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一時間で書きました  作者: 己紫尾 尽座
16/16

甜菜、記念日、鈴

 鈴が鳴る。それが我が家の食事の合図だ。

 呼ばれてリビングに行くと妻が先に夕食をとっている。私も無言で向かいに座り用意された夕食に手を付ける。

 ここ数年、私と妻は会話というものをした覚えがない。用があれば鈴を鳴らし、用意されたメモ書きで用件を確認する。私がメモ書きにしたがって用を済ませたり、その答えを書いたりしている間も、妻は私の方を見ない。そういう関係が続いていた。

 どうしてこうなったかは分からないが、私はいい加減にこの関係を終わらせたいと思っていた。

「なぁ」

 数年ぶりに家の中で出した声は、やたらと響いてるように感じた。

 妻が食事する手を止める。しかし顔は上げない。

 私は勇気を出して聞いてみた。

「僕は君にとって何なんだ? 僕達は夫婦のはずだろ?」

 妻はじっとテーブルの一点を見詰める。暫く待ってようやく、妻は目を逸らすようにしながら静かに答えた。

「……テンサイ」

 私はその言葉の意味を考えた。妻の数年ぶりの言葉だ。きちんと受け止めなければならない。

 テンサイ……天才?

 私はハッとした。まだ私達が付き合いたての頃、まだ彼女だった妻は私と喋る事に臆していた時期があった。あくまで妻から見ての話だったが、私があまりにも天才的に見えて話しづらかったという事らしい。

 つまり妻は、今でも私を天才と感じるような憧れを抱いていて、それで目も合わせられないという事なのか。

 私は嬉しい反面なんだか照れ臭くなって、結局そこからまた何も話せなくなってしまった。

 妻もそれ以上何か言う事はなく、いつものように二人とも無言のまま夕食を終える。

 しかし私はこの日を記念日にしたいような満足感を胸に抱いていた。



「あら、それで奥様はなんて答えたの?」

「それで私、思わずテンサイって答えちゃったの」

「甜菜って、お砂糖の原料の?」

「そうそう、みんな砂糖は好きだけど、その前の甜菜は食べられないし、好きな人なんていないじゃない? 私もあの人は好きじゃないけど、あの人が稼いでくるお金は好きだから、なんだか甜菜と似てるって思っちゃったのよ」





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