1章 それは突然に
1(きっかけは突然に)
それは 7月はじめの 初夏のことである。
高遠真紀は 僕にこう言ったのだった。
「あなたと だったら 付き合っても
いいわよ。」
僕こと 空野陽は いきなりのことに
あぜんと してしまった。
しかし そう言われることに 心当たりが
ない訳じゃ なかったのだが。
それは たまたま高遠真紀が 昼休みに
他の学校の生徒に ナンパみたいな
ことを されていて 高遠真紀が
「イヤよ。」とか
「誰が あなたなんかと。」と
非常に嫌がっていたので 僕は
つい思いがけない 行動に出てしまっていた。
そう 僕はなぜか 夢中になって
本心では 助ける気なんて 無かったが
「やめろー」と言って しまっていた。
そう言われた 他校の生徒は
「なんだぁ お前は?」と
ケンカ腰で 言ってきた。
その瞬間 僕は 小さい頃に 護身術を
習っていたこともあって
「クソー」と言いながら
思いっきり タックルしたら
相手は 見事に 尻もちをついたのだった。
そうしていたら 野次馬たちが
集まって来て
「高遠さん 大丈夫?」とか
「何?この人たち。大丈夫、高遠さん。」と
高遠真紀だけを 心配する声が 男子
女子 共に そう言って集まって来たので
尻もちを ついていた生徒は
「おぼえてろー。」と
あまりにも単純な 言葉を言って
走って 逃げて行ったのだった。
僕は 助かったと 思ったが
よくよく考えてから しまったと思った。
助ける気など さらさら無かったが
どっちにしろ 助けるかたちに なって
しまっていたのである。
あまりに そこにいるのが 居心地が
悪かったので とっさに その場を
離れようとしていた僕に あの高遠真紀が
ありがとうと お礼を言ったのである。
「いや そんなつもりはなかった。」
と言うのが 精一杯で もう一度
その場を 離れようとしたら
また 高遠真紀が こう付け加えて
言ってきたのである。
「後で きちんと お礼言いたいから
放課後に 玄関で 待ってて。」と
そう言われて 僕は
「時間があれば。」と言って
そそくさと その場をやっと
離れることが 出来たのである。