部活動 5-6.20
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
クリスさんが抜いた真剣。
どうなりますか。
ではでは~
鉄臣君、耳が痛くなるような錯覚を覚えていた。
(気圧が変化してる?)
≪ッきぇぇぇーーーーーーーーー≫
人の声なのか、金属音なのか区別のつかない音とともに一瞬の間に二回閃光が走った。
俗にいう日本刀は、長さ1m、1kg程度の鉄の棒と変わらない。
一瞬で二回振ると考えれば、頻繁につまらないものを切ってしまう【あの人】くらいのスピードかもしれない。
とにかく目の前で起きたことが信じられなかった。
プールまで切れたんじゃないよな。
軽い冗談が頭に浮かんだ瞬間、スイカがゆっくり開くように割れていく。
正確に言うと中央が薄く輪切りにされていて、左右が外に転がるに合わせて輪切り部分がせりあがってきて、力尽きたようにペタンと左に倒れた。
驚愕の事実は隠れていた。
テーブルには傷はなく、スイカは表面の薄皮を残して切られていた。
「わーい、クリスさんの<スイカ割り>、久しぶりですぅ」
パチパチと嬉しそうに手を叩く桃園さん。
「・・コホン、お嬢さま、はしたないですよ」
照れ隠しで諫めるクリスさんは、どこか嬉しそうだった。
(それ、スイカ割りって技だよね。燕返しとかトンボ斬りとかその類だよね。世間一般のスイカ割りじゃないよね)
鉄臣君、技の凄さに驚嘆しつつも、理不尽さを感じて、心の中で叫んでいた。
そのままクリスさんと目が合ってしまった。
(三石さん、挑んでくるなら、いつでもいいですよ)
なぜか掛かって来い感の満ち溢れた視線を発射してくるクリスさん。
鉄臣君、ごく当たり前に視線を避けることに徹した。
「海風は、刃によくございませんので」
そういうともう一人のメイドさんがペットボトルから水をトポトポと刃に流しかける。
クリスさんは、刃の水気を懐紙で拭い取ると刀身をくるりと回して見事に鞘に納めた。
パチンとは鳴らさず、最後にゆっくりと鞘を送り出し刀身を収め、見事に仕事を終えた刀を労わっているように見えた。
一連の動作に澱みがなく真剣であることを忘れるほど、安心して魅せられる美しい仕草だった。
「お目汚しでございました」
クリスさんが、お辞儀をすると喪部部員をはじめ、プールデッキにいた見学者が拍手を送る。
クリスさんが照れながら、刀を袋に戻していた。
(年上だけど、かわいい)
鉄臣君、主に警備中のクールなところしか見てなかったので、ギャップ萌だった。
「鉄臣くん、見境ないのは、よろしくなくてよ」
「クリスさんは、強いから痛い目に遭いますよぉ」
「年上がいいの?」
「異邦人好きも大概にしてよね」
「僕は数年したら、あんな感じだよ」
「せんぱい、ボクがんばります」
「わたしだってガンバルもん」
鉄臣君、いきなりの集中砲火に狼狽える。
「み、みんなどうしたの?俺、なんかした?」
「「「「「「「別に」」」」」」」
なぜか、きつめの返事が揃って返ってきた。
= = = = =
日本刀は仕舞われたが、別の刃物が用意されていて、なぜかこの手の<スイカ割り>は続いた。
『堀田さん、喪部だと【これ】が普通なんですか?』
「いや、ちゃんと目隠しして叩くのもするよ」
鉄臣君、我慢できずに堀田さんに質問するとさらっと普通の答えが返ってきた。
「じゃあ、これは?」
「先輩たちも楽しんでもらわないとね」
「ああ、それもそうですね」
OGOB会の兼ねているこのイベント。
夜は花火があるとしても陽が落ちるまで海を眺めるしかない。
釣り好きの先輩方は、クルーズ船に装備されているテンダーボートで釣りに出ているのが見える。
階下デッキのシアターで映画も上映されているが、好みが分かれるので先輩方有志にお任せしている。
「いやー、助かったよ。三石君の提案がなかったら、ここまで思いつかなかったと思うよ」
「【これ】は、思いつきでどうにかなるものじゃないですよ。あの<スイカ割り>なんて、できる人がいるのがびっくりです」
「桃園君に感謝だな」
話をする二人の前では、メイドさんが大型のナイフ2丁で器用にサクサクと小玉のスイカの皮むきをしている。
これも技で、どういうわけか食べるところは宙にあり、皮だけが削ぎ落とされている感じだった。
見る見るうちに丸いスイカの実(?)ができた。
最後に種の無い部分だけを櫛切りにして不思議な種なしスイカが完成した。
種の部分は、いくつかの果物と一緒にジュースにされて配られた。
このメイドさんも2丁ナイフの妙技に拍手を送られ、照れていた。
(かわいい)
このメイドさんもヘリから降りてきてからずっと無表情だったので、こっちもギャップ萌。
メイドさんは、銀に近いアッシュブロンドで浅黒い肌、年が近いという理由で桃園さんの買い物にお供をするらしい。
水に入るのが前提なのだろうか、髪をアップにしてまとめていた。
「鉄臣くん、後で反省会よ」
「サフラさん、男嫌いだから痛い目に遭いますよぉ」
「わたしも日焼けしようかな?」
「異邦人好きももう病気ね」
「僕は金髪なんだけど」
「せんぱい、ボク髪伸ばします」
「もう、どうしよう」
声が聞こえたのかサフラさんという名前のメイドさんが目を向ける。
鉄臣君、視界で動くモノに目を向けると偶然目が合った。
(うわっ【こっち見るなゴミが】【殺すぞ】って視線か来る)
強直したが、その必要はなかった。
(正面からなら負けませんよ)
穏やかな視線だった。
(どうしたの、メイドさんたち?)
鉄臣君は知らなかった。
スタッフに成り済まし黒服の一人【ブラボー4】を気絶させた男は、プロであり、手際の良さは疑う余地はない。
そのプロから反射的に逃げきった鉄臣君をすでに素人とは見ていなかった。
= = = = =
ようやく普通のスイカ割りが始まった。
プールサイドにブルーシートを敷いてスイカを置いた。
棒は、最初警棒を使うつもりだったらしいが、桃園さんが大反対した。
「ですが、お嬢さま、ほかに良いものが見あたりませんので」
「ダメダメ、ゼーッタイ、ダメ。ちゃんと洗ってても、そんなの、みんなに食べさせられないのぉ」
「洗浄は、医療用と同じにしておりますし」
「わたしはともかく、みんなにはダメです。これ以上は口ごたえとして扱います」
桃園さんの口調が事務的になる。
「ハッ。浅慮をお許しください」
クリスさんも業務口調に変わった。
いざとなって棒がない。
手すりを外せないか、手打ちそばの棒を借りようか、テニスコートの貸しラケットはどうか、どれも借りるしかないし、使うのに憚られるものしか思い浮かばなかった。
鉄臣君、屋台村に何かないか探しに行って、新聞紙とビニールテープを分けてもらってきた。
新聞紙を丸めてビニールテープをぐるぐる巻きにし、棒を作った。
あまり衛生的ではないと思ったが、桃園さんからOKが出た。
鉄臣君、警棒じゃ何がダメだったのか、少し気になった。
少なくとも衛生的な話じゃなさそうだ。
いかがでしたか?
ちょっとだけメイドさんにスポットを当ててみました。
次話をお待ちください。




