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一時間で書きました  作者: 己紫尾 尽座
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土着信仰


 鰯の頭も信心から、という言葉がある。

 信じればどんな物でも魔除けになったり福寄せになったり果ては神様になったりもする。実際の効果効能は別として。

 俺が引っ越してきたこの土地は文字通り鰯の頭が信仰されていた。

 いわゆる土着信仰というやつで、鰯の頭が村を救ったという言い伝えがあるらしい。なぜ鰯ではなく鰯の頭なのかは分からないが。

 とにかくその土着信仰のお陰で、他の村人と同じように、鰯の頭を捨てる事は許されない。食べ終えた鰯は頭だけを別にして、神棚に1日置いてから村唯一の神社に持っていくのが習わしだった。

 都会の喧騒に疲れて田舎に越してきたは良いが、誰かが言っていたように、田舎は田舎で面倒な事もあるのだ。

 しかし住めば都とはよく言ったもので、俺もこの村の暮らしに慣れ、そのうえ村で数少ないうら若い娘を嫁に貰う事になった。

 相手方の親に挨拶を済ませ、挙式の日取りを決め、意外とすんなりと事は進んだ。

「本当に私で良いの? 都会にはもっと可愛らしい人が……」

「何を言ってるんだ。都会の女の容姿は作り物で、みんな心が汚れてるよ。君はそのどちらでもない」

 彼女は僕の言葉に顔を赤くして、挙式が待ち遠しいと答えた。

 そしてその日を迎える。

 式は田舎らしく神前式の形を取り、その後披露宴を行った。

 村人全員どころか、村人は僕と全く面識のない親戚まで遠くから呼び出し祝ってくれた。思った以上に盛大に祝われ、これが田舎ならではの良さなのだと僕は感動した。

 幸せな気持ちでその日を終えた。

 新婚旅行が済んだ頃になってようやく、僕は結婚式で集まったご祝儀の勘定をする事にした。あまりに村人の人が良くて、お金を数える下世話な事に少し抵抗があったのだが、妻となった彼女から急かされてようやく手を付ける事にした。

 少し嫌らしい話だが、先に言った通り予想外に参加者が多かった為に、集まったそのご祝儀の金額に結構な期待をしてしまう。

 しかし奇妙な事があった。ご祝儀はまとめて袋に入れたきり見ていなかったから気付かなかったが、祝儀袋はどれも膨らんでいる。何か入っているようだったが、それ以上に臭いが気になった。

「おい、何かこの袋全部、生臭くないか? どうして祝儀袋がこんなに臭うんだ」

 僕がそう言うと、妻が振り返って答えた。

「おめでたい時に縁起物を送るのは、当然でしょう?」


 

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