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 第二機甲歩兵小隊と共に、森脇と上田はステーションに潜入する事となった。

「お前だけに貧乏クジを引かせるわけにはいかないからな」

と言った上司に、森脇は素直に感謝した。

 森脇と上田は、第二機甲歩兵小隊の隊員達と食堂で食事をした。

 第二機甲歩兵小隊一一名。内、人間は五名。

 小隊長である梶本紗由里少尉。

 副隊長を務める佐川康平軍曹。長身で鍛えられた体格は威圧感十分だが、森脇や上田に対しては常に笑みを浮かべてくれる。

 二等兵の浜田駿。二〇代半ばの彼は、佐川と比べても遜色ないほどの長身で、いかにも軍人といった固い表情をしているが、話してみれば冗談ばかり言って周囲に笑いを振りまく。

 一方、田中誠二等兵は一七〇センチほどの身長で、長身揃いの小隊にあって、それだけで目立つ存在だった。格闘戦の大会で優勝したこともあると聞いて、森脇は体格ばかりで優劣は決まらないのだと驚いたが、田中に言わせると体格のハンデは大きいらしい。

 そして佐々木法子二等兵。彼女も梶本少尉ほどではないが背が高い。プライベートではモデルと間違われないかと上田がからかい、顔を赤面して照れていたのが可愛かった。そんな彼女だが、様々なシャトルの免許を持っているそうで、小隊のパイロットを担当している。

「我々はステーションの底辺部にある、手動ハッチから潜入する。ハッチから入ってすぐの場所は、真空の部屋。そこから調整スペースを抜けると通路。これは真っ直ぐに球体の中心部にある機関室に通じている。機関室といっても、発電装置や通風装置、人工重力装置などが集中しているから広い空間だ」

 梶本少尉が食事をしながら細かな作戦を隊員達に説明する。口調がいかにも上官といったものになった。

「ここからは通常の通路を進めば、管制室へ行ける。管制室は球体の天頂部分に位置する第五階層にある。第一小隊は管制室に向かうよう指示を受けている。ツクヨミもそこにある。だから我々も管制室に向かう」

 梶本は説明を終え、合成味噌汁の入った椀に手を伸ばす。

「作戦行動中、研究員達を発見した場合はどうするのですか?」

 口を動かしながら田中が梶本に尋ねる。口元を抑えた少尉に変わって、佐川が口を開いた。

「その場所で待機してもらう。ステーションをスリープ状態から復旧させなければ巡航艦に彼らを移す事も出来ない。よって輸送シャトルが入港ゲートに入るまで、研究員達はその場で待機だ」

「軽装備という事は、バイオスーツと軽火器、ナパーム弾程度ですが、内部でテロ等が発生したという可能性はないのですか?」

 浜田が合成サンマに、これまた合成大根で作られた大根おろしを乗せながら佐川に質問する。

「フル装備で入って、中で暴れたらステーションがもたない。仮にテロ犯がいたとして、アンドロイドを中心に戦えばまず鎮圧できるはずだ。それに、第一小隊もいる。俺達がどれだけ訓練していると思ってんだ。自信を持て」

「お二人には小隊の真ん中を歩いて頂いて、仮に戦闘が発生した場合は、すぐさま伏せて頂きたいと思います」

 梶本少尉に話しかけられ、慌てて身体の向きを変えた森脇はおずおずと手を挙げた。

「あの……、私達はその、武器を持たなくてもいいんでしょうか?」

 彼女は優しい口調で答える。

「お二人が銃器を持ったら、私達が危ないですわ」

 隊員達が忍び笑いを漏らし、二人は赤面して恐縮したのだった。

 三時間後に出発となったので、リフレッシュマシーンで休むことになった。この機械はカプセルの中で睡眠を取ることで、人間の疲労回復を促進させる機械だ。二時間も眠れば、実際には六時間程度の睡眠を得られた事になるそうだった。機械の横にアリムラ宇宙開発の企業ロゴが見える。

 宇宙開発から薬品開発まで幅広く手掛ける超巨大企業グループ、アリムラグループに属する企業のひとつだと森脇は思い出す。

 そういえば、第二宇宙ステーションの建造、そして内部での研究開発協力もアリムラだったかなと思いだす。

「上田さんは、見学とかで休んでいなかったですからね。巡航艦の中は帰ってきてからでも見られますから、おとなしく寝てください」

 梶本にそう言われ、素直にカプセルに入った上司を見ながら、森脇はその隣のカプセルに入った。酔い止め薬を飲んで、カプセルを閉める。

 夢を見る間もないとは、この事だった。


「アンドロイドは強襲揚陸艦から回してもらった最新型ばかりだから、大船に乗ったつもりでいてください」

 バイオスーツを着込む森脇に、浜田二等兵が笑顔を向けてくる。彼の話によると、最新の強襲揚陸艦は大気圏外から惑星の地表に向かって、『シューティングスター』と呼ばれる機甲歩兵を満載したミサイルを撃ち込むらしい。ミサイルは地表に突き刺さると、搭乗していた機甲歩兵を地上へと吐き出す。これが現代の揚陸戦だそうだ。揚陸戦というより降下戦だと森脇は感じた。

