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王都の外れにある、赤い屋根の小さなおうちに不機嫌そうな声が響いた。
「おい、マコト。妙に仰々しい手紙が届いてるぞ」
人形の手入れをしていたマコトは、ミックの声に顔を上げた。少しウェーブのかかった真っ黒なポニーテールが左右に揺れる。部屋着なのだろうか、いつもの黒子姿ではなくタンクトップと短パンを身につけたその姿は大変涼しげだ。
不遜な態度に不似合いなミックの可愛らしい手に目をやると、封蝋で閉じられた手紙が握られていた。
「なんだろな、と」
腕を伸ばしミックから手紙を受けとると、マコトは椅子の上であぐらをかいた。次いで手紙の差出人を確認する。途端にマコトはあまり大きくない目をつむり、眉間をもみこみながらため息をついた。
「どうしたんだよマコト。いつもの不細工が輪をかけて不細工になってるぞ」
「クマに人の美醜がわかるのかよ。ってか、差出人見てみろよ」
ミックの発言に突っ込みを入れつつ、マコトは手紙を投げ渡した。野生のクマのような俊敏さで手紙をキャッチすると、ミックは言われるがまま差出人を確認した。
「…お城からか?」
「そう。面倒な予感がする…」
こんな一般人にお城からの手紙なんてろくなことじゃない、とマコトはため息を重ねた。一方ミックは、意外な器用さで手紙を開封し、その内容を読み始めた。背もたれに体重をかけ、ギシギシと椅子を揺らしながらマコトはミックに手紙の内容を問う。
「あー第二王子と第一王女のために城で劇をして欲しいんだと。あと、使う道具の安全を確かめるために2日間道具を預けろだって。上演は来週頭。道具は明後日までに城の門番に渡せだってよ」
上演回数に比例するように、マコトとミックの人形劇はその人気を高めていた。その評判をお城の誰かが耳にしたのだろうか。
「えーそれじゃぁ週末上演できないじゃん。皆楽しみにしてるのにーかきいれどきなのにーミック断ってきてよ」
「アホ言うな。下手に断って広場の使用許可とか諸々に響いたら余計面倒だろ」
綿づめのクマの割に常識的な意見だとマコトが偉そうに言うと、ミックが怒りの鉄拳をお見舞いする。
「痛ぇー綿のクセに痛ぇー」
殴られてもなお反省の色を見せないマコトにミックはため息をついた。
「だいたいお前は、人に楽しんで貰いたくてコレ始めたんだろ」
「うん」
「その中に王子や王女は入らないのか?」
「入る」
「だったらやるしかないだろ。例えものすごーく面倒でも」
「うん」
クマに、それもぬいぐるみに諭されてしまったマコトはやや不貞腐れながらも、その通りだと素直に納得した。
「そうと決まれば、やることは…」
「明後日までは通常営業。週末は休み。週明けに登城」
「わかってんじゃねぇか。休みの告知は俺がやってやるよ。ありがたく思え」
「…ミック!!」
思わずマコトがミックに抱きつくと、思い切り頭突きをかまされた。涙目になりながらも、自分は本当にいいパートナーを持ったと嬉しくなるマコトだった。