星の観察者
星の観察が、彼女の趣味だった。
何が面白いのか僕にはわからなかったが、一応付き合っている間柄なので時々彼女に合わせて僕も星を観察する。
「見なよ、あの星。もうすぐ寿命だよ」
望遠鏡から顔をあげた彼女は、真っ黒な空のどこかを指さして言う。僕は彼女と入れ替わり望遠鏡を覗く。どうやら遠く離れた銀河系にある1つの星を指差しているらしい。
でも僕にはどの星にもまだ寿命があるように見えた。
「……どの星のこと? どれもまだ元気じゃない?」
僕の問いに彼女は「ほら、あれ」と指を伸ばす。
「あの星は確かに本当はまだ寿命があるんだけど、そこに住んでるヤツが馬鹿なせいで崩壊が早まってるんだ。もう中身はスカスカだよ、あの星」
とてもそうは見えない遥か彼方の青い星を見る。
僕は虚しくなって呟いた。
「……結局潰しちゃうんだよね」
うん、と彼女がうなずく。
「初めて自分たちの星を手放した時は反省してるくせに、居着いてしばらくするとまた資源に手を出すんだ、過剰に。それで結局、同じことの繰り返し」
だから僕は普段星を見ない。あっちでもこっちでも、かつて星を共にした仲間が過去の過ちを繰り返しているからだ。
僕はため息をつく。
「文明を捨てるために記憶まで消して移住までしたのに、結局また文明をつくりだすんだ」
彼女が続く。
「安全のため先に住んでた大型の動物も絶滅までさせてね」
記憶を捨てたところで結局は同じことを繰り返す。しかし、記憶を持ったままこの星に移住した僕らの祖先が正しかったのかと言えば、そうでもない。
ねぇ、と僕は彼女に聞く。
「この星も、寿命が縮んでるのかな」
当然よ、と彼女。
「私たちは今さら文明を捨てることなんてできないし、どうせこの星もそのうち手放すに決まってるわ」
どうしようと僕らは星の寿命を縮めてしまうらしい。もしかすると、そういう生き物なのかもしれない。
僕は青い星を見つめていった。
「……あの星の人たちも、僕らみたいにこの星を観察してるのかな」
彼女も星を見つめたまま応えた。
「さぁ? あの星はまだ私たちの文明においついてないから、たぶんこの星も見えないわよ。別の星に移住するのも無理そうだし」
彼女は明日からもあの星を観察するのだろう。
「きっとあのまま地球と共に滅ぶわね」
あの青い星が寿命を迎える、その日まで。
了