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一時間で書きました  作者: 己紫尾 尽座
10/16

左利き

 左側に物があると落ち着かない。

 昔からそういう性癖があった。恐らく左利きだからだろうと思っていたが、心理学によると元々人は本音の出やすい左側に来られるのは嫌なものらしい。確かに左利きの殆どは環境、というよりは社会に合わせて両利きに変わるのだ。だから左側に来られるのが苦手というのは、僕の内気な性格が理由なのだろう。とにかく僕は左側に、特に人がいると落ち着かないのだった。

 それなのに、彼女は今日も僕の左側に座る。

「人の本音って左側に出るよね」

 食堂で学食をとっている僕の左頬を突つき、からかうように彼女は笑う。

「じゃあ僕が嫌がってるのも分かりますよね」

 面倒な事に、彼女は同じ学部の先輩だった。ある日一人で学食を食べていた僕に何故か目をつけそれから毎日昼食のたびに絡んでくるようになった彼女は、噂によると、やはり変わり者らしい。

 心理学を学ぼうとする奴は変態だ、と言った友人の言葉を思い出す。これもその一種なのだろうか。

 先輩が僕の頬を指でぐりぐりと押す。

「またまた~、本当は嬉しいんでしょ」

 それを手で払いながら、僕は学食を口に運ぶ。

 無理矢理聞かされた話によると、先輩はカウンセラーになるのが夢らしい。心を閉ざした人達を救ってあげたい、との事。

 その話を聞いた時に、例えば僕みたいな人間ですか、と意地悪く言った僕に先輩は、うん、と全く悪びれる様子もなく答えたのだった。

 毎日毎日、先輩は僕に話しかけてきた。箸を握った左手でわざとらしく壁を作っても構わず話しかけてきた。テーブルの左端に座っても椅子を持ってきて必ず左側に座ってきた。

 僕はため息をつく。

「心理学を学んでるんですから、左側が嫌がられるのは知ってるでしょう」

 椅子を全くこちらに向けて座る彼女は、楽しそうに言う。

「一種の荒療治だよ。こうやって強引に本心に近付いた方が右側から話すよりもずっと早く打ち解けられる、ってのが私の持論でね」

「僕で検証って訳ですか。結果はどうですか」

 顔を向けずに言った僕に彼女が笑みを浮かべて答えた。

「上々かな」

 呆れた事に自信満々のようだ。

「そうですか」

 ため息混じりにそう言って、僕は箸を握った右手で学食を口に運んだ。



 

 

 

 

 これ投稿した後で勘違いに気付いたんですが、作中にある「心理学では左側~」とか何とかは作者の勘違いです。むしろ左側に座った方が好感をもたれるらしいです。だから皆さん積極的に左側から話しかけましょう。

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