マスク、バトル、パンツ
真夜中の住宅街、その一画に小さな二階建てのアパート。一階の角部屋、ベランダに女性物の下着が干してあった。部屋の明かりは消えているので、無用心な事に下着を干したまま寝てしまったのだろう。
夏の湿った夜風に揺れる下着に黒い影が忍び寄る。ベランダの柵に手をかけ、もう一方の手を下着に伸ばす。
パッ、と唐突に部屋の明かりが点いた。その瞬間に逃げれば良かったものを、影の主はギクリと固まってしまった。
部屋の中に人影が立ち上がり窓をガラリと開いた。
現れたのは美しい黒髪の女だった。桃色の寝間着を見に纏う女は、下着に手を伸ばしたまま固まっている、あからさまな泥棒仕様の覆面で顔を隠す男を見下ろした。
女性らしく驚きに悲鳴をあげることもなく、女は冷ややかに男を見つめ口を開いた。
「汝、近頃噂たちける下着ドロと見受ける。されば我によりて罰を与えたもうや」
男が悔しげに口許を歪める。
「ええい、やあ、口惜しや。我が手しばらくあらば汝の下着届きけり。ええい、口惜しや」
女が跳躍する。桃色翻し男に躍りかかる。
「おのれ、捕まってなるものか。やあ」
男、柵より手を離し逃げんとす。その背女の指かすりたるも男取り逃がしたり。
「ええい、やあ、待て、待て」
女、素足にて地を蹴り男追いたる。
男、懐より取り出したるもの地に撒き。
「くらえ、くらえ、万事が時備えたるまきびし、くらえ、くらえ」
女跳躍しこれを躱すも、そのうち1つ避けること叶わず膝折地に伏したり。
「おのれ、口惜しや、素足でなければ、ええい、口惜しや」
勝敗決したり。男、ようよう闇に紛れ姿消したり。
ああ口惜しや。女、闇に叫びやる。
「この恨み晴らさでおくべきか!」
了