だったりしたら、幸せだったり心配だったりするんでしょうね」

「な、なぜかしら?」

「そりゃ恋人だったら幸せですよ。かわいいし、優しいし。頭が良くて、スタイルが良くて、いい匂いだし」

「もう、セクハラよ。お、女の子を外見だけで評価しないでほしいわ」

久遠寺さんの女心は、かわいいと言われた瞬間に舞い上がって、後の言葉は聞こえていなかった。

「え?、優しいし、頭がいいって褒めましたよ」

「う、うそ。もう一度言って」

狼狽える久遠寺さん。

「かわいいし、優しいし。頭が良くて、スタイルが良くて、いい匂い」

「本当ね。ごめんなさい」

久遠寺さんが一度俯き、顔を上げると表情が消えていた。


「もう一つあったわね」

「心配の方ですね。そりゃ、久遠寺さんみたいに魅力的だったら、言い寄る男がいっぱいでしょ?」

「そ、そういうものかしら」

久遠寺さんは焦っていた。

気づかれないように消したはずの表情が口元から徐々に滲んでくる感じがしてくる。


「中に久遠寺さんのどストライクな男がいるかもと考えたら、気が気じゃないんじゃないかと思います」

「浮気されるとか?」

「久遠寺さんは浮気はしないでしょ。別れて終わりじゃないですか」

「うー、薄情な女じゃない」

「そうですか?より好きな人と恋人になりたいのは自然だと思いますよ」


「鉄臣くんは相手次々替えていくの?」

「ボクには、最初さえ居ないくらいだから、次々なんてありえませんって」

「じゃ、じゃあ、そ、その、さ、最初になってあげてもいいわよ」

「あはははは。そんなかみかみじゃ、弥刀さんの真似になっていませんよ」

「な、そ、そうね。なかなか難しいわね『バカ』フフフ」

微笑む顔が引きつる久遠寺さんだった。


「でも、会長のそばにいると得した気分なんですよ」

「どうして?」

「今みたいにかわいい笑顔を間近で見られて、いい匂いがするから」

鉄臣君、少し照れくさくなったので、立ちあがり明日の準備があると告げて部屋に戻ることにした。



食堂にひとり、ニヨニヨが止まらない可憐な美少女が窓ごしに夏の雲を眺めていた。

いかがでしたか?


夏休み、生徒会室の中と違った流れが始まりました。


次話をお待ちください。

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