部活動 5-7.24
お久しぶりです。
生きています。
夏休みは特に取り立てることもなく続いていた。
そんな日常に訃報が届いた。
鉄臣君の父方の祖母が亡くなった。
「帰らずに済むといいんだけど」
鉄臣君は正直に帰りたくなかった。
鉄臣君は両親の祖父母が好きではなかった。
概ね老人には関わりたくなかった。
鉄臣君の記憶には両親の祖父母たちは最悪な存在だった。
祖父母は鉄臣君の近所に住んでいた。
学校が休みになると度々呼ばれた。
鉄臣君は祖父母の家で庭の草むしりや家事をさせられた。
食事といえば夏はそうめん、冬は炊き込みご飯とほぼ決まっていた。
なぜか変な味のそうめん、具がほとんど入っていない炊き込みご飯。
育ち盛りの子供にとっては非常に物足りない。
一度「おかずは無いの?」と聞いたことがあった。
そうすると祖母は激高し「栄養満点やん、いややったら食べな」
と吐き捨てるように言った。
鉄臣君はこのころから老人とは関わりたくなくなっていた。
祖母の葬儀の日、父親の計らいで鉄臣君は帰省せずに済んだ。
鉄臣君、父親以外は家族と思える血縁がいなくなっていることを自覚した。
= = = = =
「かな坊、葬式に帰らんくてよかったのかい?」
「お気遣いありがとうございます、お姐さん」
鉄臣君、誰かに話した記憶がなかったが、驚かなかった。
(僕の個人情報ってどのくらい守られているんだろう?)
バイトが決まった時点で竹腰家の身辺調査がなされたのだろうと受け流した。
あまり深く考えずにいつも通り食事の準備を進めていた。
「かな坊、今日はちょいと味見をしておくれさね」
「味見ですか?」
鉄臣君、アヤメさんから課題を告げられた。
(味見って?僕が食事を準備しているのと関係あるのかな)
何とも言いようのない居心地の悪さを感じてしまった。
「あのー、僕の料理が「そういうのじゃないさね」・・はぁ」
不安を遮るようにアヤメさんの言葉が重ねられた。
「かおる、そろそろ真綾を呼んできておくれさね」
「かしこまりました」
御堂さんが屋敷の奥に戻っていく。
「じゃあ、かな坊はこっちさね」
「えぇ?ご飯の用意の途中なんですけど」
「すまないね。それは夕飯に回しとくれ」
「それはどうかなって思いますけど」
「どうしてだい?」
鉄臣君、竹腰家は専属であの威圧してくる料理人を雇っている。
バイトの賄いみたいな料理が並ぶのは憚られた。
= = = = =
鉄臣君、見慣れたアヤメさんの離れで待機モードで待っていた。
竹腰さんが御堂さんを伴って離れに来た。
「鉄臣さん、お悔やみ申し上げます」
竹腰さんが力なく挨拶をしてきた。
「へっ?あ、あぁ、お気遣いありがとうございます」
鉄臣君、一瞬、理解が遅れた。
なぜ彼女が落ち込んだように見えるのか理解できなかった。
おそらく祖母の死がそうさせているのだろうと推測は簡単だったが、他人の彼女には関係ないことなのに。
= = = = =
簡素で短いやり取りの後、離れに料理が運ばれてきた。
お膳に盛られた食事は、凡そ昼食というには豪勢なものだった。
不思議なことに数は3膳だった。
鉄臣君、人数に合わないとすぐに思った。
アヤメさん、竹腰さん、残りは御堂さんのだろうとしか考えなかった。
しかしアヤメさんは味見の話を自分にしている。
その疑問はすぐに解消された。
御堂さんが部屋から出ていった。
離れに残ったのは3人となった。
「それじゃぁ、いただこうかね」
「はい」
アヤメさんと竹腰さんはごく当たり前に食事を始める。
「・・・・」
鉄臣君、状況が呑み込めなかった。
そもそもバイトで昼食を作りに来ているだけで豪勢な食事を食べる理由が見当たらなかった。
もしかしたら食べた分のバイト代がもらえないかもしれない。
そうなるとバイトの意味がなくなる。
材料費だけでも何日分だろう。
そのうえ料理人の技術料が加算されたとなると半月分くらい持っていかれるかも。
悪い方向に思考が向いている。
こういう時は意外と的中するから性質が悪かった。
「かな坊、どうしたね」
アヤメさんが怪訝そうに尋ねてきた。
「苦手な料理があったのかい?」
「いえ、そういうわけじゃ、アレルギーもたぶん大丈夫です」
鉄臣君、理由を聞けなかった。
「じゃあ、早く味見を頼むさね」
間違いなく味見役だった。
鉄臣君、ここにきて疑問が別方向に向き始めた。
味見役というのは、アヤメさんと竹腰さんがいるから竹腰家の料理についてだと思える。
では、なぜ自分がすることになっているのか判らない。
・・・・
そこで閃いた。
若奥様の分が余ったんだ。
これなら納得できる。
一人納得したら急に空腹感を覚えた。
記憶の中ではクルーズ船以来、久しぶりのご馳走が目の前にある。
じっくり味わおう、いやいや、味見に集中するんだ、ジュルり。
料理はどれも美味だった。
まさに職人の技、隠し包丁や串打ち、麹につけて寝かしたりもしているのだろう。
鉄臣君、久しぶりの上げ膳に舌鼓を打って満足していた。
「で、かな坊、お前さんの評価はどうだい?」
夢心地から現実に引き戻された。
(いけないいけない、仕事だったんだ)
「えーと、旬の食材が新鮮で隠し包丁とかの技で食べやすく、何よりも献立の種類というか組み合わせが美味しいです」
鉄臣君、素直に感想を言って味見に戻ろうとした。
「ほう、云うねぇ、だったら採点は何点さね?」
「っ!えっえーと」
鉄臣君、アヤメさんの口から採点するように言われて戸惑った。
自分の味覚を採点されるんだとも思った。
正直なところ味覚には自信はない。
経済的理由で賄い付きのバイト、最近は学食でバイトしている程度でさほど味にこだわるような仕事先ではなかった。
元々自炊中心の生活になるのは当たり前で評判の店に行くようなことは新入生の時、入学記念に一回だけ行った定食屋さんしかない。
竹腰家の昼食のお膳はおそらく高級料亭レベルなのだと思える。
だた100点と言い切ってしまうのも怖かった。
そもそも一流品を知らないのわけだし、何か物足りない気がした。
・・・・
鉄臣君、気が付いた。
「95点です」
「ほー、5点足りないのは何だい」
アヤメさんはどこか嬉しそうに尋ねた。
「お姐さんのつまみになる料理が足りません!」
鉄臣君、自信を持って答えた。
「飲みすぎは良くありませんが、お姐さんがきゅーと一杯飲みたくなる料理が足りません」
「・・・・」
「・・・・」
自信満々の鉄臣君を見ていたアヤメさんと竹腰さんは沈黙していた。
さて、沈黙はどういう意味なのでしょう。




