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とある剣と魔法の国にひとりのアホがいた。
マコトと呼ばれるその人間は、類い稀なる魔力の持ち主。同時に異なる世界からうっかりやってきたただ1人の人間でもあった。
持ち前の楽観的思考と少しの涙で己の現状を受け入れたマコト。そして自身が知らぬうちに身につけた強大な力‐魔力を自分が、そして皆が楽しくなる事に使おうと決心した。
その正しい使い方を学ぶために国で一番の魔法学院に入学し、努力した。常に主席であったことからもマコトの頑張りぶりが伺える。そうしてこの国の王族しか使うことのできない光以外の全属性‐火、水、風、土、闇を身につけたマコトは学院を卒業した。
そんなマコトを知る誰もが、きっと立派な宮廷魔術士としてこの国を支えていくのだろうと期待していた。しかし、その期待はあっさりと裏切られた。魔術士登用試験にマコトは現れなかったのだ。
マコトに期待を抱いていた人々は、必死になって探した。しかし学院を出た後の足取りをつかむことは、ついぞ誰ひとりとしてできなかった。犯罪者でも無いマコトに手配をかけることもできず、しばらくして探索の手は緩められていった。
それから数年後のある晴れた日。王都の中央にある広場に小さな舞台風の屋台をひいた人影が現れた。黒子の衣装に身を包んだその姿はまさに影。顔を隠しているため表情を伺うことができないが、傍目に見ても大変暑そうである。
その影はいそいそと何やら準備を行うと、広場から四方に続く商店街いっぱいに響くような声で叫んだ。
「マコの人形劇が始まるよ!!」
物語の開幕である。