悪魔の美酒。ETA ホフマン原作、その7 副題、カロー風幻想曲の作者によって出版されたカプチン会修道士メダルドウスの手記より。
第4章「侯爵邸での生活」
私は領主の町に到着した。
ここはこじんまりとした、まるで公園のような文化都市だった。
私が泊まった宿の話によると、侯爵は大変気さくな人で公園を散歩しては気軽に住民に話しかけるというような人だという。
早速私も公園に行ってみると、そこには侯爵夫妻が散歩しているところだった、
侯爵夫人はまさに私の養い親(シトー会女子修道院長)にそっくりの気高い上品な優しそうな御方だった。
公園にいた人に聞いてみると、
侯爵はたいそう多趣味なお方で庭園造りや絵画、音楽、舞踊と興味を示しているという。
そして最近はファーロー(トランプの賭け事)に凝っていらっしゃるという。
しばらくしたある朝のことだった、
私が公園を散歩しているとばったり侯爵と出会った、
私が恭しく挨拶すると、侯爵は
『あなたはこの土地の人ではありませんね?」と声をかけてくれたのである。
そこから公園の話、そして芸術論、音楽オペラと話は弾んだもである。
『ところであなたはファーローをおやりですか?」と聞いてきた。
『いいえ』というと、『ぜひおやりなさい。今度私のサークルにお入りなさい」
と誘ってくれたのである。
そして別れ際、
『さて私はところで、どなたと楽しいお話をしたのですかな?」
というので
『私はレオナルトといい、学者で年金暮らしをして旅しているものです」と申し上げたのである。
さてその後私は指定された時刻にさっそく、宮廷に出かけたのである。
そこに集っている人はみんな気さくな人ばかりで宮廷というかたぐるしさなどみじんもない人ばかりだった、
一同が広間に移るとそこはファーローの会場になっていた、
私も早速ゲームに加わったが初心者の私は負け続けで、とうとう、最後の金貨になってしまったのである。
私は意を決して最後の札を見もせずに引いた、
それはクイーンだった。
青ざめたクイーンの顔に私はアウレーリエを見るような思いがしたのである。
私は最後の金貨5枚をクイーンに貼った。
そして勝ったのである、続けて私はまたクイーンに張った、また、勝った。
クイーンを引くごとに貼りそして勝った。
人々は声を上げて
「奇跡だ、奇跡だ」と叫び続けた。
最後の勝負で私は金貨2000枚のもうけだった。
いったい何がどんな魔力が私を勝たせてくれたのか?
それは私を超えた未知の力であることは間違いなかった。
次の日、
侯爵に公園であった
話はトランプについてその不可抗力について及んだ、
そして今夜音楽会にいらっしゃいと誘ってくれたのである、
行ってみるとそれはありきたりの演奏で私はすぐ飽きてしまった。
次に皆が面白い話をすることになった、
宮廷の侍医が面白いアイルランド人(ユースン氏)の話した、
さてこうして私は宮廷に受け入れられて楽しく日々を送ったのである。
ただ一つどうしても奥方は決して私に近づこうとはされなかった。
私はある日そのことを侍医に聞いてみた、
侍医は話し始めた・
「実はですな。あなたがある人にあまりにもよく似ていることが奥様を不安がらせるのですよ。」
良いですか、絶対他言は無用ですよ。。
ここだけの話ですよ、
昔、侯爵が結婚なされたばかりのころ、彼の弟君が、遠い国から帰ってきたのです、
弟君はフランチェスコという男と異国の画家を連れて帰ってきたのです、
そして弟君は侯爵の奥様と不義の関係になり、フランチェスコも奥方の妹君と熱愛になったのです。
かくしてこの4人はエルドラドにいるような満足のうちに過ごしたわけです。
ところが、ある日、以前から弟君の御妃にしようかと考えられたイタリアの美しい公女がこの町にお立ち寄りになったのです。
公女はこの町に滞在し、弟君はこの公女に夢中になってしまってかっての恋人をみむきもしなくなってしまったのでございます。
フランチェスコもこの公女に惹かれたようでございました。
公女はあの画家を気に入り画室を与えて描かせていました。
やがて弟君と公女は決められた通りに結婚式を挙げたのです。
さてその晩新婚の二人の部屋で大きな物音がして駆け付けると、
弟君が部屋の前で刺殺されていたのです。小姓が見ていました。
弟君に成りすましてきた男のそのナイフをちらと見ていたのです、
そして犯人探しが行われましたが、暗がりで刺殺されたので誰がやったのか皆目わからないのです、
そこで近くに仕えていたあの画家が疑われたのです、
早速逮捕に向かいましたが、画家は、二日前に姿をくらましてしまっていたのでした。
公女はやがて妊娠していることがわかりました、
しかしそれは弟君が来る前に暗闇で、弟君に成りすまして忍び込み王女を瞞着して関係を持ち、その後やってきた弟君を
刺し殺して逃げた何者かの種である子供ですから、世間体から、公女は遠くの地に行って隠れて出産したのでした。
さてフランチェスコと妹君は晴れて結婚することとなりました。
そしてその結婚式の日、聖堂でミサが始まりました、その時、突然フランチェスコが
「俺に何の用だ」と叫んだのです。
見ると聖堂の隅に異国の衣装の画家が幽霊のようにこちらを見つめていました。
フランチェスコは、それを見ると突然ナイフを出して画家に向かって突進していったのです、
しかし画家に触れるかと思う間もなく失神して倒れてしまったのです。
画家はいつの間にか消えていました。
フランチェスコは気が付くとあわてて部屋にこもり
翌朝行ってみると既にフランチェスコは金目のものを持ったまま、逃亡してどこにもいなかったのです。
小姓が言いました、
フランチェスコさまのナイフがあの時弟君を殺した犯人のナイフにそっくりでしたと、
その時遠くに行って出産した公女が子供を産んですぐなくなり、
邪悪な所業の結果生まれた子どもはビクトリンと名付けられて遠くで養育されることとなったのでした、
このような恐ろしいい出来事に心引き裂かれた妹君は
修道院にはいられたのです、今はシトー会女子修道院の院長をされているお方がそうですよ。
侍医がそこまで話した時私は、心のざわめきを抑えることができなかった。
今こそはっきりわかったのだ、
フランチェスコこそは私の父だ、
そして私がヘルモーゲンを刺し殺した、あの、ナイフで、父は弟君を刺し殺したのだと、
私はこの悪魔の魔陣から一刻も早く逃げ出そう、明日こそにはイタリアへ旅立とうと決心するのだった、
その夜私は、宮廷サークルに顔を出した、
その夜、宮廷女官としてうつくしい令嬢がデビューすると人々は噂していた。
扉があいて領主夫人とその女官が現れた、
見ればそれはなんとアウレーリエその人だった。
第一部, 第4章、 終わり、
その8に続く、(全15話の予定)
次話は第2部、第1章「転機」です。
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