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王妃たちが退室した後、だれるミックをよそにマコトはいそいそと片付けを進めていた。道具や人形を所定の位置に納め、すっかり舞台はただの箱に戻っていた。
箱にタイヤがついたようなそれを室内から運び出し明日まで預かってくれるという侍従に渡すと、マコトを呼ぶ声がきこえた。
「マコトさん、ミックさん。素晴らしい劇をありがとうございました。私、宮廷魔術士長のアレンと申します」
全身をスッポリっぽりと包むローブを着た男は、マコトとは反対の真っ直ぐな白銀の髪の持ち主だった。
「楽しんでいただけたなら幸いです」
自分の頭よりだいぶ高い位置にある中性的美貌から目をそらしつつ、マコトは返答した。心臓に悪いものは見なければいい、というのがマコトがこれまでの人生で得たことのひとつだった。
続いてアレンは劇やその演出についての感想を口にした。アレンの感想を聴きながら、マコトはそこから何かを得ようと必死になる。劇を少しでも良いものにするためだ。
「すごく参考になります。ありがとうございました」
アレンに感謝を伝え、お辞儀をしたときに、ふと自分が頭巾をかぶったままだということに気がついた。注意もされなかったのでそのままでいいかとも思ったが、もう必要無い以上脱帽した方がいいだろう、とマコトは頭に手をかけた。
脱帽しなかった旨をアレンに謝りながら、マコトは一気に頭巾を外す。途端に低い位置でひとつにひっつめられたくせっ毛が自由になる。その瞬間、はっと息を飲む音とやっぱりという声がきこえた。気になってマコトが声のきこえた方へと目を向けると、そこにはアレンと同じローブを着た茶色の髪をした男が驚いてます、というような顔をして立っていた。
「マ、マコ先輩ですよね?俺のこと覚えてます??学院で同じ寮だったアルフレドです!!」
アルフレドと繰り返し呟きながらマコトは記憶を探った。学生時代は知らぬ間にすっかり遠い昔のことになっていた。
「ほらほら、紋章術のゼミで一緒だったじゃないですか!!」
その瞬間、マコトは霧が晴れたかのような顔をしてあぁと呟いた。
「フィー先生のことを女性だと思って告白して玉砕したアルかぁ!!」
思いがけず己の黒歴史を暴露されたアルフレドは、上司であるアレンが笑うのを止め、声をかけるまで固まっていた。