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その日の上演は、傍目から見るといつもと勝手が違っていた。
まず観客が豪勢な点。王子に王女に、なぜか王と王妃までがいた。城内にいる王族で欠席しているのは、第一王子だけだ。
次に周囲を騎士や魔法騎士、宮廷魔術士に囲まれていた。一応、攻撃など不穏なことができないよう結界がはられているが念には念をということなのだろう。
そんな状況にも関わらず、マコトもミックも緊張のきの字すら伺えない。いたって通常営業。
「ただ今準備中です。今しばらくお待ちください。オラ、マコト!王様を待たせるんじゃねぇ!!」
前半はこれでもかというぐらい丁寧に、後半は乱暴に言いながらミックは舞台風な屋台の後ろでごそごそしているマコトのお尻を蹴りあげた。
「うわっ!ちょっとミック止めてよー」
勢いあまって、屋台の反対側から頭を覗かせるマコト。すぐに頭をひっこめると、今度はお尻をつきだした。そうしてごそごそ、ガチャガチャと大げさに準備の音を響かせる。
このアホらしい掛け合いも演出の一部。実際、王子と王女は裏側でいったい何をしているのか、これから何が始まるのかとそわそわしながら目を輝かせている。王と王妃は、そんな子ども2人の様子をにこやかに眺めていた。
マコトは舞台裏に控える人形たちにやや声量を抑えて語りかける。もちろんこれも演出のうち。
「位置についた?ちょ、そこじゃないこっち。え?化粧のノリが悪いから出たくない?ワガママ言わないで位置についたついた。うんうん、君が一番キレイだから。はいはい」
しばらくの間バタバタとした足音が響き、音がやんだ。
「ミックー準備できたよー」
「おっせーんだよ。オラ、お前も位置につけ!」
そうしてまた蹴られたマコトは、やや勢いよくミックとは逆側の屋台横へ立つ。それを確認すると、ミックは姿勢を正した。
「長らくお待たせいたしました。人形劇、美女と野獣を上演いたします。」
面白いときは笑い、悲しいときは泣き、合図をしたときは手拍子して欲しいことを伝えるミック。そして最後にマコトとミックは声を揃えて告げた。
「「それでは、ごゆっくりお楽しみください」」
2人が深く一礼すると同時に、部屋の灯りが必要最小限までおちていく。すると、舞台前面に取り付けられた両開きのフタが開き、まばゆい光が薄暗い部屋に差し込む。それが、上演開始の合図だった。
街の人々がそうだったように、王子も王女も王妃もすっかり目の前で繰り広げられる人形劇に夢中なようだ。泣き、笑い、ときには手拍子という形で舞台に参加しながら、思い切り楽しんでいるのが見てとれた。それ以外の人々はというと、劇よりも演出や人形を動かために使われている魔法に気をとられているようだ。
特に光の演出については、皆が頭を悩ませていた。王族しか使うことができない光の魔法。使うとしたら、光の魔法を込めた魔法石を使うしかない。だか、ここまでまばゆく使うには結構な値段の、質の良いものを使う必要がある。というか、それしかない。ということは、このマコトと言う人物は結構な金持ちなのか。いや、マコトなんていう金持ちはきいたことがない。ということは、パトロン、あるいは、パトローネがいるのか。
1人を除き皆が皆、同じ結論にいたった頃、劇はインターミッションに入っていた。
皆とは異なる結論、いや光の魔法とは関係のない事実に気がついた人物は、束の間の休憩にざわつく室内で小さく呟いた。
「マコ…先輩…?」
その小さな問いかけに応えるものは誰もいなかった。