部活動 5-1.3
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
ユニークだったり、繰り返し読んでいただいていたりと。
ブクマの方々、改めて感謝です。
鉄臣君、竹腰家のバイトは試練が待っていそうです。
ではでは~
バス、電車を乗り継ぎ1時間。
リュックの重みに音を上げそうになるころ、ようやく竹腰家に到着する。
玄関を通り過ぎ200mほど敷地に添って歩くと勝手口がある。
「ごめんください。バイトの三石です」
「はい、ご苦労さん、こっちです」
女中さんらしい人に連れられて厨房に連れてこられる。
例の調理人に挨拶をし、冷蔵庫に食材を保冷させてもらうようにお願いする。
「すみません。傷むといけないので、冷蔵庫を使わせてください」
「しょうがねえなぁ。冷蔵庫くらい用意して来いよ」
「ありがとうございます。冷蔵庫は何とかします」
(そうかぁ、プロだと自分で用意するのかぁ。ウチに小さいのがあったから、アレを送ってもらおう)
鉄臣君、実家のミニ冷蔵庫を送ってもらうようにメールを送った。
= = = = =
鉄臣君、厨房の隅を借りて、ご飯の準備に取り掛かる。
ポリタンクから水を注いで米を軽く研ぐ。
とぎ汁は一旦バケツに入れて、米をつけ置きする。
バケツのとぎ汁は庭の木の根元に撒いてきた。
凍らせたお手製の出汁を器に入れて解凍させる。
塩麹につけた白身魚をバケツの上で洗い、キッチンペーパーで水気を切った。
こっちの水は水切り袋で濾してシンクに流させてもらった。
塩気が植物によくないから仕方がない。
鍋に解凍した出汁を入れ、具材を入れてキャンプ用コンロで沸かす
味噌を溶きいれ、混ざったら一旦火からおろし、余熱を利用するために持参したタオルで巻いておく。
炊飯釜でご飯を炊き始める。
器を借りて盛り付けを始める。
昨日作った浅漬けを刻み、小皿に盛り付ける。
ご飯が炊けるのをしばらく待つ。
「おひつがあったら、よかったのになぁ」
カセットコンロの炊飯鍋からご飯の炊ける香りが立ち始める。
ご飯が炊けたのでコンロから下ろして蒸らす。
カセットコンロに魚用の網を置いて白身魚を3切れ焼き、少し焼き目をつけた。
「味見ができないのが困りもんだなぁ」
キャンプ用コンロで味噌汁を温め始める。
だし巻き用に残しておいた出汁と卵を混ぜて、だし巻を作る。
焼きあがっただし巻きを巻き簀で形を整え、いつも自分で食べているときより、少し狭く切り分ける。
借りた皿に焼き魚とだし巻を盛り付け、昼食の準備が整った。
女中さんがお膳で持っていくというので、ご飯と味噌汁、焼き魚、だし巻、漬物をお膳に乗せた。
たまたま目が合うと蔑むような視線だった。
(そりゃ、パンピーの作るもんですよ)
こうしてバイト初日の昼食作りが終わった。
横の従業員用の食堂では、竹腰家の使用人たちが順番に昼食を取っていた。
「ああ、腹減った。荷物多いしな、一旦帰ってからスーパーで買い物だな」
後片付けを始め、汚れた調理器具をレジ袋に入れてリュックに詰め込んでいく。
まな板の上にだし巻きの端が残っていたので、摘まんで食べた。
「この味付け、お姐さん気に入るかなぁ」
例のホテルの味付けを参考にしてみたつもりだった。
ネットでいろいろ作り方を調べて、自分なりに調整した。
「貧乏人の味覚じゃ通用しないと思うけど」
帰る支度が整い、いつでも帰る準備ができた。
「そろそろ、ご飯食べ終わったかな?」
何やら騒がしい。
女中さんが、お膳を持って血相変えて戻ってきた。
何かを感じた使用人たちが、そそくさと消えていく。
「かな坊!かな坊はどこさね!」
(あ、お姐さんの声だ、呼んでる?)
「はーい」
「ここにいたんだね! なんだい、お前さんだけ食いこないなんて」
「え?」
「冷めたら悪いから先に食っちまったが、待ってたんだよ!」
「?」
「かな坊、お前さん、ウチらだけに食わせて、それで終わりとか思ってんじゃないよ」
「ほら、こっち来な。これはお前さんの分だから、きっちり食いなって」
「お姐さん、それちょっとおかしいですよ」
「な、また、お姐さんとか言って、年寄りをからかうんじゃないよ」
「お曾祖母様、鉄臣さん、他所でもそういってますよ」
「は、はじゅかしいじゃないか」
竹腰さんの言葉を聞いて、アヤメさんが噛んだ。
鉄臣君、従業員用の食堂にアヤメさんがどっかと座った、その真正面で自分で作った昼食を食べ始める。
真横に竹腰さんが座ったおかげで居心地の悪さが倍増したような気がする。
心なしか、竹腰さんが嬉しそう見えなくもない。
「おっと、忘れてた」
そういうとアヤメさんは大型冷蔵庫の方にスタスタ歩いていって中を物色し目当てのモノを見つけたようだった。
「ビール、ビール」
コップと瓶を持って席に戻ってくる。
「かな坊、一口もらうよ」
いつの間にか持っていた箸で食べかけのだし巻きを口に放り込み、ビールを一気に呷る。
「くーーー、旨いじゃないか。真綾の料理より旨いさね」
「お曾祖母様、ひどーい。今、修行中ですー。ね、鉄臣さん」
「竹腰さんの料理の方がおいしいですよ」
「それは、お曾祖母様の判定が絶対だもん♪」
「勘弁してください。恥ずかしいよ」
「クフフ。これから毎日恥ずかしいかもよ」
「ええー」
「だって、ずーっと一緒にご飯だもん。ねぇー、お曾祖母様ぁ」
「なんだい、作って終わりなんてほんとに考えてたのかい?」
「いえ、食器を洗って終わりです」
「バカをお言いでないよ」
「そういや、量が少なかったじゃないか?」
「すみません。量が作れるわけじゃないので」
「そういうのは事前に言っておくれよ」
「すみません。持ってこれる道具と材料で作れる量がその位なんで」
「ちょっと待ちぃ、持ってこれる道具?なんだいそりゃ」
「あ、あ、あーー、あのですね、使い慣れた道具じゃないとできなくて、その、帰ってウチでも使うんで」
アヤメさんはしばらく鉄臣君を睨み、厨房のほうに目を向ける。
ビールの残りを一気に飲み干し、立ち上がる。
「かな坊、真綾、食器を持ってきな」
「はい、お曾祖母様」
いかがでしたか?
調理人は、いじわるな人です。
次話をお待ちください。




