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「本当にごめんな、アル…」
「いえ…事実ですし…」
しばらくして己の失態に気づいたマコトは、必死になってアルフレドに謝った。そんなマコトをミックは冷ややかな目で見ていた。
「マコトさんとアルフレドは知り合いだったのですね。それにしても、アルフレド…ふふっ…」
アレンはまだ先ほどの笑いを引きずっているようだ。隠しきれない笑いが漏れている。そんなアレンの様子を見て、マコトは再度ゴメンと呟いた。
「さっきも言いましたけど、マコ先輩とはゼミと寮が一緒だったんです」
「一緒に飯食ったり、風呂入ったりしたのになぁ。全然わかんなかった。アル立派になったなぁ。そっか、宮廷魔術士になったのか」
アルフレドの全身をくまなく見ながら感慨深げにマコトはあのアルが、と呟いた。
「ってか先輩、今まで何やってたんすか!?登用試験に現れなかったって、一時期凄い騒動になったんですよ!!」
「え、そうなの?」
アルフレドの言葉に心底不思議そうな顔をするマコト。そんな状況をフォローするように、アレンが口を挟んだ。
「そういえば数年前、マコトといい人物が指名手配一歩手前まで行ったことがありましたね。随分、優秀な魔法使いなのに見つからないとかなんとか」
すっかり忘れてましたけど、とアレンは付け加えた。
「優秀…それって、違うマコトさんなのでは?自分は大したことな…」
「何言ってるんですか!万年主席で、光以外の全属性を使える人が!!」
マコトの言葉を遮って、アルフレドが叫ぶ。必死に努力した結果が主席なだけだと、自分を優秀だとはこれっぽっちも思っていないマコトは所在無さげにポリポリと頭をかいた。2人のやり取りを傍観していたアレンは、光以外ん使えるというアルフレドの言葉に何かを思い出した表情を浮かべた。
「光…と言えば劇の演出で使用されていましたよね、光属性の魔法」
「あ、それ、俺も気になりました。あんな綺麗な光を出せる魔法石、先輩どうやって手に入れたんですか?」
後輩にすらたかる万年ビンボーだったのに、とアルフレドは続けた。そんな2人の言葉にマコトは、魔法石は使っていない、と事も無げに答えた。するとアルフレドは、これでもかと目を見開いて、
「えぇぇぇ!?先輩って王族の落としだねぇぇぇ!?」
と、すっとんきょうな声をあげたので、すかさずんなわけあるか!!とマコトは突っ込みを入れた。
「使ったのは紋章術だよ。ほら、研究してたやつ。あれを完成させたんだ」
マコトの言葉に、アレンとアルフレドは驚いた顔を浮かべた。今まで王族以外では魔法石を使うことでしか使うことができなかったものを紋章術で実現できる。それが本当だとしたら、物凄い発見だ。
「もしよろしければ、その紋章を見せていただけないでしょうか?」
驚きで浮わつく声をできるだけ平素に近づけながら、アレンはマコトに尋ねた。それはかまわない、と言いながらもマコトは困ったような表情を浮かべている。
「何か差し支えがあるのでしょうか?」
アレンはマコトに再度尋ねた。やはり新しい発見を簡単には見せたくないのだろうか、とアレンが考え始めたときマコトが口を開いた。
「見せることは全く構わないのですが、かなり複雑な紋章で。書くには書けるんですが時間が…今日は紋章を描いた本も持ってきて無いし…」
マコトが困った、と呟くと今まで黙りを決め込んでいたミックが口を開いた。
「マコト。お前アホか。ここに無い紋章でどうして今日光を出せたんだよ。背中見せればいーじゃん。背中」
ミックの言葉に、はっとし普段意識していないから忘れてた、とマコトは恥ずかしそうに頭をかいた。幸い、黒子の衣装は後ろ開きの作りになっている。
「ちょっと見苦しいですけど、背中に描いて…というか彫ってあるんで、それでもいいですか?」
通常、紙や空中に魔力で描く紋章が、背中に彫ってあるというマコトの言葉に2人は驚きながらも、紋章を見たいという気持ちが勝ったのか、それについては何も触れず、マコトが肌を見せても構わないなら、と承諾した。
2人がゴーを出したことを確認すると、マコトはくるっと周りアレンたちに背中を向けた。そして背中側にあるボタンを器用に外していった。