部活動 5-6.5
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
いよいよ喪部の夏イベントです。
ではでは~
鉄臣君、身悶えするのを必死で我慢していた。
必殺の桃園くすぐりは強烈だった。
爪を立てたり指のはらで撫でたり、強弱を繰り返すため、慣れない。
くすぐりに弱かったら、数秒で変な悲鳴をあげていただろう。
鉄臣君は耐えた。
顔が真っ赤になり、表情は硬い。
一切の余裕が無くなっていた。
ふと、攻撃が止んだ。
『もう、みついし君てば、我慢屋さん』
鉄臣君、その声に自然と顔が向いた。
悪戯っぽく、それでいて優しい笑顔がそこにあった。
見惚れてしまった。
プクッと愛らしい唇は、今の言葉をささやいたのだろう。
このまま、顔を近づけるとキスができそうな錯覚がした。
突然、現実に引き戻される。
きっかけは声が頭の上から降り注いだ。
「先輩!お泊り初めてですね。楽しみです!」
「お、ああ、楽しみだね。夜は、堀田さんがいるからトランプだよ。ボクが負けるんだけど」
「ねえねえ、ボク先輩のこともっと知りたいです。いろいろ教えてくださいね」
「ええー、俺のことなんか、何もおもしろいこととかないよ」
「いいんです。ボクが知りたいんですから!」
フンスフンスと鼻息の荒い橘ひよりだった。
その隣でいろいろ、いろいろ知りたいとつぶやき続ける丸美音奈がいた。
腹部に痛みが走る。
桃園さんの指が腹にねじ込まれて痛かった。
= = = = =
鉄臣君、日ごろの疲れで睡魔の大群に襲われ撃沈。
桃園さんが席を移って、鉄臣君は横に寝かされた。
「三石君はすごいなぁ。僕も彼を見習わないといけないと思うよ」
「だけど、本人は自覚ないのよね」
「そうね。わたしも会長を頑張らないと」
生徒会メンバーは、くうくうと寝息を立てる鉄臣君を起こさないように他の部員たちのところに席を移した。
= = = = =
まだ9時過ぎ、鉄臣君、上を見上げて、バランスを崩してこけた。
熟睡しているところを起こされ、バスを降りると海の匂いと重油の匂いが混じった港だった。
船に乗るのは聞いていたが、目の前に見渡せない大きさの船があった。
総トン数約50,000トン、全長約250mのクルーズ船だった。
「えーと、ひょったひゃん」
「うーん、僕のこと呼んだかな?」
「こ、これ何ですか?」
「あー、今回の夏イベント会場だよ」
「あー、ちょ、えーーーーーーー!」
「びっくりしたかい。これからドックで改装作業に取り掛かるんだけど、OBのコネで喪部に貸してくれるんだよ」
「え、でも、めちゃくちゃ高いんじゃ?」
「あー、OGOB会のおかげでね、格安だよ。什器とか寝具類は、自前だからかな」
「いやいや、あっちでガンガン運び込んでるじゃないですか」
鉄臣君、船腹にぽっかり空いた搬入口へ、フォークリフトが次々に荷物をカートごと運び込むのを指さした。
「まあ、個人の持ちものだと思うよ。あと夏だしね。屋台が出るそうだ」
「屋台?船の上で?この豪華客船に屋台!」
「ああ、聞いた話だと、厨房は撤去されてるらしいから、基本、花見会と同じ感じかな」
「あれ、立食パーティだったですよね?」
「だから今回も出張料理人が何人か来ていると思うよ」
「・・・花見会。もしかして、発案者は」
「うん、三石君だよ」
「ボクの発案じゃねぇーーーー」
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乗船用のタラップを渡って中に入るとホールになっていて、上にのびるエスカレーターがあった。
「うわー、ホンモノを初めて見た」
携帯を取り出し写真を撮る。
「貧乏だと一生チャンスがないですから、好きにバカにしてください」
鉄臣君、言い捨てると構わず撮影して回った。
『別に、そんな言い方しなくても』
弥刀さんがちょっと悲しそうにつぶやいた。
鉄臣君の言葉が聞こえたメンバーは、揃って少し落ち込んだ。
すでに自力で生きている鉄臣君には、自分たちは生活水準の違う階層と思えるのだろう。
彼は夏休みにバイトの掛け持ちをしている。
何かを買うためでなく、勉学と生活のため。
喪部部員は、概ね聡明で冷静に考えることができる若者たちだ。
自分たちは、親のおかげで生活できている。
将来、跡を継いだり、才能を伸ばして成功するかもしれないが、今は鉄臣君のように自力で生きていない。
今、自分のできることとその報酬を計算したら、無理なのもすぐにわかる。
学生気分でいられることが、どれほどありがたいことか思い知らされる。
「さ、みんな、落ち込まない、落ち込まない。喪部部員として夏イベントに来たんだし、三石君の友人であることは、事実だよ」
「そうね、三石君とこのまま終わるわけにはいけないもんね」
リア充カップルは、自信満々、ドヤ顔だった。
鉄臣君、本人の知らない内に、ここでもポジションが決まりつつあった。
= = = = =
「三石くーん。慣れないうちに歩き回ると迷うよー。上のデッキに上がるからー」
頃合いを見て、堀田さんが声をかける。
「はーい」
鉄臣君、みんなの待つホールに戻ってきた。
「すみませんでした。でも、船の中だから、別に置いて行っても、よかったんじゃないですか?」
「上に上がったら、部屋割り教えないといけないからね」
「ああ、すいません。待たせちゃいましたね。みなさん、申し訳ありません」
鉄臣君、部員に向かって頭を下げた。
「あ、お曾祖母様、お祖母ちゃん、こっちこっち」
(アヤメさん?お祖母ちゃん?)
鉄臣君、竹腰さんの呼ぶ声に下げたままの頭の中で、新キャラ登場の予感で嫌な汗が出た。
「真綾、お待たせ」
「真綾ちゃん、久しぶりね」
いかがでしたか?
海=クルーズ船というオチでした。
次話をお待ちください。




