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極道脅迫!野球部員の逆襲(大嘘)

 俺の名前は火野塚忠人ひのずかただと。野球部に所属する高校二年生だ。得意技は打者のタイミングを乱すイーファスボールだ。そんな俺は今朝目覚まし時計が故障したばっかりに全速力で自転車を漕ぎながら登校の真っ最中である。

「うー、遅刻遅刻ぅ!」

 運動部で鍛え上げた健脚を以て全力でペダルをこぐ俺。しかし、焦りもむなしく俺の駆る自転車は運悪く信号に引っかかってしまった。

「あー、ついてないなあ」

 ペダルから足を離してその場に停止する。そんな時、俺の脳裏に名案が浮かぶ。

「あ、そうだ(唐突)近道しよう!」

 俺は再びペダルに足をかけ、目の前の信号を素通りして別の方向を目指す。

 いつもは使わない道だが、背に腹は代えられない。俺の乗る自転車は、車一台分通れるか怪しい道幅の道路に入っていく。これは人づてに聞いた話なのだが、ここは道沿いに893の事務所があってしばしば黒塗りの高級車が行き来しているらしい。俺としてはそんな話は眉唾だと思うのだが、それでもいざその道を通るとなると些かの緊張を禁じ得ない。

「おうてめえらなにやってんだ!」

 俺がその道に入ってから数秒後、突如として近くから野太い男の怒声が聞こえてきた。噂のことが頭の片隅にあった俺はその声に驚いて、早く通り抜けてしまおうとペダルをこぐ足を速める。

「おい、そこを動くんじゃねえぞ!」

 声は背後から響いてきていた。思わず振り返るのだが、後ろには誰もいない。ホッと安堵の息を吐きながら前を向いたその時である。

 俺の前方には、いつの間にか黒塗りの高級車が道を塞ぐように存在していた。

「アッー!!」

 ブレーキをかけることも、軌道をそらすこともできない。俺は自転車の車体ごとその闇を思わせる漆黒の鉄塊に追突した。視界を覆う黒に意識が飲み込まれ、俺の記憶はそこで中断する。


「ん、こ↑こ↓は……」

 気が付くと、俺は知らない場所にいた。目の前には薄汚れた天井がある。その中央には電球があり、それだけが辛うじて薄暗い部屋の中を照らしていた。

 俺は未だぼやける記憶の焦点を意識を失う直前に合わせる。たしか俺は急いで学校に向かっていたはずだった。それから、どうしたんだっけ?

「おう、目が覚めたかよ」

 天井を見上げる俺の視界に知らない顔が飛び込んでくる。時代遅れのパンチパーマに、片目の瞼には何でつけたのかわからない大きな切り傷のある強面の男。一目で堅気ではないことが分かった。

「お前さ、自分が何したかわかってるよな」

 高圧的な男の物言いに、俺は本能的に自らの危機を悟った。見れば俺の身体は安物のベッドのようなものの上に横たえられており、両手両足はその四隅の柱に縛り付けられていた。

 そこで俺の脳裏によみがえる記憶。確か俺は意識を失う直前に、車に衝突してしまったのだった。

「違うんです!」

 反射的に否定の言葉を上げるが、自分でも何も違わないということは分かっている。

「何が違うっていうんだよ誰が大声出していいっつったオラァ!(大声)」

 そう、俺は車に衝突してしまったんだ。しかも、おそらくは893の車に。いままで耳にしてきた数々の噂が脳裏に浮かんでくる。若者を「30分で5万稼げるバイト」と騙して違法な売春業者に放り込んだ。郵便物を破損させた配達員の尻穴を破損させた。来客に出したアイスティーの中に睡眠薬を投入した。

 正直893と何の関係があるのかと言わざるを得ないものばかりだったが、そんなことは今の俺には些末な問題だ。とにかく、本格的に怒りを買う前に先手を打って全力謝罪だ。

「すいません許してください!何でもしますから!」

「ああん!? 何でもするだあ!? そんなんで許されると思ってんのか! 人間の屑がこの野郎二度とこの世界にいられないようにしてやる」

 俺の必死の懇願も893の心には響かない。俺が本格的に死を覚悟したその時だ。

「待ちなさい」

 突如として地下室に響き渡る凛とした声。その声が聞こえた途端、パーマの男は身を硬くし、次の瞬間ベッドから距離を取るように飛びすさる。

 恐怖におののき閉じかけた瞼をゆっくりと開く。部屋の隅にある階段。その頂点にあるドアがいつの間にか開いている。そして、そこには新たな人影があった。

「今何でもするって言ったよね?」

 現れたのは、およそ薄汚い部屋に似つかわしくない可憐な少女だった。

「お嬢! 帰ってらしたんですか!?」

 先ほどまでの粗暴さが嘘のようにパーマの男がかしこまる。擬音をつけるなら「かしこまりっ!」と言ったところだろうか。

「ヤス、その男にはどうやら利用価値があります。拘束を解いて私の部屋に連れてくるように」

「で、ですがお嬢! こいつはウチのクルルァを……! 落とし前はどうつけるんですかい!?」

「ええと、こういう時はどう言うんでしたっけ? ええと、そんなこと――」

「そんなことしなくていいから(良心)」

 少女が困っていたようだったので、つい俺は助け舟を出してしまう。途端にパーマの男――ヤスが怒りの形相でこちらを振り向く。俺は再び身の危険を感じるが、少女が睨みを利かせるとヤスは不服そうに俯いた。

「やはり見込みがありそうですね。益々気に入りました。ヤス、その男は今から私の客人です。文句は受け付けません」

 少女の有無を言わせぬ口調にヤスは反抗する気を完全に失ってしまったらしく、ただ「へい」とだけ呟くと不承不承と言う感じで俺の手足の拘束を解き始めた。まず足の拘束を解き、次に腕の拘束を解く際に突然身を寄せてきたかと思うと、俺の耳元で囁く。

「いいか坊主、お嬢が何を考えてらっしゃるかは知らねえが、今日から夜道には気を付けな……」

 俺の耳元から顔を離す際、彼の眼尻に涙が光っていたのが見えた気がする。もしかしたら、あのクルルァは彼のものだったのかもしれない。そう思うと少しだけ申し訳ない気持ちになった(小学生並の感想)。

 拘束を解かれた俺はヤスに伴われて部屋を出る。階段があったことから何となく予想はしていたが、先ほど俺がいた部屋は地下室だったらしい。階段の上の扉をくぐると、そこは薄汚い地下室からは想像がつかないような小奇麗な和風建築だった。俺たちは長い板張りの廊下を歩く。そして、その途中にある障子で仕切られた部屋の前で突然俺の前を歩いていたヤスが立ち止まった。

「こ↑こ↓だ」

 怪しいイントネーションでヤスが目の前の部屋を指し示す。俺にここに入れと言っているのだろうか。いや、しかし――。

 今一つ状況が飲み込めない俺がまごついていると、障子の向こう側から声がする。

「入りなs……コホン、入って、どうぞ」

 それは先ほどの少女の声だった。何故言い直したのか。そして何故俺を招きいれようとしているのか皆目見当がつかなかったが、ともかく今は従うしかない。先ほど俺が拘束を解かれたのも、どうも少女の力によるもののようだ。だとしたら、俺は彼女の真意を知る必要がある。893に借りを作ったまま帰れるほど世の中甘くない。

 俺は意を決して目の前の障子を引き開けた。

 





 

 初の連載小説です。見とけよ見とけよ~。

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