部活動 5-6.1
ここまでお読みいただいてありがとうございます。
鉄臣君、桃園さんへの誤解が解けて、晴れて友達になりました。
ではでは~
桃園さんは友達。
鉄臣君の心は、少し安らぐ。
憧れないわけじゃないが、わかりきった結末で傷つくことは避けている。
すでに相手がいてもおかしくない。
生徒会や喪部のメンバーには、特別な感情を抱かないように自制している。
自制している精神が脆くも破壊されることは、たびたび起きている。
自分の心の弱さが情けない。
それほどに彼女たちは、輝いている。
= = = = =
鉄臣君、今、学園のグラウンドにある高鉄棒で懸垂をしている。
入学早々始めて、今まで続けているので、日課と言えるだろう。
桃園さん効果で、いつもより身体が軽く感じる。
学費と生活費を稼ぐためにバイトをしないといけないので、クラブ活動はできないし、夜中のジョギングは貴重な少ない睡眠時間削ることになる。
それでも体力づくりはしておきたい。
もやしっ子はいやだった。
それで始めた懸垂だった。
休み時間でも手軽にできるところがいい。
自室では、逆立ちをしているから、上半身、特に肩周りはそこそこ筋肉がついている。
スクワットも500回しているが、脚の方は細いままなのでちょっとがっかり。
最初は、3回が精いっぱいだった。
毎日、文字通り雨の日も風の日も続けた。
今は、最多連続20回。
ぶら下がる状態から鉄棒の上に顎を持ってきて、またぶら下がる。
このやり方だと体操部でも15回以上できる生徒は少なくなる。
ぶら下がって腕を伸ばしきった状態からだと純粋に筋力が必要なようだ。
鉄臣君、試しに伸ばしきらないと何回できるか試してみたら、余裕で35回できた。
最終関門にロープのぼりがある某パワー系チャレンジ番組を見て思った。
あそこまではできないまでも筋力はある方がいい。
鉄臣君は、ストイックな面があった。
15分かけて、トータル100回程度こなしたところで聞き覚えのある声がした。
「相変わらずね」
声の主は、会長久遠寺紫苑だった。
黒のTシャツにクラッシュドジーンズと初めて見るカジュアルさで、イメージとかけ離れているが、似合っていた。
「おはようございます」
「おはよう。鉄臣くん、すごいね」
「いえ、これくらいしかできませんし、何も難しくないですし」
「そうかなぁ。わたし、やってみていい?」
「はい、どうぞ」
久遠寺さんが鉄棒の下に立つ。
弾みをつけて、ぴょんと飛びついた。
懸垂のぶら下がり体制。
ぶら下がった状態だとTシャツがせりあがり、おヘソが見えた。
久遠寺さんは、古武道に興味が有りをいくつか取り組んでいた。
鉄臣君、引き締まった白い肌におヘソが見えたとき、なぜかドキッとした。
「うーん」
久遠寺さんが頑張って懸垂をする。
一回目からあまり余裕が無さそうだ。
見た目通り、かろうじて3回だけ。
「もう。あともう1回はしたかったのに」
「おれも最初は3回でしたから、大したもんです」
慣れない懸垂で痛む手のひらを気にしていた。
「そう?」
「懸垂は、単純に腕の筋力だけですから、Jリーグの選手でも何回もできないと思いますよ」
「クスッ、変な説得ね」
「会長はどうしてココに?」
「生徒会室の資料整理で涼しい内に来たんだけど、不審者を見つけたのよ」
「え?大丈夫なんですか?」
「どうかな、その不審者は、本気を出したら、わたしは敵わないのよね」
「ちょ、ちょっと、久遠寺さん、その不審者を知っているんですか?だったら」
「大丈夫よ。不審者は、懸垂をしたかっただけみたい」
「・・・、もう、そりゃ、俺は貧乏学生だけど、不審者扱いは止めてください。否定しきれないのでヘコみます」
「ごめんなさい。その・・・冗談のつもりだったんだけど」
「すみません、会長たちから言われると、冗談に聞こえなくて」
「・・・わたしたち、いじわる?」
「いえいえ、そうじゃなくて、ボクが目障りなくらい低レベルなんだと思い知らされてる感じです」
「な、・・・鉄臣くん」
「冗談ですよ。さすがにそこまでひどい扱いじゃないと思い込もうとしていますから」
「・・・あんまり変わらないじゃない」
「正直いうと未だにボクが喪部なのが間違いだと思ってます。なんの役にも立っていませんからね」
『いてくれるだけのいいのよ』
「ふぇ?なんですか?」
「夏イベントたのしみね」
「はい、久遠寺さんの水着を楽しみにしています」
鉄臣君、少しだけ久遠寺さんへ仕返しにセクハラをしてみた。
「ちょ、・・・ま、まあ、楽しみにしてて」
鉄臣君のセクハラは虚しく空振りした。
= = = = =
それから、夏イベントまで、平穏な日々が続いた。
鉄臣君、竹腰家で弄られ、桃園家で夕飯に何回か呼ばれ、楠木さんちの模様替えは延期、延期で夕飯を食べるだけだった。
橘家では、橘ひよりがモデルでオートクチュールの仮縫いを見て感想を求められ、丸美家でカラオケに誘われる。
ほぼ自分の時間がないが、気持ちのいい忙しさがなぜか嬉しかった
母が家計の管理ができないので、切迫している家計のため実家に帰ることは、考えの外に置いた。
実家の光熱費は自分が帰ると確実に増える。
寮に居れば、その心配はない。
とにかく父の負担を増やしたくない。
宿題は、7月中に終わらせていたので、憂いはなかった。
= = = = =
夏イベント当日の早朝、学園の敷地内の駐車場。
夏イベントの集合場所には、喪部部員が集まって来ていた。
部員同士、談笑している。
鉄臣君、木に隠れるようにそれを遠目に眺めていた。
モブ担当には、別世界がそこにあり、足を踏み入れてはいけないと思えた。
(ここから眺めているくらいの距離感が本当の居場所なんだけどな)
セダンが駐車場に現れた。
部員からあまり離れていないところに停車する。
堀田さんと弥刀さんが降りてきた。
堀田さんたちが部員たちと挨拶を交わす。
「やっぱりオーラが違うよな」
「あら、今日も不審者を見かけてしまったわ」
鉄臣君、後ろから聞き慣れた声がした。
いかがでしたか?
懸垂、ぶら下がるだけでも握力が必要です。
体重と上半身の筋力のバランスがモノを言います。
いよいよ夏合宿です。
次話をお待ちください。