「当然、人間だと不可能だから、アンドロイドがミサイルに積み込まれるんですけどね。その中でも最新鋭のタイプが彼らですよ」

 バイオスーツを着込む人間達を待つアンドロイド達。六体の彼らは人間の命令を待つべく直立不動の状態で微動だにしない。

「味方の艦砲射撃に当たらないのかい?」

 上田が興味しんしんといった感じで身を乗り出す。

 この人は全く緊張感がないな。こっちは話してないと不安でしょうがないってのに……。ま、それで助けられているけど。

「そりゃ運の悪い奴は当たりますよ。運の悪いアンドロイドって言ったほうがいいか」

 浜田が自分の発言に可笑しくなったのか、笑い声をあげるも梶本少尉に睨まれて口を閉じた。

「いくらアンドロイドだからって、デリカシーが無さ過ぎる。彼らは私達の為に危険な任務に従事してくれている。感謝の気持ちをもつべきです」

 梶本少尉の表情は、ヘルメットで完全に消えているので分からないが、声から本気で怒っている事は伺えた。浜田が頭を掻きながらヘルメットを手に持ち、「すいません」とつぶやきながらそれをかぶった。

「アンドロイドもヘルメットを?」

「ええ、スムーズに会話が出来るからね」

 上田の質問に、佐川軍曹が答えた。五人の人間と六体のアンドロイドは小型シャトルに乗り込み、巡航艦から出発する。出発するというより、切り離されるといったほうが正確だろう。小型シャトルを係留していた固定アームが離れると、慣性の法則で宇宙空間に投げ出された小型シャトルが、くるくると回転しながら忙しく方向転換用アポジモーターを動かし軌道を修正する。

「こ……!」

 回転する船内で、森脇は酔い止め薬を飲んでおいて良かったと思った。視界が三六〇度回転する。宇宙には上も下もない。目を回していると、上田が彼にしがみついてきた。

 隊員達は慣れた様子でシートに座ったまま動かない。ようやく小型シャトルの動きが安定した頃、観測窓から白銀に輝く球体のステーションが見えて来た。

「あれが……」

 森脇の言葉に、イヤホンから梶本少尉の声が聞こえて来た。

「そうです。あれがイズモ。直径五〇〇メートルの球体型ステーションです。綺麗でしょう?」

「ええ」

 森脇はイズモに見入っていた。

「表面全体が発電用のパネルに覆われていますからあんなに輝いて見えるんです。重力の強い惑星上では出来ない金属合成や、薬物調合の大規模研究所が中にあります。それに今後、火星開発に必要になる新型アンドロイドの研究施設も」

 梶本の説明を聞きながら、森脇は漆黒の空間に浮かび上がる白銀の球体から視線を外さない。それは太陽光を反射させて煌びやかに輝いている。

小型シャトルはその球体の底に向かって航行した。操縦桿を握る佐々木の声が、イヤホン越しに聞こえてきた。

「ナスノヨイチから入電。諸君の健闘と無事を祈らん」

 なんか本当の戦場に行くみたいじゃないか。

 森脇はそんな事を考えながら、自分の足元に設置されてあった酸素ボンベを取り上げた。これ一つで四八時間分の酸素を補給できる。

「あと、お二人にもこのバックパックを背負ってもらいます」

 軌道が安定してから、船内では隊員達がシートベルトを外して準備を始めていた。マスクで顔は分からないが、バイオスーツの胸に表記された名前で、話しかけてきたのが佐々木だと分かった。自動操縦に切り替えた様だ。

 彼女の手には、登山用のバックパックを連想させる大きさのそれがあった。といっても外観はプラスチックの箱のようなものだ。

「プラスチックではないですよ。素材はこのバイオスーツと一緒です。ここに酸素ボンベをこうして入れて」

 彼女の説明通りに、二人はバックパックのサイドポケットに酸素ボンベを突っ込む。

「で、本体の中には栄養剤、鎮痛剤、抗生剤の注射と……これはエタンフェタミンの注射。各三本ずつあります。エタンフェタミンだけは、出来るだけ使わないでください。でも、体力的につらくなったら打ってください。使った場合はカグヤ宇宙基地に帰って必ず、医師の診察を受けて、解毒剤を出してもらってくださいね。さもないと中毒者になります」

 エタンフェタミンは古くから疲労回復剤として使われてきた歴史がある事を森脇は知っていた。依存性が高いことも。

「それと、これは携帯食糧です。キャップを外して吸い込むだけ。味はアップルしかないですが、我慢してください。一日分の栄養補給ができます。それと飲料水の入った水筒」

 食事というより、栄養補給だなと上田が笑う。佐々木もそれに笑い声を返してきた。

「カグヤに帰ったら、美味しい懐石料理のお店にお連れしますから我慢してください。最後に医療ボックスの中に止血用のゼリーと、冷凍スプレーがあります。軽傷の場合は患部に止血用ゼリーを塗れば出血が止まりますが、それが間に合わない場合は、冷凍スプレーを吹きかけ、患部を凍らせて止血します」

 うなずきながら医療ボックスの中を確認した二人は、佐々木がするように背中に背負った。上田が首を捻りながら声を出す。

「思ったより軽いですね」

「ふふ。ここは無重力だからですよ。実際には三キロ程度はあります。イズモの中に入って、あそこの重力装置が生きていれば、いきなり重さが襲ってきますから、最初はびっくりするはずです。酸素ボンベにヘルメットからホースを伸ばして接続してください」

 森脇は顎の下にあったフックを引っ張り、ホースを伸ばして酸素ボンベの口の部分に差し込んだ。わずかの抵抗を感じた後、程よい空気がヘルメットの中に流れ込んでくる。

「空気のあるところでは、酸素ボンベを使わないでください。ステーション内は通風装置が生きているようですから、呼吸に支障がなければ酸素ボンベのノズルは閉じてください」

 親指を立ててみせた森脇に、佐々木も親指を立てて見せる。

「そろそろハッチを開きます。真空状態になりますから、心の準備をしてくださいね」

 佐々木の無表情のマスクに向けて、森脇がうなずいて見せた。


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