部活動 0
「おはよう!」
「おはよう」
「ねぇ、ねぇ。入部テストどう?」
「うーん、どうかなぁ?頑張って20位以内になったんだけどなあ」
「あたしは地区代表に選ばれたよ」
「へー、じゃあ、いよいよかな?」
「わかんないよー、先輩はインターハイ出場でも入れなかったしぃ」
「そうだよねー。今年は何人入部できるかなぁ」
登校する生徒たちの間では【入部】の話題で持ち切りだった。
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ここ【私立水平学園】はある特徴で有名だった。
授業料が安い。
私立としては質素であっても<学ぶ機会を多くの子供に>と創立当時からの理念に基づいている。
学園運営費は、大人になって成功した多くの卒業生の寄付によって大部分が賄われている。
学園寮が併設され越境入学している学生も多い。
入試レベルはさほど高くないが、一定レベルに達していないと卒業できない。
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今日は新年度の始業式。
新学年(留年)として学生たちは新学期を迎えていた。
講堂に学生、教職員、来賓が着席していた。
始業式が始まり、校長先生の訓示に始まり滞りなく式が進む。
そして徐々に生徒たちがそわそわし始める。
来賓の元総理大臣の挨拶が終わる。
「最後に生徒会長から発表です」
「みなさんおはようございます。生徒会長の久遠寺紫苑です。水平学園の生徒としてふさわしい学園生活を送りましょう。さて、この場をお借りしてみなさんにお伝えいたします。入部テストは一週間後に行います。以上!」
講堂いる一部の生徒たちに緊張が走る。
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始業式は終わり、生徒たちは各々の教室に向かう。
この教室は2年S組。
新しいクラスで期待と不安を抱える生徒たちは、皆制服を着用しているが、その制服はバラバラだ。
校則は、制服着用とあるが指定制服がない。
おおよそ制服と呼ばれそうなモノならナース服でも校則違反にならない。
悪い意味で目立ったりするのを避けるため、一人を除いて無難なブレザー系を着ている。
一人の男子学生は高めの詰襟でショートコートのように長く太めのズボンの学生服、学ランを着用していた。
既製の学生服とは明らかに違うが、彼は姿勢が良いため違和感がなく似合っていた。
周りも特に意識しないためか、存在感がなく空気だった。
担任教師が教室に入ってきて自己紹介をする。
担任が、続けて生徒達に自己紹介をさせる。
まずは女子、そして男子。
そして学ラン君が自己紹介をする。
「三石(みついし) 鉄臣(かなみ)です、よろしくお願いします」
普通に自己紹介をして着席した。
HRも終わり下校となった。
鉄臣君が教室に残っていた。
当番ではないが、教室を箒で掃いて掃除をしていた。
「一年間、よろしく頼む」
独り言を言って、掃き掃除を終えた。
「−−−君、生徒会室まで来てください。繰り返します、2年S組三石君生徒会室まで来てください」
(え?校内放送で呼ばれた?なんで生徒会?)
全く身に覚えのない呼び出し。
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鉄臣君、特に用事もないので、呼ばれた通り生徒会室に向かった。
帰宅部の彼にとっては、授業で訪れる以外の場所は縁遠く、その場所をはっきりと覚えていなかった。
途中、美術室、社会科準備室、放送室と学園ダンジョンのプチ冒険をして、ようやく生徒会室にたどり着いた。
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生徒会室の戸をノックする。
「どうぞ」
中から返事があった。
恐る恐る鉄臣君が中に入ると右に眼鏡男子、左にメガネっ娘が立っていて、奥の会長席に生徒会長久遠寺さんが座っていた。
生徒会、そのOGOBは政財界をはじめ国内外の要人や社交界につながり、少なからず日本に影響力を持っている。
生徒会役員は、この学園における頂点、超エリートたち。
鉄臣君、今、学園の超エリートたちを目の前にして、一般人である彼は、居心地の悪さを感じていた。
彼は寮に入りバイトで学費もろもろを稼いで学校に通っている苦学生。
彼にとって超エリートは別世界の住人。
遠くから眺めるもので、近寄ってはいけない気がしている。
