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「さぁさぁ、もうすぐ劇が始まるよ!!」
飴色の木製屋台の横で、ちょっと悪い顔をした大きなクマのぬいぐるみが呼びこみをしている。ぬいぐるみとは思えない活き活きとした様子は、子ども達の心を掴んで離さない。
「ミック!ミック!!あれから野獣と美女はどうなったの?」
「ミックは野獣に会ったことある?」
「私、野獣よりミックが好き!!」
相変わらず暑そうな黒子の衣装に身を包んだマコトがせっせと準備を進める中ちょい悪クマ、改めミックは子ども達の質問攻めにあっていた。初日の劇を終えた後、今のミックのように質問攻めにあったマコト。これでは準備も片付けも思うようにならないと生けに…パートナーとしてミックを作り、接客を任せてみたのだ。首尾は上々である。
「続きは見ればわかる。野獣には会ったことが無い。むしろ、俺が野獣だ。気持ちはありがたいが、俺は青い果実より熟した方が好みだ。ほら、お前らちゃんと座れ!劇が始められないだろ!!」
性格に少々難があるが。
「ミック、準備オッケーだよ」
「リョーカイ」
マコトの言葉を受けてミックは姿勢を正した。そして恭しい態度で声をはりあげる。
「お集まりの皆様、開演のお時間にございます。どうぞごゆっくりお楽しみください」
ミックが言い切ると、1人と1体は舞台の両脇に立って一礼した。同時に広場一杯に音楽が広がる。
その劇は人形劇らしくない人形劇だった。舞台の裏に下がったマコトの合図で人形たちは活き活きと物語を演じ始める。それを演出するのは光や風や水、ときには火の魔法だ。まるで生きている人間が演じているかのようだ。
そんな劇に子どもはもちろん、大人も皆ひきこまれていった。登場人物たちの滑稽な動きに笑い、活き活きとしたダンスに手拍子をし、主人公の健気な気持ちに涙を流す。
皆の様子をこっそりと伺うと、黒子の衣装の中でマコトは満足そうな笑顔を浮かべた。娯楽に飢えたこの国の人々に、マコトの人形劇は着実に受け入れられていた。
「天職だなぁ…」
そんなマコトのつぶやきは誰の耳に入ることもなく、消えていった。