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間に休憩を挟んで、物語は佳境を迎えていた。野獣が人間へと戻るシーンである。
マコトは魔力を細く紡いだ糸のようなもので、メインの人形たちを思うがままに動かしている。サブの人形たちはあらかじめ決めた動きを組み込む形をとっていた。音楽や演出もほとんどは魔法石を使って組み込み済みだ。そのため上演中のほとんどは、糸でつなかった人形を動かすことに集中している。
魔法を使っているとはいえ、人形たちを活き活きと動かすにはそれなりの時間と練習が必要だった。その努力の成果をこれでもかとつぎこんでマコトは野獣を人間へと変身させていった。
野獣が人間にもどった瞬間、観客席から感嘆のため息が漏れた。それを聞き漏らすことなくききとったマコトは黒子の衣装のなかで微笑みを浮かべる。
一番の山場を終え、物語は終演を迎えた。マコトは部屋の灯りを元の明るさに戻し、ミックに目配せした。
「これにて人形劇、美女と野獣は終幕です。司会は私ミックが」
その言葉に続いてマコトは舞台の横に出ると、顔を覆っていた布をめくりあげ、
「人形は私マコトでお送りいたしました」
「「今宵はご観劇のほど、ありがとうございました!!」」
2人が深々とお辞儀をすると、部屋中から拍手が巻き起こった。拍手が落ち着くと、おもむろに王がマコトたちに感謝の言葉を述べ、今夜は城に泊まるよう伝え退室した。
続いて王妃や王子、王女らも退室するかと思いきや、マコトたちの方へ向かってきた。子どもたちはやや小走りである。どうやら3人の目当てはミックのようだ。興味津々といった目でミックを見つめている。
「ねぇねぇ、クマさん。クマさん」
王女がミックに話かける。
「レディ。私はクマさんではなくミックといいます」
普段の不遜な態度とは180度異なるミックの態度に、マコトは苦笑いを浮かべた。
「ミック。ミックは本物のクマさんなの?」
「いいえ、私も人形です。触ってみますか?」
「なんだー偽物か。じゃぁお前弱いのか?」
王女に続いて王子もミックに話しかける。念のため、ミックは悪い顔をしたテディベアだ。決してリアルクマなビジュアルではない。
ミックは触りたいという王女を抱き抱えながら、王子に己の武勇伝を語っていた。ミックの話をきく王子の目は次第にオトコをみる、尊敬の眼差しへと変化していった。
そんな3人‐正確には2人と一体の様子を見ていたマコトは、ふいに王妃から話しかけられた。
「マコトさん。今日の劇、本当に素晴らしかったわ」
「お褒めにあずかり、光栄です」
王妃の言葉に返答しながら、マコトは丁寧にお辞儀をした。王妃は微笑みながら、物語は幸せな終わり方が一番よね、と語りかけた。私もそう思います、とマコトが返すと、
「また、ぜひ幸せな物語を見せてくださいね」
と言い、もう寝る時間よと2人の子どもを促した。子どもたちは不満そうな声を漏らしたが、聞き分けがいいようだ。ミックの腕からおりた王女と、いつの間にかミックを師匠と呼ぶようになった王子は、マコトたちの方を向いて、
「今日はわたくしたちのために劇をしてくださってありがとう」
「ありがとう。また来てください」
可愛らしい感謝の言葉にマコトとミックは微笑み、おやすみなさいと退室する3人を見送った。