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部活動 1-2.1

鉄臣君、結構いい思いをしてきてます。


でも、これって本人が望んでいないとキツイかもしれません。


まあ、お昼時になってきました。

鉄臣君のお弁当ってどんなでしょうか?


では、お読みいただければ幸いです。

鉄臣君、生徒会からはぐれていた。

しかし、それに気が付いたのは、ついさっき。

テンパり過ぎて状況判断ができていなかった。


鉄臣君、昼近くにはさすがに雰囲気に慣れたのか、OGOBに話しかけられながらも生徒会役員を探す余裕が出てきた。

持参した弁当を食べようと思っても、挨拶で壇上に呼び出された際に書記長にあずかってもらってから、行方不明になっていた。

生徒会の誰かを見つければ、きっと弁当に手が届く。


会場は庭園として整備されていて、広く起伏があるため見通しが利かない。

おまけに黒服が壁のように立っている。

同世代と思しき男女に尋ねてはみたが、生徒会の居場所は知らなかった。


「あー、誰とも番号交換してなかったなぁ」

喪部入りしてから今日までで2週間あまり、彼には超エリートと直接通信するという発想が浮かばなかった結果である。


鉄臣君、ついさっき会場の料理を食べてくれと社交辞令は聞いた。

だがしかし、その言葉を真に受けて食べたりしたら、<先輩たちを差し置いて>などと顰蹙を買うことにならないか?

もしかしたら、そこで人生が終わるかもと心配で、料理に手を出さず、空腹を抱え会場を彷徨っていた。


不意に携帯が鳴った。

表示された番号はアドレス帳の表示がない。

警戒して放置しているとポンを肩を叩かれた。

携帯から目線を上げると微笑む生徒会長 久遠寺紫苑がいた。

(ああ、会長と会えたぁ、これで弁当に辿りつけるはず。しかし、会長って綺麗だねー、いい匂いだしー)


「あっちでお弁当を食べましょう」

「あ、はい」

「・・・、か、鉄臣君、今日多めに作ってきたから、食べてね・・・、あ、あ、みんなでって意味でね!!」

「はい、ありがとうございます。ボ俺のもよかったら味見してください」

「ええ、いただくわね」


少し離れたところで生徒会役員たちがシートを広げて待っていた。


鉄臣君、シートに置かれた昼食らしきモノを見て引いてしまう。

自分を含め6人が持参しただろう弁当が、重箱10段と弁当箱が3個ある。

(誰が食べるの?)

鉄臣君の疑問はそのあとすぐに氷解する。


会長に促され、シートに座る。

「じゃあ、いただきましょうか」

「「「「「「いただきます」」」」」」

「正輝君、だし巻き作ったから、たくさん食べても大丈夫だよ」

「要、いつもありがとう」

(うわ、リアカップルだ!!当たり前に好物を作ってきてる!!重箱の1段はこれかぁ、二人はもう経け「三石君?三石君!」)

「え?あ、はい。なんですか?楠木さん」

「どうしたの?人に酔った?」


「いえ、ちょっと。で、なんですか?」

「わたし、お弁当作りすぎちゃって、少し食べてくれる?」

「は、はい。ありがたくいただきます」

(3人で重箱9段って、もう笑っちゃうよ)


「わたしのは、美味しくないかもしれないけど、その、ごめん」

(いつも凛としている楠木さんが、なんか護ってあげたい系になったよ!)

「大丈夫です、苦しみながら死んでも不味いなんで言いませんから、ははっ」

「三石君、食べなくていい」

ぷくっと頬を膨らませる楠木さん。


「あぁぁぁぁ、すみません、すみません。かわいかったので、つい、いじめたく・・・!!!!嘘です、嘘です」

(わわわ、抹殺されちゃうよ、人生が終わるー、ヤバイヤバイヤバイヤバイ)

「・・・・・・いよ」

「はい?」

「はっ!じょ、冗談だから、たくさん食べてね・・・」

「?」

鉄臣君、楠木さんにからかわれただけだと思い、ホッと一安心。


ところが、なぜか重苦しい雰囲気に包まれていたことに気が付いた。


堀田さん、弥刀さんはお弁当をシェアしてリアカップルぶりではあったが、さっきとうって変わって黙ったまま食事をしている。

何気なく楠木さんの方を見ると俯き加減で体が小さく前後に揺れている。

その横に強烈な違和感があった。

会長ともう一人の副会長が箸も持たずに無表情で鉄臣君に視線を浴びせていた。

(何々?ヤワヤワとかフワフワとかのふたりがなぜ?楠木さんに失礼なこと言ったから?えーーー、どうしたらいい?わかんねぇ、一旦、楠木さんに弁当を勧めて、その間に考えよう)

「えーと、お、お、俺の弁当もよかったら、どうぞ」

「「「!!!」」」


鉄臣君、恐る恐る弁当箱を開ける。弁当箱はありふれた二段式樹脂製(食洗器、レンジ対応)で少し大きめ。

おかずは、だし巻き、白身魚の西京焼、漬物。

だし巻きいうにおよばず、西京焼きも鉄臣君お手製。

ご飯は炊き込みご飯。

だし巻き用に仕込んだ昆布といりこと鰹節の一夜即席の合わせだしで具は鶏と根菜類。


生徒会役員たちが少し驚いた様子で弁当を見ていた。

「えっと、・・・貧乏臭くってすみません。弁当持参のお花見なんで冷めてもレンジなしでも食べられるって考えたら、ボクが作れるのってこれくらいで、材料もスーパーでしか買えないし、そ・・・・・」

(うーわ、眼が熱くなってきたぁ。なさけねー。だいたい知ってる花見じゃねえよ。異世界の花見なんかに呼ぶなよー。貧乏学生にできることって、カネのかかると限界が低いんだよー)


「「「鉄臣君、やっぱり(・・・・)料理得意なんだね!?」」」

「え?」

「だし巻きの火の通り具合、きれいですよ、ねえ要さん」

「作り慣れていると思います」


「お店以外で男の人が作った西京焼きを見るの初めてかもぉ」

感心する桃園さん。


楠木さんは炊き込みご飯を一口食べていた。

「鉄臣君、わたしより料理上手だと思う。おいしいよ」

その言葉をきっかけにおのおのが鉄臣君のお弁当に箸を伸ばした。

お弁当一人前を5人が食べれば、あっという間に残りが遠慮の塊が一口づつ。

鉄臣君なんだかうれしいやら恥ずかしいやらで身悶えしてしまう。


「おっ、美味そうだな、先輩がいただくぜ」

後ろから会場の料理を賄ったOB料理人がひょいひょいと残りを平らげた。

鉄臣君、突然のことに唖然としてしまう。


「え、ボクの弁当~」

「悪ィ、悪ィ。味の方は、まあまあだな。料理人になるのか?」

「いえいえ、そんな。エリートの世界には近づきませんよ」

「なんだぁ、エリートって、ただ料理作ってるだけだぜ?」

「自分で作ってるとプロの仕事ってすごいんだろうなと思いますよ」

「うれしいねぇ。若いのに美味い不味い以外も見てくれるんなら、こっちも甲斐があったってもんだ」

「あ、あ、はい、ごちそうさまでした」

(食べてないけどね)


鉄臣君、食べてもいないのにお礼をいう。基本的に周りの目を気にする小心者かもしれない。

いかがでしたか?


鉄臣君のガラケーを鳴らしたのは誰でしょうか?


鉄臣君、せっかく作った自分のお弁当を食べることができませんでした。

かわいそうですね。


ちなみにお重は、久遠寺3段、桃園3段、楠木3段、弥刀1段(堀田専用)で持ち寄っています。

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