学生には違いないので校内ですれ違うことはあっても初対面。
鉄臣君は、生徒会に呼ばれたことを改めていろいろ考えてみたが、やはり心当たりがない。
完璧美少女生徒会長 久遠寺紫苑がおもむろに立ち上がり口を開いた。
「三石君、生徒会が入部を許可します」
「え?え?なんですか?」
鉄臣君、意味が解らなかった。
眼鏡男子生徒会書記長 堀田正輝が右手を差し出し口を開く。
「おめでとう。そして、ようこそ」
握手をし、肩をたたく。
メガネっ娘生徒会会計長 弥刀要がにっこりと微笑む。
「よろしくね、三石君」
生徒会長 久遠寺紫苑が真剣な面持ちで思い切って言い放つ。
「三石君、今日からあなたは喪部部員です!」
鉄臣君、事態が呑み込めず呆然としていたが、言葉の意味をようやく理解して口をパクパクさせた。
「えっ、え−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−!!!」
生徒会室の奥にある扉から新聞部数人入ってきた。
三石鉄臣は、書記長と会計長が両脇を固め、その間で生徒会長と握手を交わしている写真を撮られ、喪部部員としての抱負を尋ねられた。
「はぇ?、えっと頑張ります?」
なぜ取材?を受けているのか理解できない。
パンピーの自分が喪部入り?何かがおかしい。
新聞部は役員たちへの取材をしている。
「彼を喪部に勧誘したきっかけを教えてください」
「ノーコメントです」
「彼の喪部への参加資格は何ですか?」
「ノーコメントです」
「OGOBの推薦か何かですか?」
「それはありません」
鉄臣君の知りたい質問には、書記長がすべて「ノーコメント」と答えている。
「最後に一言お願いします」
「わたしから言いましょう」
ずいと会長が前に出る。
「彼の働きに私は期待しています!」
「「「おーーーーーー!」」」
会長の麗しくも凛々しい表情に居合わせた皆がどよめいた。
(何?この貧乏な一般人に何を期待するの?この羞恥プレイは何?いじめ?俺が何かした?)
生徒会室から新聞部が引き揚げていく。
部屋はまた3人とひとりになった。
「あのー、どうしてボ俺がいきなり喪部部員なんですか?」
鉄臣君の質問に会長が目を逸らして俯く。
(うおっ、やっぱりいじめか何かなんだ)
「それは僕から答えよう。君がモブキャラだからさ」
知性あふれる笑顔で書記長イケメン堀田が答える。
鉄臣君、その言葉が堪えた。顔が思わずひきつる。
(判ってるけど、正面から言われるとへこむわ!)
「誤解があるようだね。喪部の部活動は何か知っているかい?」
「・・・エリートの集まりか何かとしか知りません」
「喪部は、特別に秀でたところがあって注目を浴びてしまうのが入部資格だ。そういう学生は注目を浴びて、過剰に期待されるため、高校生活は灰色になることが多い。それを救済するための部活動なんだよ」
「はあ。で、何でボクが?モブキャラ扱いはわかりますけど」
「俺キャラ設定忘れたね?」
「!!!」
「いやいや、構わないよ。話を戻そう。君の発想を喪部で生かして欲しい」
「発想?」
「そう、発想。部活動すなわち僕たち喪部部員の学生生活を有意義にするため協力して欲しい」
そういうと書記長は鉄臣君の手を力強く握り、目力いっぱいに鉄臣君を見る。
漢と見込んで頼むといわんばかりの表情にパンピーは思わず頷いていた。
会計長はハンカチで鼻を押さえ、生徒会長は安堵していた。
「で、でも、発想って何をすれば?」
「なーに、簡単なことさ。君が学校生活でしてみたいことを教えてくれたらいい」
「ひぇ?」
(うわっ、間抜けな声が出ちゃったぁ)
「僕たちも同世代の学生なんだよ。だったら、世間一般と同様に過ごしたいじゃないか」
「いやいやいやいや、超エリートのみなさんなら、それこそボ俺たちのしたいこと程度、いくらでもできるじゃないですか」
「たとえば?」
「デートとか、コンパとか?」
「ほう、異性に興味があるんだね」
「!!!///、そりゃそうですよ。ボ俺なんか物心ついてから彼女どころか女子の幼馴染みだっていないんですから」
イケメン正輝が少し視線を逸らしてまた戻す。
「じゃあ、そういうイベントを提案してくれたらいい」
「へ?」
「簡単じゃないか、彼女が欲しいなら、まず出会いだよ」
「どうするんです?」
「仕方ないなぁ、ヒントをもらったし、生徒会主催でダンスパーティーなんかどうだい?」
「あのー、俺ダンスしたことないですけど」
「!!!!」
(やっぱり超エリートは別世界の住人なんだ)